いとうあきら イベントの企画・運営・演出を本業とするも、無類の食べ歩き好きが高じて“食べ手”の視点で店や料理を紹介。過去の書き手になかった大人の切り口で飲食への愛情を示した。著書に『東京百年レストラン(T〜V)』。

2019年04月01日

(122)大阪「福助」

名物は白身魚の鍋。西の焼き肉タウン
鶴橋に君臨する老舗高級割烹


ぼくは、プロフィール上大阪生まれとしているが、大阪での生活は昭和までで平成ととも東京在住となった。つまり大学生や新入社員レベルの収入で行ける店しか引き出しはなく、多くは稼げるようになってからの後追いである。

もちろん大阪に実家があり、大阪・京都は地理的にも熟知しているので、それなりのアドバンテージはあるものの、未だに大阪や京都の奥深さを知らされることが多く、驚き震え、ある意味誇らしくもある。

この「深さ」なる概念は、関西の芸人やSNSでディープ大阪みたいなくくり方をされる店とは意味が異なる。歴史や伝統、確かな技術力に裏打ちされた、もっといえば淘汰される中で培われた強さだ。

40以上前から続く大阪・鶴橋の「福助」は、その一軒だろう。
鶴橋といえば、すっかり焼肉タウンだ。駅を降りた瞬間から焼肉の匂い漂う、それが嘘ではない場所である。そんな鶴橋の駅を出た瞬間に、日本料理「福助」の小さな間口がある。そしてここは、魚介専門の、しかも魚介を鍋で食べさせる「ショット鍋」なる料理がメインの店なのだ。

店舗は、奥に長くカウンターが伸び、各所でコンロと鍋があらかじめセットされていて、ぼくも、鍋を挟んで同席の友人と座った。もちろん鶴橋の雑踏とは異次元の格調ある高級割烹だ。二階は広いお座敷で、もうすぐ半世紀を迎える店らしく、さまざまな過去の需要に応えてきた逞しさも感じる。

店の看板にもイラストが描かれているように、冬の時期は当たり前にふぐが出る。座るとまず、とびきりうまいてっさ(ふぐさし)の洗礼からスタート。
ショット鍋は、すべて大将はじめ店のスタッフが調理をする。基本は、煮立った鍋に一種類ずつ魚介や野菜などの食材を入れ、絶妙のタイミングでそれを取り出して、塩、もしくはポン酢で食べる。
ショットとは、ゴルフ、銃、お酒など、さまざまに使われるが、料理人が次々に食材を投入するさまを分かりやすく表現したと想像する。

ぼくは常日頃、焼肉や鍋料理など、客側に調理を任せてしまうスタイルを好まない。であれば家で作ればいいと単純に考えてしまう。いい食材とタレを買ってくれば、家庭でも十分に楽しめるからだ。
「福助」のショット鍋は、その考えをすっかり改めることとなった。ふぐ、ふぐの白子、サワラ、キンメダイ、キンキ、クエ……。高級白身魚が、鍋料理ではありえないレベルの分厚い切身でショットされていく。ここまで厚いと、ちょうど火が入る最高においしいタイミングがいつなのか、素人には見当もつかない。もちろん生でも食べられる鮮度だろう。ただ、茹でることで生まれる独特のあま味、魚それぞれの微妙な香りや違いを感じる愉しさは、プロに委ねなければ体験できない。実際、百貨店でふぐの白子を買って鍋に入れたこともあったが、どのタイミングで食べたらいいか迷っているうちに溶けてしまった苦い思い出もある。

タレは、塩とポン酢が中心。魚によってどれを選ぶか、場合によっては何もつけないでと大将からアドバイスがある。後半にはウスターソースが追加。これまた大阪らしい。アジフライの感覚で魚の種類によっては合うそうだ。高級魚をウスターソースで食べるのは初だが、目からウロコとはまさにここに使うべき言葉。

箸休め、と言うには失礼なほど、きんぴら、もずく、へしこ、漬物と、口を洗いリニューアルするに最適な品々が止めどなくカウンターに並ぶ。さらに、のどぐろのつけ焼きといった焼き物も加わる。

マグロマグロと新年早々からの豊洲の喧騒とは別次元な、白身魚のオンパレード。これこそが西だ。ここまで白身魚の食べ比べを愉しみ、魚料理の神髄に浸ったところで、最後に最高級の牛肉を一枚だけ、というアイデアも痛快だ。
このショット鍋、冬場だけではなく一年を通じて提供される。暑い時期はハモや松茸といった趣向らしい。その徹底ぶりも潔い。

日本酒もレアすぎる品ぞろえだった。飲んだうち、半分は知らない銘柄、そしてもう半分も知ってはいるが、その蔵にて限定出荷されている日常は見かけない代物。しかし、すべての酒が、香りや味に特出するまでの強いベクトルはなく、すべてが白見魚の繊細さに寄り添う儚い味わいだった。

ぼくが訪れた日、大阪北新地で最も老舗クラブのママが、プライベートで来ていて、大将と普通に比良山荘の話をしていた。
大将もママも、齢70代。やはり大阪は深い。

福助
●大阪府大阪市天王寺区下味原町1-23
●06-6771-8473
●17:00〜23:00
●月休
posted by 伊藤章良 at 22:00| Comment(0) | 日本料理 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: