いとうあきら イベントの企画・運営・演出を本業とするも、無類の食べ歩き好きが高じて“食べ手”の視点で店や料理を紹介。過去の書き手になかった大人の切り口で飲食への愛情を示した。著書に『東京百年レストラン(T〜V)』。

2020年07月01日

(135)荒木町「OHKUSA(オオクサ)」

最高の「鳥皮」も健在。歌舞伎町から
荒木町に溶け込んだ焼き鳥の名店

日本一の歓楽街と言われる新宿歌舞伎町。
ある種の限定的な印象を全国に与え、それが新宿全体のイメージともなってしまった。確かに、少し前までは外国人で溢れていたし、最近は新型コロナウイルスの温床のように認識され、人通りも減ったようだ。

ぼくが歌舞伎町を目指して行くのは、二軒の焼鳥店、「鳥みつ」と「道しるべ」ぐらいだ。タバコの煙が苦手なぼくは、ゴールデン街にも足を踏み入れない。新宿の焼鳥といえば、「鳥田むら」のような老舗もあるし、もちろん安価のチェーン店も多い。その中で、この二軒は、わざわざ歌舞伎町に行く価値のある店だ。いずれも串、つまり酒のアテというより鳥料理としてのクオリティが高く、特に「鳥みつ」は際立っていた。建付けの悪いドアと効きの弱い空調。場末感漂う中に、いつも清潔でメニューも秀逸だったと記憶する。

というのも「鳥みつ」はもう歌舞伎町にはなく、四谷三丁目への移転を果たし「オオクサ」となった。いつかは移転するだろうなと想像していた。場所が四谷三丁目、つまり旧荒木町だと知ったとき、流石のセンスと唸る。新しい店の前に立つと、その外観は「OHKUSA」とだけ出ている一見バーのような佇まい。すでにすっかり荒木町に溶け込んでいる。

それにしても、こんな格好の場所をよく見つけたものだと感心。幾度となく歩いたことのある路地ながら、以前ここにどんな店があったかはすでに思い出せない。店内は、長身でかっこいい、焼鳥店店主というよりバーのマスター(あまりご存じないと思うが、ぼくにはロキシーミュージックのブライアン・フェリー)と言った風情のご主人と小柄でかわいらしい奥様(たぶん)のコンビは変わらす。カウンターのセンターに耐熱ガラスで囲われた焼き台があり、奥は厨房スペース。テーブル席も多かった「鳥みつ」より各段に機能的で、焼鳥店の原点といったレイアウト。

メニューからアラカルトは消えコースのみ。串は身の一つ一つが巨大で、女性は一口ではほおばれないサイズ。焼鳥の概念では収まらない、あまりいい表現が見つからないが、バーべキューの域だ。提供時には、産地と鳥の種類も語られ今度は江戸前鮨の領域にまで達する。
ぼくにとって「鳥みつ」の「鳥皮」は、人生の中での焼鳥史上最高においしかった記憶があるのでそれを訪ねると、「オオクサ」では、鳥の肉と皮を分けずに焼くことにしたとの回答。確かにその方がさらにおいしいだろうと想像もつくが、そんな焼鳥店は他にあるだろうか。

といった具合で、ご主人が新天地でやりたかったことは、すでに焼鳥の世界を凌駕している。鳥の串焼きという加工品ではなく、ダイレクトに鳥の特徴や味わい、ひいてはその魅力を受け止めてほしいというメッセージなのだ。加えて、箸休め的にコースに挟まれる料理の大半はエスニックテイスト。巨大な鶏肉と格闘した後に、それらを一気に中和するアジアの香り。なにげなく、ひょうひょうとしたお二人の術中に完全に取り込まれていく。ちなみにその日の〆のご飯はガパオライスだった。まあ、鳥料理であることには違いない。

食べログではすでに4点越えで、脈絡のない食べロガーの餌食になりつつある。着席するなりシャンパンを注文する客もいて、これぞ食べログ高得点の店たる弊害だなあと感じたが、「オオクサ」にワインはない(ただし、持ち込みは可能で素敵なグラスも提供いただける)。日本酒と焼酎のラインナップは秀逸。特に焼酎はしびれる品ぞろえゆえ、ここでは焼酎を味わってほしいという意思表示なのかもしれない。

「オオクサ」の予約は、一週間前の昼の12時〜と決められている。
何か月も前から焼鳥店を予約するという徒労が回避できるだけではなく、実はこのやり方が、考える限りの客層の安定、というかいい客層を保つための最善の方策なのかもしれないと最近思う。その意味で、予約方法までも、巧みに練られているのではないかと、ご主人の飲食店経営手腕にも敬服した。

OHKUSA(オオクサ)
●03-6709-8874
●東京都新宿区荒木町7 森戸ビル1F
●17:00〜22:00(L.O.20:00)
●日、祝、第1・3月曜休
posted by 伊藤章良 at 10:31| Comment(0) | 焼鳥・居酒屋 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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