いとうあきら イベントの企画・運営・演出を本業とするも、無類の食べ歩き好きが高じて“食べ手”の視点で店や料理を紹介。過去の書き手になかった大人の切り口で飲食への愛情を示した。著書に『東京百年レストラン(T〜V)』。

2019年12月01日

(130)銀座「薪焼 銀座おのでら」

シェフとソムリエとの信頼が生む
納得できる料理とワインのペアリング

昨今は、予約困難店の席を確保するまでに相当の知恵や労力を費やしてしまうからなのか、食事中はできるだけ頭を使わない、そして、可能な限りボロが出ないような展開が好まれるようだ。

高級江戸前鮨では、カウンターに座って以降まったく店側とのコミュニケーションは必要もなく、ひたすら料理と酒が出てきて、最後に高額の請求が来るので躊躇なく支払う。予約をとることのできた人がもっともすばらしく、鯔背に鮨を食べたり、店の職人や同席者と会話を楽しんだりするのは二の次となった。この傾向は、天ぷら、焼鳥と、カウンター中心で、男女を問わず一人でも訪問できる環境ならば、いずれの場合も増える一方だ。

頭を使わなくていい(言い換えれば、勉強しなくていい)、ボロが出ないようにしたいという傾向は、西洋料理のテーブルでも多くみられるようになってきた。もともとコース構成が主体ではあるものの、それに合わせるワインも、ペアリングという形で店側がグラスで提供する。いいレストランになればなるほど分厚いワインリストがあり、それと長時間にらみ合いながら、最後にソムリエとも相談して何とか一本に絞り込む作業は本当に楽しかった。最近はソムリエの存在が果たして必要なのかと心配になるほど、どこの店でもペアリングはいかがですかと勧めてくる。

これについては、視力の衰えが顕著で細かいワインリストを読み解く根気が薄れてきた自分もその提案にのることが多い。また、料理にどのようなワインを合わせて完成させたいのか、シェフやソムリエの考えに興味もある。そうは言いつつ、ぼくの感覚では、半分以上はドンピシャとは思えず、ちょっと違うかなあと首をかしげてしまう。シェフはこの皿とワインを本当に合わせたかったのかと悩ましいのだ。

今年のフランス巡りでは、元三つ星を含めると5軒の星付きレストランに行った。そのうち4軒でペアリング、1軒はソムリエと相談してワインをボトルで選び、結局自分で選んだワインが一番印象的だった。

そんな中、今回取り上げる「薪焼 銀座おのでら」は、すべての皿に対し用意されたワインが驚嘆のマリアージュで、本当に驚き感動し、ペアリングの真の愉しさを堪能することができたのである。

「薪焼 銀座おのでら」は、2019年7月にオープン。鮨、天ぷら、鉄板焼などをワールドワイドに展開しているグループの印象が強い中、火力を薪にフォーカスしたフランス料理店である。場所はおのでらグループ核店舗が入るビルの一角。カウンター中心で個室もあるようだ。

種明かしをすると、「薪焼 銀座おのでら」のシェフは寺田恵一。「カンテサンス」や「神宮前 傳」等で研鑽を積んできた料理人。一方ソムリエは、市村暢央。「カンテサンス」でシェフソムリエを長く勤め、現在はおのでらグループ全体を見つつ、寺田シェフを迎え入れて二人の考える日本のフランス料理を追求する店づくりに携わる。

薪焼と銘打つだけあり、火力はほとんどが薪だ。炭を使う店は多くあるし日本人は使い方も巧みである。一方薪は、一般的にはピッツァ窯ぐらいしか知られていない。設備も大がかりになるし、何より火加減という面での熟練が必要だろう。
ただし、薪からの直接の炎で火が入るので、焦げ方から自然で香り高い。フィレンツェに、今でも薪のみでステーキを焼く名店があり、そこのステーキは本当にすばらしい。その店はガスの通らないころから薪での調理実績があるのだ。都会のビル内にて始め、4か月ながら特徴を見切っての安定した火入れや、さらに薪焼の個性を注入した新たなレシピの数々に瞠目。さらにそんな皿に対し、針の穴に通すほど細心で大胆なワインがペアリングされるのである。
あまり種明かしはしたくないが、薪焼の肉だからといっても、堂々と白ワインが供されたりする。.

ソムリエの市村さんは、「カンテサンス」時代から、もし一緒にやるならこの男だと思っていましたと、寺田シェフを評価する。二人の間に生まれるマリアージュは、単に料理とワインのペアではなく、深い信頼と愛情にあふれているんだなと強く感じた。となるとますます、ペアリングの世界は奥が深い。

薪焼 銀座おのでら
●東京都中央区銀座5-14-14サンリット銀座ビルIII 9階 
●050-3628-1295
●水、日休
●17:30 〜20:30LO



posted by 伊藤章良 at 12:36| Comment(0) | フランス料理 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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