いとうあきら イベントの企画・運営・演出を本業とするも、無類の食べ歩き好きが高じて“食べ手”の視点で店や料理を紹介。過去の書き手になかった大人の切り口で飲食への愛情を示した。著書に『東京百年レストラン(T〜V)』。

2013年01月01日

あけましておめでとうございます

あけましておめでとうございます。

いつも新・大人の食べ歩きをお読みいただき、ありがとうございます。

次回は2月1日のアップとなります。

今年もよろしくお願い申し上げます。

『東京百年レストランII――通えば心が温まる40の店(亜紀書房)』発売中です。
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2012年01月01日

(51)茅場町「アメ」

“がむしゃら感”からの遠さが生み出す

新感覚の心地よいワインバー

あけましておめでとうございます。
今年も新・大人の食べ歩きをよろしくお願いします。

                ***

ここ1〜2年、日本の飲食シーンに関して強く感じていることのひとつに、レストラン運営に携わる皆さんの、意識の変化がある。

まともな収入も得られない長期の下積みや修業を経てやっと独立、とまではいいが、新たな開業に際し多大な投資が必須だった一昔前。料理人として大成したいなら、まずは良家の女性をゲットすること、と普通に言われた過去もあった。

ところが最近、特に若い料理人の独り立ちを見ていると「まずはやってみようよ」との彼らの声が聞こえてきそうな、「独立」の二文字にプレッシャー感のないレストランが多いように感じる。

もちろん当のご本人は本当にタイヘンだろう。でも、20年前と比較して、修業という過程に対するストレスの低さや、物件の価格下落、ネット口コミの発達で立地条件と店の繁盛にはあまり関係がなくなってきたことも大きい。でも、ぼくが個人的に一番変わった気がするのは、飲食店における女性の存在である。

一時代前の保守的な食の世界において、日本の場合、女性は陰で出資者となるか、マダムや女将といわれつつも一人のサービススタッフとして主人を支えるかの2通りだった。ところが最近は、女性の持つスキルや今まで培った経験もふまえ、自分達2人の店なんだから、「共に働こうよ」という強い空気が伝わってくるのだ。

それにはまず、男性側の理解と協調が必要となろう。もっとさかのぼれば、封建的な厨房内にて長期にわたる追い回しを体験したなら、男はなかなかそんな気分にはなれない。だけど、修業形態の近代化もあり(多くの人が未だに間違うが、修行ではなくやっと修業と言えるようになった)、自分ひとりがイバるより、協力して店を盛り上げていった方が、楽しいし合理的だとの変化が生まれたに違いない。

そして、リベラルというかフラットというか平等というか……、ぼくのような年齢からすると一番ピタッと来る言葉は「ほほえましい」ワケだが、そういった店側の雰囲気や意欲は必ずダイニングの客にも伝わり、確実に居心地のよさや再訪への意欲へと置き換わっていく。

ここ最近オープンした店で例を挙げると、「ビストロエビス」「アヒルストア」「たく庵」「くろいわ」など和洋も問わない。
料理には、一過性ではなくキチンと学んできた技量を十分感られる反面、毎日100%の力を出し切ろうという気負いは薄い。そして、意外にも彼ら2人から、5年後10年後の自分達のグランドデザインを聞かされることもあって密かに唸る。「がむしゃら」とか「ひたすら」といった言葉が普通に似合っていた飲食業界において、こんなにも最近の若い連中は冴えているのかと、「ひたすら」感心するのだった。

今回取り上げる「アメ」もまた同様に男女2人で営むワインバー。東京メトロの茅場町と水天宮前が駅としては近いので、路線で選ぶとよいだろう。長めのカウンターとテーブルが一卓、そして小さな立ち飲みスペース。カウンターの奥で腕を振るうシェフは、料理のウマさでも知られる「山利喜」という居酒屋からイタリアに渡り、日本に戻って「アメ」のオープンに参加した。明るくてゆるいキャラも魅力的だが、いったん背中を見せて鍋を持つと、その手際から料理の質の高さは容易に想像できる。加えて、共に働く女性が爽やかで美しい。シェフ同様にワインの特徴を語り栓を抜く。さらに、彼女の担当はパン。日替わりで何種類かの個性的なパンがメニューのトップにオンリストされていて、アミューズにも前菜にも主食にもなる幸せ。普段のぼくは、パンをつまみにワインを飲むことをほとんどしないが、久しぶりにそのマリアージュの素晴らしさを実感した。

こんな感じのノリから、「アメ」は東の「アヒルストア」とも称されるらしい。激混みの渋谷店より入れる茅場町店、が、最近の狙い目とのこと。

ところで、「アメ」なる店名は、「雨降って地固まる」から取ったそうだ。まるで結婚式や政治家の挨拶のようだが、そんな不思議な感覚もまた、「がむしゃら」からもっとも遠いところにある。

なお、この「アメ」という店。ウェブサイトによれば、意外にも多店舗展開をしているチェーンの一店のようである。例え現実にはそうであっても、店の成り立ちや個性を考えれば、立ち飲みバルチェーンの一形態というウェブでの打ち出しにはあまり感心しない。

「ワインバー アメ」
●東京都中央区日本橋箱崎町5-15エヴァーグリーンマツモト 1F
●Tel:03-3662-3226
●18:00〜翌2:00(月〜金)
●17:00〜23:30(土)
●日祝休
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2011年11月01日

(49)中目黒「ヒナアゲ嫡嫡(チャキチャキ)」

素揚げのコース1本で勝負!

大人のフライドチキン店

ぼくはニワトリがとても好きである。

大阪で生活をしているときには、チキンよりは肉(牛肉)文化な土地柄ゆえ、どちらかというと焼鳥や鳥料理のプライオリティは低く、定期的に通える店は少なかったが、東京に出てきて、かくも多種多様な鳥料理店があることに大変喜んだ。

加えて、定食屋のメニューに鶏の唐揚げを見つければ、まずはそこから注文する。蕎麦屋では「かしわ南蛮」だし、宮崎料理でもひたすら「地鶏の炭火焼」と「チキン南蛮」を食う。鶏一羽それぞれの部位をナマで提供する(現在は未確認)蒲田の「鳥樹」に出会った折には本当に感動した。

9.11の同時多発テロがあったおかげで断念したが、2000年の初めごろ、ニューヨークで焼鳥屋が開けないかと真剣に物件まで探したこともある。

世界最高峰としてフランスはブレス地方の地鶏が挙げられるが、そのブレス産地鶏をこれまた最高の調理法で食べさせる、ミシュラン三ツ星レストラン「ジョルジュ・ブラン」にも遠征してきた。

とは言いつつ、もっともオイシイ鶏の調理法は、限りなくB級に近いフライドチキンかローストチキンだと思っている。ナゼかというと、上記につらつらと書いてきた料理はそのほとんどが骨なし(骨抜きとも言えそう)だが、フライドチキンもローストチキンも、骨付きのままに調理されガシガシとかぶりつけるのがいいのだ。

現在のところローストチキンのマイベストは、ハワイ オアフ島でワイキキから車で1時間ぐらい走った島のちょうど真ん中辺にある「マウイ・マイクス」。いっぽうフライドチキンとなると、これは頭を抱えてしまうぐらいに迷う。

そんな中で、新たにぼくを悩ませるフライドチキン店が中目黒に登場した。「ヒナアゲ嫡嫡」である。

中目黒といっても、山手通り沿いでも商店街でもなく、駒沢通りと山手通りの交差点から少し恵比寿側に入って目黒方面に進んだ辺り。ジンギスカンの「まえだや」やワインバー「モノポール」の並びといえばわかりやすいだろうか。

ここは、エントランスの構えや洗練された内装から、レストラン運営のプロというかマーケティング的に計算された印象も受ける。つき出しにオニオンスライスを出すなど、自由が丘の有名店を模した感じも否めない。

でも、雛鳥の素揚げコース一本(現在のところ2000円)で勝負をしている潔さと自信に、フライドチキン好きとしてまず強い興味を覚えた。

食べ放題のオニオンスライスと、もう一品のお通し。砂肝もしくはナンコツ揚げいずれかと、手羽そしてモモの素揚げ、ラストのスープ。以上の流れがコースで、サイドメニューも野菜天ぷらやお新香等、数種しかない。この品揃えは、客には若干の寂しさも感じさせるが、素揚げ一本で行列を作っている自由が丘の有名店を模範とすれば、十分に勝算があると見たのだろう。

また、立石の「鳥房」や自由が丘の「とよ田」、蒲田で名店「なか川」の流れを汲む「うえ山」等に比べると、換気がすばらしいのは油を扱う店として特筆すべきで、火入れの絶妙さもピカイチ。席は、ゆったりと幅広くとってあり(その分はコストには跳ね返るが)大人仕様でもある。

そんな点も意識してか、油も塩も良質で全体的にマイルドな仕上げ。塩も控えめで、足りなければ別途テーブルで追加する仕組みは大変喜ばしい。また、ドンペリやクリスタルといった高級シャンパンがメニューにあるのも、そういったターゲットに対するアプローチだろう(個人的にはここで飲む人がいるとは思えないけど)。

なお「ヒナアゲ嫡嫡」は、チャキチャキと読ませ、江戸っ子らしい店を目指すコンセプトだそうだが、実際にはチャクチャクとしか読めないような気がする。個人的には、江戸っ子らしい威勢のいいチャキチャキ感というより、良家の嫡男が責任とプライドを持ってじっくり仕事をこなしている落ち着いた店、としてオススメしたい。

ヒナアゲ嫡嫡
●東京都目黒区 中目黒1-6-15ノブジィーハウス101
●03-5734-1318
●16:00〜23:00
●日休
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2011年08月01日

(46)Side Street Inn On Da' Strip

地元客に混ざって

観光客らしくENJOYできる

何度もお休みをいただいた上に、一か月に一回に戻すよう、家主にお願いをしてしまいました。訪問してくださる皆様には本当に申し訳ございません。

海外出張が続いて多忙という釈明をさせていただきましたが、もっと正確に言うと、海外でばかり仕事をしていて東京の紹介すべきレストランにほとんど行けていない、というのが本音のところです。

私事ながら、2011年はかなり稀有の年として記憶に残りそうです。というのも、私はイベントの企画・運営を生業にしていますが、今回の東日本大震災の影響で、今年予定されていた仕事の80%はキャンセルになりました。

ところが、すっかり仕事がなくなったおかげで、普段なら長く東京を空けることができない現状が、長期出張の依頼にもお応えすることができ、海外にばかり仕事の場が与えられるという流れになってしまったわけです。

**

さて、のべ20日以上に渡り、プラハとウィーンに滞在。それなりに食事はしたものの、さすがにその地のレストランを紹介するには、その土地自体があまりポピュラーとはいえない。

いっぽう、その後数日訪れたハワイでは、いくつもの収穫があった。オアフ島のしかもワイキキからタクシーで10分、歩いても30分もあれば行ける場所なら、ここに紹介するに値すると考え、今回はハワイのレストランを取り上げてみたい。

「Side Street Inn On Da' Strip」である。

ハワイには○○Innという建物が多くある。Innとは、英語本来の意味だと、東急インなどに使われるように宿泊施設をさすが、ハワイではドライブインからの発展形で、食事場所なことが多い。

もともと「Side Street Inn」という店は、巨大ショッピングモール、アラモアナセンターの裏辺りに存在し、ホノルルの地元では相当に知られたレストランだ。この店が広く認知されるようになったのは、ホノルルで著名レストランを展開しているスターシェフたちが、仕事が終わってからこの店に夜な夜な集まった、ということに始まるらしい。平たく言えば、東京は広尾にある「餃子の王将」に、仕事が終わった超人気フランス料理店などのスタッフが集まってくる様子と似ている。

シェフたちが集まる大きな理由は、きっと観光客が少なくて気を使わなくてすむ、からだろうか。場所が分かりにくく若干治安の悪い雰囲気を漂わせるエリアなこともあって(実際にはそんなことはないです)、ローカルレストランを代表する店とまで言われるぐらいの評価も受けていた。

その2号店が、「Side Street Inn On Da' Strip」である。Stripとは、日本人にはダイレクトにヌードショーを想起させてしまうが、アメリカでは、レストラン・ショップ・ガソリンスタンドなどが大通りの両側に立ち並ぶ街路を指す。確かに「Side Street Inn On Da' Strip」があるカパフル大通りは、昔「サム・チョイズ」の本店があったことでも知られた、まさにOn Da' Strip。なお、Daとは、ハワイローカルの言葉でTheのこと。やはり「th」の発音が難しいのは万国共通のよう。

徒歩で向かう場合は、ワイキキ目抜き通りの東端から、右手に動物園、左手にゴルフ場を見ながら北上すればよく、ハイウェイワンから車をつかうなら、ハワイローカルフードの名店「オノ・ハワイアンフード」の行列を過ぎてすぐに見つかる。ただ、そこが「Side Street Inn On Da' Strip」のイキなところで、店の看板が道路沿いの街路樹に隠れて見えにくく、気をつけないと通り過ぎてしまう可能性がある。

2010年9月にオープンしたばかりなので、もちろん店内は新しく清潔だし、随所に大型モニターが設置されていて、一見するとAmericanなスポーツバーといった風情。若い世代のカジュアルな男女がグループで楽しく騒ぐ、とマーケティングの資料には書かれていそうな雰囲気である。

ただ、誤解を恐れず言えば、この店は、もっともハワイらしい大衆食堂という表現が一番しっくりくる。そのワケは客層にある。ここには、ハワイに住むすべての人種が集まる。バーとかレストランとかのカテゴリーではおよそ判別がつかない、あらゆる年代、あらゆる肌の色のヒトビトが、各自オリジナルの過ごした方でここを利用する。もちろん夜のコアな時間でも、ソフトドリンクしか飲んでいない客も大勢いる。

そしてそのすべての客の「お目当て」が料理。

ハワイをご存じない方は意外に思うかもしれないが、ハワイのInnと呼ばれるレストランのメニューは、ほとんど日本の定食屋と同じである。ここも、枝豆、冷奴に始まり、チキンカツ、照り焼きチキン、ポークチョップ(と、店では言うが、ほとんどとんかつ)、ステーキ、そして、焼きそは、チャーハン……。それが、日本人の感覚では、ひと皿4人前ぐらいのボリュームで登場する。たとえるなら、中国料理の赤い回転テーブルの真ん中に、ドンと置かれるレベルである。

となると、「今日、サイド・ストリート・インでゴハン食べるよ」「しゃ、おばあちゃんも行きたいね」「孫も連れて行こうか」、みたいなノリになることも安易に想像がつく。

量が増えれば増えるほど大味になると思われがちだけど、そこは、強い火力、大きな鍋、そして屈強の男たちが手を抜かず調理をするのであろう、決して大味にはならないギリギリのところで踏みとどまっている。それが他のInnとは大きく異なるところかもしれない。

最後に、このような形で紹介すると、「ああ、日本人観光客にも行きやすそうな店だなあ」と判断されるかもしれない。
ただそれは違う。当たり前だが、日本語は通じないし日本語のメニューもない(写真付きのメニューもなかったと思う。ウェブにはメニューがアップされているので事前に勉強をしていくことはできる)。店内は広い上混んでいることもあり、スタッフの愛想も決して期待できない。

観光客らしく、地元の皆さんの楽しみを垣間見させていただきたい、ひいてはその中に混ざって一緒にenjoyしたい、そんな気持ちで訪れてみると、普段の観光旅行では決して味わうことのできない、充実したハワイの夜が待っていることを保障する。

Side Street Inn On Da' Strip
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2011年07月15日

海外出張のためお休みいたします

いつもクーチャンネル 新・大人の食べ歩きをお読みくださり、
ありがとうございます。

伊藤章良さんが海外出張のため、今回はお休みします。

これまで1日、15日と月2回をお願いしておりましたが、
海外での仕事が多忙になり、来月からは、仕事が落ち着かれるまで
月1回のペースでお願いする予定です。

今後ともよろしくお願いいたします。

土田美登世

posted by 伊藤章良 at 14:46| Comment(0) | TrackBack(0) | その他 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年06月15日

出張のためお休みします

いつもクーチャンネル
新・大人の食べ歩きをご愛読いただきまして
ありがとうございます。

今週も、伊藤章良さんが海外出張のためお休みいたします。
申し訳ありません。

きっと、新ネタを持ってお帰りになると思います。

次回更新は7月1日の予定です。
よろしくお願いいたします。
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2011年06月01日

出張のためお休みします

いつもご愛読いただき、ありがとうございます。

今回、伊藤章良氏が海外出張のためお休みします。

申し訳ありません。

次回は6月15日の公開となります。よろしくお願いします。
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2011年03月15日

東日本大地震に際し

いつも、新・大人の食べ歩き、そしてクーチャンネルにアクセスしていただき本当にありがとうございます。

そして、このたびの東北地方太平洋沖地震による激甚被災者の皆様。想像を絶するような悲惨な状況、そして命を失った方の無念さを想うと、言葉が出ません。心よりお見舞い申し上げます。

震災以来、東京に暮らす自分に何ができるかなあと、節電の気持ちも込めてテレビやパソコンはできるだけ消し、ひたすら繁華街を歩いています。そして、駅前の商業ビルやデパートさえもが閉まるような状況でも、ほとんどの飲食店には明かりが灯り暖簾がゆれていることを知りました。

ぼくは、いつも通り、外でゴハンを食べています。

予約が入っているから、いつお客さんが来るかわからないから――変わらない笑顔とおいしさで、迎え入れる準備をしているレストランのドアを開けています。

本日は、月2回の更新日です。本来なら、また新たな大人の食べ歩きを一軒紹介すべきところではありますが、今回は、被災地の皆様への心からのお見舞いとさせていただきます。


posted by 伊藤章良 at 13:38| Comment(0) | TrackBack(0) | その他 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年02月01日

(38)浅草「桜なべ 中江」

無表情な仲居さんに淡々とサポートされる

老舗の“ウシ負けた”馬肉鍋

大阪から客人があった。
ぼくが20代前半からお世話になっているバーのオーナーで、現在大阪ミナミは法善寺横丁にて3軒のバーを営むK氏と彼の店のスタッフ、総勢4名である。

彼らの前回の東京遠征では、ぼくのほうで店を選んだり、皆さんを店までご案内したりとガイドに徹したのだが、今回は彼ら(特に若いスタッフ)が行ってみたいところをチョイスして、あらかじめ決めておられたので、ぼくはそこに参加するという形にさせていただいた。

彼らが晩飯に選んだ店は、浅草の「中江」。歴史ある馬肉料理・桜なべの店。さすがに大阪で桜鍋を食べる機会ってほとんどないよなあ、と自分自身を振り返っても彼らの興味とシンクロ。ぼく自身も、東京に出て来てすぐのころに、これまた由緒ある森下の「みの家」に行ったきり。それ以降は、つまみで馬刺しや生レバーを食べることはあっても、鍋というのは超久しぶり。そういえば、あんなに蝦夷鹿はよく食べるのに、焼いた馬肉も、弘前の「ダ・サスィーノ」で馬のスペアリブを食べて以来だ。

場所をご案内しようかと思うも、あの辺に土地勘があるという。先ごろ銀座でついに復活した伝説の「菊鮨」細井浩二さんが、銀座オープンの前にしばらく営んでいた蕎麦屋が浅草最寄の千束にあるのだが、細井さんが来阪時に彼らのバーに顔を出されたことがきっかけで、そのお礼にとその店を訪ねたことがあるらしい(なんと義理堅い面々)。

東京メトロ日比谷線「三ノ輪」が一番近いというので、電車で向かう。駅を降りると明治通りを歩くのだが、明治通りというと渋谷〜新宿のイメージが強く、フシギな感覚だ。

その後、通称土手通りに折れて進む。決して駅からすぐではなく、夜にとぼとぼ歩いていると馴染みのない土地でもあり不安になってくる。道中の店舗で二回ほど「桜なべの中江はこちらの方向ですか?」と聞いてみたが、いずれも知らないとの答え。創業百年の老舗なのにご近所でも知られてないんだなあと訝りながらやっと看板を見つけてホッと安心。着いてみると、何度か来たことのある有名な天ぷら店「土手の伊勢屋」の隣だった。

さすがに老舗の風格である。店のウェブサイト(こちらは、老舗とは思えない観光ガイドのようなハデで軽めのホームページだが)を読めば、第二次世界大戦の東京大空襲時も焼け残ったという。現在の建物(外観)は、関東大震災の翌年建て直したままだそうだ。遊郭が多くあった吉原に通じる大門のすぐそばに位置し、当時は、まさに遊びに行く前に「馬力をつける」客で大賑わいだった。

入店すると下足箱が見え銭湯の風情で情緒があるが、他の老舗料理店のごとく下足番はおらず、仲居さんがそのまま出迎え。席へと案内する。

浅草や御茶ノ水界隈にあるこういった江戸の老舗鍋屋は、どーんとした大広間にちゃぶ台のような簡素なテーブルがずずっと並び、ところどころに衝立が置かれるというイメージだか、なんと「中江」は掘りごたつ。風格のある玄関から突然最近流行りの居酒屋に迷い込んだ気にもなるが、なにより客にとってはその方がウレシイ。

ゆっくり足を伸ばして席に落ち着いたところで、再び老舗の冷ややかな洗礼を受ける。「もう少し奥にお詰めください」と無表情の仲居さんから言われ、「スペースがあるのでゆったり座ったらだめですか」と聞くと、「足元にガスコンロが置いてあるので危ないのです」と、これまた無愛想。掘りごたつの足を入れる部分にガスコンロを置く、という理屈自体に納得できず、またその場所を空けるために詰めろという。こういった理不尽は御茶ノ水あたりの老舗鍋屋でも頻繁に体験したので、すでにあまり気にならず郷に従った。

「中江」の桜なべ。「鍋」が大変小さい。鉄板で焼くことが珍しい時代から始まったゆえか、もしくは吉原の眼前という土地柄、大人数でワイワイ食べるとの目的には使われなかったからか。

ただし、その桜なべ。絶妙においしかった。牛肉のすき焼きのように、甘辛い割下をそのままストレートに使うのではなく、そこに味噌を混ぜることでコクが増し、単調にならず飽きない。また、馬肉自体の、香り、味、軽さが牛肉とは全く違うので、口にするほどに腹の中に重く沈殿せず、幾らでも食べられそうだ。

特に、脂身の多いバラ肉もあるのが「中江」の特徴で、ロース肉よりも高額。運ばれた際には、ほとんど真っ白なので驚くが、それをじっくりと煮込むことでトロトロになってくる。口に運ぶとスーっと溶けると思いきや、正肉とは違う弾力があり、牛脂にはない獣らしい生命力も伝わる。豚や牛の脂を摂取するにはすでに罪悪感まで抱いてしまう年齢だが、このウマのバラには一切そんな迷いは生じない。

ウマかった、ウシまけた(東京では「馬鹿」の繋がりからシカ負けたともいうらしいが、関西ではウシ負けたと言う)。まさにそんな感じだ。

鍋といえば、〆も楽しみのひとつ。こんなに小さな鍋では雑炊や麺を入れる感じではないよなと思っていたら、「あとご飯」とのスタイルがあるという。具を食した後の残り汁に卵を投入して軽くかき混ぜ、白いご飯の上に載せるのだ。言葉にしただけでもおいしそう。

これまた無表情な仲居さんによって淡々と作られるが、まさに馬肉や野菜の旨みタップリの濃厚な卵丼。ただ、これまた牛の脂とは違って喉の通りが軽く、鍋が小さいゆえかすぐになくなってしまう状況が、食いしん坊には、たまらなく後ろ髪の引かれるテイストなのだった。

「桜なべ 中江」
nakae.jpg
●東京都台東区日本堤1-9-2
●03-3872-5398
●17:00〜22:00(LO21:30)
土日祝11:30〜21:00(LO20:30)
●月休

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2010年07月15日

(29)恵比寿「Bar MARTHA」

大好きな音楽と人に囲まれて楽しそうな

“フクちゃん”5軒目のバー

今回はバーを紹介してみよう。

ぼくが、フクちゃんこと今回取り上げるバーのオーナー福山渉さんと出会ったのは、かれこれ20年近くも前。彼が新宿3丁目と2丁目の境目ぐらいにあった地下の細長いバーで働いていたときだった。

今はなきそのバーには、友人から「伊藤さん音楽スキでしょ、じゃ、きっと気に入るよ」と連れられた。常にいい音楽が適度な音量でかかっていて、フクちゃんの人なつっこい性格とともに、すぐに気に入り時々通うようになった。

そのフクちゃんが「今度独立して、ボクの店を近くに出すんですよ」という。若いのにたいしたもんだと感心し詳しく聞くと「アナログレコードを集め、それを一枚一枚回して音を鳴らす店にしたいんです」。

ぼくが大阪在住の頃頻繁に通い、今でもその店のマスターを兄と慕っているバーがあるが、その店も同じようにアナログレコードをかけて楽しむ店だった。そのマスターは、「自分の視野の中で常に一定間隔で動いているモノがあると、人間ってフシギと心が落ち着くんだよ。だからこうしてターンテーブルを回してるねん」と、真偽の程は確かめていないが、めちゃくちゃカッコいいことを言っていた。そして、ぼくよりもずっと若いオーナーながら、大阪時代と同様、本格的に「通える店」ができたぞと快哉を叫んだのだった。

新宿3丁目の雑居ビル2階にあった、小さな小さな店をフクちゃんは「Bar MARTHA」と名づける。確か彼のフェイバリットな歌手の名前だったかと思う(と、化粧室に書いてあったような・・・)。

その後しばらく「Bar MARTHA」は、ぼくの隠れ家となった。特に深夜遅くまで働きやっとのことで解放された後、あの狭い暗い階段を上った。フクちゃんは明け方でもいつも飄々としてマイペース。若者らしいナンパな話をしたかと思えば高尚に音楽やオーディオ談義にも花が咲いた。

ところで福山という男、大好きなレコードとオーディオに囲まれて毎日過ごすことができれば、それが一番の充実と感じるタイプと思っていた。確かに今でもその通りなんだけど、とんでもない経営の才覚に恵まれた大立者でもあった。

その後、新宿2丁目、そして新宿3丁目にさらに1軒のバーをオープン。いっぽう、ぽくがほとんど新宿で飲まなくなりフクちゃんの店にはご無沙汰しているなーと気後れしていたところ、今度は、ぼくの今のテリトリーである恵比寿に1軒。そして2010年6月の頭に、さらに新しい店を恵比寿にもう1軒。トータル5軒のバーオーナーとなったのである。

今回は、恵比寿にオーブした一番新しい「Bar MARTHA」に改めてスポットを当てたい。先に書いたように、新宿で彼が初めて興した店と同じ店名である。詳しく質したわけではないけど、フクちゃんにとって思い入れのある一号店「Bar MARTHA」の名で新たに恵比寿の店をスタートさせたかったに違いない(以前MARTHAと名乗っていた新宿の店は「BarNICA」と代え、さらに趣味性の強いオーディオ空間となっている)。

新生「Bar MARTHA」は、フクちゃん曰く「ここはずっと狙っていた物件なんですよ。実はもともと撮影スタジオだったんです」とのこと。天井が高く全く遮るものがない、四角いハコをきっと彼は欲していたのだろう。少し前に恵比寿にできた「BarTRACK」も、フクちゃんの店にしては大箱だなと思ったが、「Bar MARTHA」は、さすがに元スタジオだけあってさらに広く大きい。そしてそのスケールをフルに使って、高級オーディオと信じられない程大量のアナログレコードを壁面びっしりとに配するさまは、圧巻そのものだ。しかもそんなレコードとターンテーブルに囲まれて楽しそうに回しているフクちゃんの姿は、5軒のバーオーナーながら未だ少年のよう。といいつつも、時折エントランスに出ての彼らしい接客やスタッフへの細かな注意や配慮など、動きの迅速さ的確さに、オーナーとしての実力も見える。

彼の店のもうひとつの大きな特徴は、木のぬくもり。山小屋風と例えればチープすぎて恥ずかしいが、そんなウッディな温かみを全ての店で基調としている。そこに肘をつくヒトの体温で、木のカウンターがどんどんと醸成されていくことを過去の店に感じているので、未だ新築物件と言った感じの新生「Bar MARTHA」も、時の経過とともに、ゆっくりとなじんでいくことだろう。

永年の客として、フクちゃんの店の魅力はもう二つある。ひとつはオーナーの彼自身が非喫煙者であること。最初の小さな新宿の店でも、本当に小まめに空調の調節をしていた。もちろんバーでタバコをくゆらすのは定番ゆえ否定はしない。でもフクちゃんが営む店は、いずれもタバコを吸わないヒト(きっと宝物のオーディオに対しても)に配慮した環境を何とか作り出そうとの意図や工夫が感じられる。

そして、人たらしなこと。もちろん悪い意味ではない。フクちゃんがこうして店を広げていくことができるのも、その彼の人たらしな性格に起因すると思っている。というのは、フクちゃんの店で働くスタッフ、店を任された店長、いろいろな方と話をすると、たいていが最初の出会いは店の客だったんですとつぶやく。そして通ううちに、夜だけでもうちで働いてみない? みたいな誘いがあるそうだ(あいにくぼくにはなかったと記憶するが)。ゆえ、各店舗を任された面々も、肩の力が抜けて当たりの柔らかい個性的な男達ばかりなのである。

そうそう、もうひとつ忘れていた。
フクちゃんは新店舗をオープンする毎にいつもオープン案内のDMをくれるが、その宛名の筆跡がいつも達筆なのが気になっていた。そして毎回同じ人の筆跡である。

誰か字のうまいスタッフにでも書かせているのか、もしくは宛名書きを外注しているのかなあと思っていたが、あるときふと、DMのメッセージ文最後に記された「福山渉」という直筆サイン(こちらはもちろん印刷だが)にふと目が止まった。驚いたことに、その筆の美しい流れは、毎回送られてくるDMの宛名書きと寸分変わらない字だったのだった。

Martha.jpg
「Bar MARTHA」
●03-3441-5055
●東京都渋谷区恵比寿1-22-23 ヴェラハイツ恵比寿109
●19:00〜翌5:00
●無休
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2010年07月01日

(28)恵比寿「ラザロ」

躊躇しそうな外観だが階段を降りると一転。

ポルトガル初心者でも安心な料理とサービス。

海外に頻繁に出かけていても、ポルトガルへ行ったことのある人は少ない。ヨーロッパ、特に食に興味津々なら、まずはフランス・イタリア、そしてスペイン、イギリス、ドイツ、東欧・・・と、優先すべきトコロは多々あり、最西端の、大航海時代は世界を席捲するも今ではコルクとポートワインぐらいしか頭に浮かばないポルトガル。

ぼくがそんなポルトガルを訪れた動機は、アソコに行かなきゃコレ食べなきゃ、といった使命感から解放されながらも、歴史と個性があり、なおかつヨーロッパの気分を確実に味わいたかったから。そして初めてのポルトガルは、そんなぼくの望みを120%叶えてくれるすばらしい国だった。

ぼく的に特徴を三つ挙げると、ワインが強烈に安くてウマイ。国民が穏やかで親切。普通に出会う料理がとても美味しくて、かつ大食漢にはたまらないレストランでの料理提供システム、かな。もうひとつ付け加えるとするなら、ごれは本当に驚きなんだけど、英語を母国語としないヨーロッパの国々の中で、もっとも正確な英語が使える人が多かったこと。

そして、ワインについても重ねて語るなら、ぼくが初めてフランスを訪れた30年近く前の忘れがたき特徴が今のポルトガルにある。俗に言う、ワインとコーラとミネラルウォーターがそれぞれほとんど同じ価格なのである。

フランスやイタリアでは、世界中からワインを買い付けにくる人たちが増え投機の対象ともなりつつあってもはや高嶺の花。ポルトガルでは未だに、2ユーロのボトルがスーパーでたくさん売られている。

いっぽう東京でのポルトガル料理は、相当に後発。ずっと永年、松濤の「マヌエル」と西麻布の「ヴィラ・マダレナ」が二大勢力だったはず(「ヴィラマダレナ」も「マヌエル」出身と聞くが)。

バリーションに富み、多くが素材そのものを生かす調理法で、米を多用するなど日本人好みな展開ながら、ほとんどが上記の2店、もしくはそれらの支店でしか東京都心では味わえない、というのが実情だった。

ただ、上記の2店およびその系列店はいずれもよく繁盛している。というのも、ポルトガル料理は、西洋料理店の中でも低価格だからだ。もちろん高級食材を使わないのが最大の理由かと思うが、なにより安いワインをそこそこの納得価格で売れるので、利益を料理に回すことができる、というのが、ぼくが密かに考えるもうひとつのワケだ。

さらに、ポルトガル料理といえば、ニッポンから最寄りの香港の隣り、マカオでも体験ができる。マカオはカジノの街として有名なだけではなく、ポルトガル統治時代の建造物は世界遺産に選定され、漢字の看板さえ目をつぶれば、ポルトガルでのワンシーンをマカオでも垣間見ることもできる。ぼくの香港通の友人は、香港滞在中もワインが飲みたくなったらマカオに行く、とステキなコトを語っていた。確かにマカオでは、実際に白人が接客をするポルトガル料理店が何軒もあり、がぶ飲み系ポルトガルワインとともに楽しい時間を過ごせる。

さて、ポルトガル料理の説明が長くなってしまったが、そんなマカオも経由したポルトガル料理を提供する店が恵比寿に誕生した。「ラザロ」と言う。

「ラザロ」は、JR恵比寿駅西口から代官山に向かって駒沢通りの右側を歩いてすぐ。この道は頻繁に通るのでオープン当初から気になっていたものの、なにせ入口が狭く、そこにマッサージや中華料理等の看板が乱立してさらに分かりにくい。また、地下に至るエントランスのサインが相当派手な色使いで、極端にいえば風俗店のよう。かなり入店に躊躇する外観なのだ。ただ、マカオ〜ポルトガル料理好きの血が騒ぎ、どうしても訪問してみたいと勇気を絞って予約。

ピンクな入口を突破して階段を降りると、店内はガラッと雰囲気が一変。ポルトガルカラーである濃いグリーンとレッドを基調にしたシックな色使いで、豪華とはいえないが、きちんとおいしい食事ができそうな落ち着きのある空間で一安心。加えて、実直そうなサービススタッフによる接客もまた頼もしい。毎日毎日、ほとんどポルトガル料理が初めての人に相対する謙虚さがにじみ出る。

マカオ&ポルトガル料理は"東京で初"とのことだが、例えば「マヌエル」の料理人もマカオから来ていたはずで、そうじゃないけどなあとか思いながらも、ここは彼の話をじっくりと。

とはいっても、僕の場合ポルトガル料理のチョイスはほぼ決まっている。バカリャウ(塩漬けタラ)コロッケ、イワシの塩焼き、豚肉とアサリの炒め、カタプラーナ。加えて、マカオでも経験したチキンの料理、そして未経験だが、マカオ名物と称される、中国との融合が感じられるようなスパイシーな数々が加わった。

合わせるワインも定番中の定番、微発泡白ワイン「ヴィーニョ・ヴェルデ」しかない。このさわやかな通称緑ワインをガブ飲みしつつ盛り上がれば、実にリーズナブルで軽やかで、しかも驚くほどバリエーションに富む食卓となることだろう。

シメの炭水化物でオススメは「きしめん炒め」。日本の平たい麺とは違う不思議な食感が後を引く。また、ポルトガル〜マカオの名物「エッグタルト」も必須のデザートとなろう。

ぼくの場合、ポルトガル料理は大人の食事をリーズナブルに実現したいとき真っ先にリストにあがっていた。ただ最近は、同じような手法が広がりすぎて、オトク感も薄まったキライがある。そんな中、「ラザロ」は、ぼくにとって一筋の光明を与えてくれる店となるに違いないだろう。

lazaro.jpg
「ラザロ」
http://www.lazaro.co.jp/
●03-3464-2510
●東京都渋谷区恵比寿西1-9-6 WESTCOビル B1F
●11:30〜14:30、17:30〜23:30
●日休
posted by 伊藤章良 at 12:27| Comment(2) | TrackBack(0) | その他 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年02月01日

(18)ブルガズアダ

異質な味と香りのなかに、格調と伝統、

意欲とプライドが光るオスマントルコ宮廷料理

先日「楽しいレストラン」というホームページでレストランの情報発信をしている石井AQさんとメールのやり取りをしていた。石井さんは、レストランを「楽しい」と表現するセンスだけでもすばらしさは直感できるが、日本人では唯一無二の情報が詰まったグルメサイトの主宰者だ。そこで、「もうぼくたちって、ベテランなんだね」みたいな話になった。

であれば、きっとエースとか、ホープとか、ルーキーとかもいるんだろうなとの考えも拡がり、ぼくがエースだと目するひとつのブログを挙げた。「漢の粋」である。もちろん主宰の方の個人名も存じているが、ここはブログタイトルで紹介しておこう。

ぼくは以前「新・大人の食べ歩き」で、ぼくが信用するブログは料理写真を掲載していないことが多い、と書いた。いっぽう「漢の粋」は、それこそフレッツ光を使ってブラウジングしないとカッタルいほど、大量の写真によって構成されたブログで、ぼくの主張とまったく相反する。ではなぜか。それが、ベテランから次世代を見る眼差しなのだと理解していただければ、と思う。

ルーキーとかホープとか野球のたとえを続けると、ぼくは直球しか投げないが、「漢の粋」はフォークボールという最強の変化球を持ちつつ直球もちゃんと投げているところが素敵である。料理写真中心ブログのほとんどは、残念ながら写真という変化球しか投げられず、またその変化球もキレのある落差はなくアンダーだったりぼけていたりして、バッターとしては退屈でしかたがないのだ。

ぼくは一度だけ「漢の粋」さんが写真を撮るところを見たことがある。その手法は、大きな一眼レフを駆使するにはあまりに素早く、いつカメラを出し撮影をしたのかわからないぐらいだった。しかも人目につくところに無粋な黒い塊を置くこともしない。彼の写真はアングルがいつも同じと評する向きもあるが、それは食事の楽しい流れをさまざまにアングルを変えての撮影で分断しないための配慮であろう。あまりのスマートさに感動すら覚えた。

前置きが長かったけど、そんな「漢の粋」さんがある時ススメてくれたのが、オスマントルコ宮廷料理「ブルガズアダ」。彼ら夫妻がトルコを旅し、トルコの魅力をさまざまに語る流れで登場したのだから、その覚えにくい店名も忘れようがない。自分自身「イズミル」や「カルタゴ」などひと通り著名なトルコ料理店は、エスニックの師匠佐藤わか子さんの導きもあって体験していた。でも、元「LEON」編集長プロデュースという若干胡散臭いビルに躊躇し、評判は各所で聞くものの「漢の粋」さんが背中を押してくれなければ、こんなに早く訪れることはなかっただろう。

神々しいオスマントルコ宮廷料理店があるとは思えない近代的な真っ白のビル。目指す「ブルガズアダ」以外は、話題性のみで荒稼ぎしクラッシュ&ピルドで生き抜いていく店のロゴマークが無言で客引きをしている。

ところが、エレベーターを降りた瞬間から様相は変化する。照明をぐっと落とした店内。いやらしくならない程度の異国情緒。難を言えばサービス女性のユニホームが不釣合いかつ日本的だが、マダムの登場で意識はまた宮廷へ。

メニューを渡される。コースが6,900円、8,800円、13,650円。最初の印象は、ちょっと高いかなあ・・・。フレンチ・イタリアンな気分では違和感はないが、エスニックを意識しての場合どうしてもそう判断せざるを得ない。

ワインリストを見る。トルコのワインしかないが、当然ながらまったく知らないものばかりでのこの価格。同じく高いと感じてしまう。特に現地でどの程度の価格で売られているかと想像すると、余計につらくなる。

でも、そんな杞憂は食が進むにつれマダムとの会話が弾むにつれドンドン薄れ、逆に、ここまで手の込んだ料理をこれでもかの品揃えで提供する姿勢に敬服してしまった。シェフはいつ寝てるのかねえ
と、嘆息する声も。

家庭料理を中心とした店にはない、格調と伝統と意欲とプライド。たとえば、ナスやゴマのペースト、レンズ豆のスープといった代表的なトルコ料理のテイストをどこかに感じつつも、皿の上では全く異種のものが整然と並べられていたりする。また、今までほとんど口にした記憶のない味覚も、そんな中にこっそり隠れている。メニューやマダムの説明に酔わされてのことと十分納得しているが、それでも、たった今とても希少な時間を過ごしているんだと高揚する自分がいる。

おいしさに加えて、さまざまな異質の香りが一皿の上に載るという不思議な体験も貴重。フレンチ・イタリアンでは決して知ることのできない東西の交流が、皿の上に香りとして結ばれていく。

「トルコはいいですよ。特に食事はたまりませんよ」との「漢の粋」さんの言葉がリフレインしてきた。さ、いつ行こうか。

「ブルガズアダ」
ada.jpg
http://www.burgazada.jp

posted by 伊藤章良 at 08:35| Comment(0) | TrackBack(0) | その他 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年08月20日

(10) 味農家(みのや)

産地直送の野菜コースが魅力。

おかず横丁で異彩を放つ貴重な店

先日クーチャンネルの家主もブログに書いておられたが、伊藤がどこからレストランの情報を得るのかとの質問は、未だによく受ける。でもぼくのレストランネタは、正直のところすべて口コミか信頼できる方のウェブサイトのみである。海外版のミシュランを除外すると、ここ4〜5年ガイド本やレストラン紹介系の雑誌を購入したことがない。撮影のために用意された料理に興味はないし、客やスタッフのいないレストランの空間写真は、魂を抜かれたも同然だと思っている。

ここで、ぼくなりの“参考とすべきグルメブログ”の特徴を開陳しておくと、まずは料理写真の掲載がないこと。写真を撮るヒマもなく料理とテーブルでのコミュニケーションに集中している証拠である。たとえば当家主のグルメ記事にも写真がない。これは信用できる。

もしくは、最低限の“鮮明な”写真のみであること。そして、ランチではなくディナーで訪れていること。料理やお店に対する強い愛情が感じられる。

以上で十分だ。そして、そんな観点でブラウジングしているなかのひとつ、T氏のくいだおれブログから1軒の注目店を見つけた。台東区はおかず横丁にある「味農家(みのや)」。T氏はリアルな友人であり、ぼくの人生最大級のピンチを救ってくれた恩人でもある。また、ぼくが普段なかなかカバーできない台東区も得意分野なのがニクイ。

おかず横丁自体、初めて耳にした。もともとこの界隈は職人の町で、あまりに忙しくて日々の食事の支度もできないので、おかず屋が集まってきたというのがイワレらしい。が、現実は人通りも少なく相当寂れている。というか、6時を過ぎるとほとんどの店が閉まっていて、オープン時の賑わいは想像がつかない。

最寄り駅は都営大江戸線の「新御徒町」かJR「浅草橋」というが、どちらからも10分近く殺風景な道を歩く必要があるゆえ、昼間に電車で行くようなところでもない。

でも、結局駅からとぼとぼ歩き、横丁到着後も数軒の飲食店しか開いていない状況に不安になりつつも、目指す「味農家」は確実にそのなかで異彩を放って食べ好きの来店を待っていた。

店内は、専門の調理器具がほとんど見当たらない小さなキッチンをL字のカウンターが囲んでいる。そこで、炒める・蒸す・炊く・揚げるなどの調理を、職人然とした店主が接客も含めひとりでこなす。家庭用の調理器具のみで巧みに器用に仕上げていく様は技の極み。見事としか言いようがない。

「味農家」の特徴は、その名の通り産地直送の野菜だ。野菜を中心にした専門料理店は今まさにブーム。確かにヘルシーで安価だが、多くは料理の展開が平板になる。それを店主は諸々工夫してインパクトを作り、飽きさせないコースを組み立てている。

ぼくは「味農家」で、“深い味のある”野菜料理を堪能しながら、この店はなぜか以前に紹介した「インダルジ」に似ているなあと思っていた。もちろん、かたや電磁調理器やコンベンションオーブンを使ってアメリカ仕込みの現代的な料理、「味農家」とはまったく違う。ただ、孤高の職人が狭い小さな空間を最大限に使って、そこに自分の舞台を作り上げる様は酷似していた。聞けば、「味農家」の店主は浅草出身とのこと。そういえば「インダルジ」のシェフも浅草出身だった。これぞ下町パワーというか下町への回帰とでも形容すべきムーブメントかもしれない。

唯一の違いは「味農家」の店主は飲ん兵衛ということぐらいか。種類は少ないが「味農家」の酒には相当のこだわりがありウレシイ限り。

さてT氏のブログには、最後に「このまま混まずに予約がとりやすい店でいて欲しい」と書いてあった。でも、やっぱり食いしん坊なら人に紹介せずにはいられない貴重な店だというのは、T氏もぼくも同じ気持ちに違いない。

味農家.jpg
味農家(みのや)
●東京都台東区鳥越1-5-5 濱田ビル 1F
●03-3866-3795
●17:30〜22:00LO
●日祝休
posted by 伊藤章良 at 09:00| Comment(2) | TrackBack(0) | その他 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年10月23日

出張のためお休みします

いつも新・大人の食べ歩きをご愛読いただき、

ありがとうございます。

伊藤氏が海外へ出張のため、今回はお休みさせていただきます。

次回は6月15日に更新します。
posted by 伊藤章良 at 13:28| Comment(0) | TrackBack(0) | その他 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする