いとうあきら イベントの企画・運営・演出を本業とするも、無類の食べ歩き好きが高じて“食べ手”の視点で店や料理を紹介。過去の書き手になかった大人の切り口で飲食への愛情を示した。著書に『東京百年レストラン(T〜V)』。

2019年06月01日

(124)「鮨みうら」

うんざりする鮨店の現況に
ひと筋の光を見せる

昨今の若い新しい鮨店、具体的に言えば、東麻布「天本」以降。相当数が新たにオープンし「天本」を筆頭に、客が指をくわえて待つ状態になっている。何度も書いているけど、超高額の支払いさえすれば、自分でメニューを考える必要はなく、ひたすら写真を撮ってブロイラーのごとく食べ、予約の取れない席に陣取る自己に陶酔できる。
しかしぼくにとって、「天本」以降にすばらしいなあと感じた新規オープンの店は皆無だ。その理由は三点。

1.あまりにも高額なこと。比較対象としてふさわしいかどうかだが、鮨よりipadの方が安いのだ。

2.日本料理の素養や経験がないのにツマミを色々と出すので、料理の流れや緩急が考慮できていない。ある店のツマミの最初の方でアワビのキモが出された。キモ自体は上質で苦味も際立っていたが、味が強すぎて、ずっと口の中に残り、その後の繊細な魚はほとんどキモの中に消えた。

3.にぎりがユルい。上質の魚は金さえ出せば手に入るが(それを客に転嫁しても文句を言う客はいないが)、握る技術は、やはりそこに年季が必要なことを知る。

あと、どの店もみんな同じようなライティングと内装(笑)というのもあるが、ほぼすべて上記の3点に集約されている。であれば、3点がクリアできる店が現れれば及第点を越えると思うのだが、なかなか出てこない。

そこに一筋の僥倖と巡り合った。麻布十番「鮨みうら」である。
ぼくが日ごろから大好きな、百年続いてほしいと願う数軒をのぞけば、久しぶりに支払いを終わった後も満足感が長く続いたのだった。

「鮨みうら」は、麻布十番の好位置にあるものの、かなり怪しげなビルである。エレベーターまでの廊下に絵画が飾ってあり、ビル内の他のフロアも会員制の文字が目立つ。訪れた日が休日だったので事なきを得たが、平日ならば、エレベーターのドアが開くたびドギマギしたかもしれない。

しかし店のしつらえは、がらりと印象を変える。きちんとエントランスと化粧室、ダイニングが切り分けられ、客が快適に過ごせるレイアウト。店主の眼が行き届くL字カウンター8席。

「鮨みうら」の店主三浦健太さんは、もともと鮨店を開きたくてこの業界に入ったが、考えがあって長く日本料理店でも務められたそうだ(といっても、日本料理店の鮨部門のようだが)。つまり、つまみ半分にぎり半分の今のおまかせコースでは、きちんとした日本料理の技術が必要と理解していたに違いない。
(ただ、それが正しいと言いたいわけではなく、煮炊きしたものをつまみで出さない鮨店なら、その限りではない)

さすがに「鮨みうら」でのつまみは、きちんと流れを考えて構成され、優しく緩やかにスタートする。三浦さんはお酒もお好きなようで、酒の進むつまみも織り込まれるが、決して突出するわけではなく、にぎりへのアプローチを考慮した上り坂を巧に組み立てている。

にぎりは、「鮨なんば」で務めたということからも想像がつくように、酢飯の温度が高い。特に最初に出されたイカを口にしたとき、エッと思った。「鮨なんば」ほどではないが、三浦さんもタネに応じて酢飯の温度は意識していると説明する通り、最初の驚きからは、進につれ慣れるというかなじんでくる感覚だ。酢の加減や酢飯の切り方は好みなので、なじめば抵抗はなかった。

特筆すべきことではないのかもしれないが、三浦さんの包丁さばきには注目してほしい。基本サウスポーなのに、料理人は包丁を右手で使うべきと強制的に直したという。ゆえ、箸を左手に包丁を右手に、つまり両手で持ち、実に器用にまな板の上で動かす。というか、両手を使って仕事をするなら、おそらく日本一効率的で早い職人ではないかなと思う。

お酒、特に日本酒の揃えも見事だ。自らお酒か大好きと言うだけのことはある。好みの地酒がつらつらと並び、どうしても飲みすぎてしまう。しかしながら、おまかせで十分すぎる量をいただき巻物を追加しても、ipad半分くらいの納得価格である。

オープン間もないのに、昨今の超高額店に流れる、ある種の「イキリ」のような空気は感じられず、不思議と終始リラックスしながら時を過ごせる。それは店主三浦さんの風貌にもあるのかなあと思い出し、また訪れたくなった。

「鮨みうら」
●東京都港区麻布十番2丁目12−2−4
● 03-3457-5777
●18:00〜/20:30〜
●定休日は店に確認のこと
posted by 伊藤章良 at 23:09| Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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