いとうあきら イベントの企画・運営・演出を本業とするも、無類の食べ歩き好きが高じて“食べ手”の視点で店や料理を紹介。過去の書き手になかった大人の切り口で飲食への愛情を示した。著書に『東京百年レストラン(T〜V)』。

2020年09月01日

(137)目白「トレ・ガッティ」

エミリア・ロマーニャに魅せられたシェフによる
上級者向けイタリア料理店


イタリア北東部に位置する、エミリア・ロマーニャ州は、イタリアがわかってくればくるほど再訪したくなるエリアだ。ベネツィア、ローマ、フィレンツェといった著名な観光都市はない分、州都ボローニャを中心に落ち着きと余裕、そして多岐にわたる豊かな産業が魅力なのだ。ここにはまず、イタリアの代名詞といってもいいフェラーリ、ランボルギーニ、マセラッティー等の自動車メーカー本拠地がある。個人的にはまったく興味がないけど、この界隈に行くと話すと、フェラーリですかとの返しをもらうことも多い。

もうひとつ、こちらがぼくの興味の中心で、食品関係がすごいのだ。パスタでは日本でも著名なバリラや、世界的カフェチェーン、セガフレード・ザネッティーも、本社を置く。バルサミコ、パルミジャーノ・レッジャーノの産地としても名高く、生ハムで有名なパルマもここである。

確かに、エミリア・ロマーニャ州をクルマで走ると、都市には文化的芸術的な香りがあり、郊外に出るとその肥沃さが食の源であると痛感する。豚肉の加工品だけではなく、東側はアドリア海に面するので海の幸も過不足がない。

そんな、エミリア・ロマーニャ州に魅せられたシェフによる、この地の郷土料理に特化したイタリア料理店「トレ・ガッティ」が目白にある。目白は、どこからも山手線一本で行けるシンプルな場所。にもかかわらず、自分の行動範囲から少し外れるせいか、訪問にも特別感が湧く。

日本では、よく意味のわからない長いイタリア語の店名も少なくないでも「トレ・ガッティ」とは、3匹の猫だとぼくでもわかる愛らしさだ。入った瞬間に感じる空間の雰囲気や色使いもその延長線上で、一瞬にして東京・目白にいることを忘れさせてくれる。キッチンを囲むようにあるカウンター席は、現地にはない光景だ。シェフの眞壁貴広さんは、イタリアっぽく待合感覚の立ち飲みにしたかったが、その点は妥協したんですよと語った。

チャーミングな店名や空間に対し、シェフはロングヘア―にタトゥと、かなり個性的である。メニューもその風貌よろしく、そこそこ上級者向けの内容だ。なんとなく無難にコースを選んでしまうのもわかる。いっぽう、イタリア料理好きなら時間をかけてじっくり紐解くなら、おもしろい要素がさまざまに詰まっている。

前菜は散々迷ったが盛り合わせにした。女子大生スタッフのメニューの説明は「ハムとパンと小鉢が3皿です」だけだった。ところが、ドンと置かれた大皿には、生ハムから、コッパ、サラミまでが盛りだくさんに花開き、郷土のパンとして、丸いティジェッラや揚げたニョッコ・フリットなどに、パルミジャーノ・レッジャーノやトマトのジャムが添えられる。日本のレストランで、ハムと一緒にここまで大量のパンの登場はあまり記憶にない。空腹の赴くままさまざまなパンにハムやチーズ、ジャムを挟んでもりもりと無心に食べる。小鉢と称された3皿は、ラードで揚げた豚バラ、タマネギのトマト煮込み、ピクルス。パンとともにでも酒のつまみとしてもかけがえのないものだった。

これなのだ。ぼくが密かに日本で求めるイタリア料理。ここまでイタリア本国に両足を突っ込んでいるレストランを常に待望していた。シェフは、エミリア・ロマーニャ出身のイタリア人に自分の料理を食べてもらってお墨付きを得ているが、それでも少し日本風にアレンジを加えていると静かに言った。

パスタのひと皿は、あれこれと逡巡しつつ、やはりご当地名産で今や世界的なメニューであるラザニアを選んだ。これがイタリアのラザニアなのか。何も言わず出されたら、ラザニアだとは思い至らないかもしれない。シェフは「肉じゃがに何か緑のものがほしいとグリーンピースを使いますよね。それがホウレン草だったら、違うと日本人は気づきますが、外国で流通したら、外国人は誰も違うと気づかない。それと同じことが日本のイタリア料理にも起こっているんですよ」と話した。

エミリア・ロマーニャのワインといえばランブルスコ。ぼくは過去にこのワインを何度も試し、どうしても感じてしまうケミカルなテイストが好きになれなかった。しかし、シェフの勧めによって提供されたランブルスコは、最上質の辛口ロゼを思わせるようにスッキリとして素晴らしく、自分の無知への反省と新しい出会いに感謝をした。食後酒としてグラッパを頼んだら、驚くほど安価。本当は皆さんにグラッパまで愉しんでほしいと思ってお安くしているのですが、なかなかたどり着いていただけなくて……と、シェフは寂しそうだった。

最後に「トレ・ガッティ」は、食べログへの掲載を拒否している。その点にも熱い賛同を贈りたい。掲載拒否のおかげで、この店の客層レベルは相当に高く、すこぶる心地よいことも魅力のひとつとして付け加えさせていただきたい。

「トレ・ガッティ」
●東京都豊島区目白3-13-1 2F
●03-3565-6181
●12:00〜13:30LO、18:00〜23:00LO
*水曜日はランチ休
●火休
posted by 伊藤章良 at 23:49| Comment(0) | イタリア料理 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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