いとうあきら イベントの企画・運営・演出を本業とするも、無類の食べ歩き好きが高じて“食べ手”の視点で店や料理を紹介。過去の書き手になかった大人の切り口で飲食への愛情を示した。著書に『東京百年レストラン(T〜V)』。

2019年01月01日

(119)赤坂「タンモア」

情報や星に流されない姿勢を貫く

若き女性シェフの堂々たる料理


あけましておめでとうございます。

2019年は平成最後の年、そしてプレオリンピックイヤー。激動・激変の昨年にも比して、目まぐるしい一年が予想される。
平(たいら)に成ればいいなあと、そればかり念じて執筆活動を続けてきたが、とりわけ飲食の世界は、ますます格差が広がっている。現実には紙一重の差もないのに、どうしてここまで客は一極集中するのか。正しい正しくないに関わらず、情報の一人歩きは本当に怖い。

もう一つ、イノベイティブ、ガストロノミックと呼ばれる料理が、ますます退屈になった。
イノベイティブじゃなければ評価されないのは、調査員のレベルの低さを顕著に現わしているだけだ。でも、評価されることを目標にひたする頑張る若い料理人にとっては、低次元の評価者に合わせざるを得ない。これでは料理人の真の実力は上がらないし、客は単なる模倣の連鎖を、高額を払って食べさせられる。

えらそうに言うつもりはないけど、レストランへお金を払うのは、ある意味その店や料理人への投資ともなる。価値ある投資をするために店を選ぶ、これが最近の心境となった。

赤坂のフランス料理店「タンモア」は、まったく存在を知らなかった。評論家でもライターでも、おそらく調査員でもなく、筋金入りのフランス料理の食べ手と尊敬する方からのメールだった。そこには、移転前の「フロリレージュ」に初めて行ったとき以来の衝撃とあり、その一言に震えた。確かに今の「フロリレージュ」は、賞レースに翻弄されている部分も見受ける(がしかし、いつかまた変わるであろうことも期待している)。

メトロの駅では乃木坂が最寄りだが、赤坂からの方が楽しいので、古くから飲食店が並ぶ馴染みの通りを進む。ビルの小さな地下食堂街みたいな一角に「タンモア」を見つけた。

年配の男性に迎えられる。あれ、この人と会ったことあるなあ。そうだワイン評論家の葉山孝太郎さんだ。著書も何冊か読んだ。かなり昔、葉山さんが主催する持ち寄りワイン会にVieux Chateau Certanを用意したら、こんな説明の難しいワインはつらいなあと愉快な口調で言われたことを覚えていた。
若い女性シェフの店との前情報はあったがワイン業界の重鎮に迎えられるサプライズ。記憶に残る一夜となりそうだ。

料理は月替わりでの一種類。メインの肉料理に選択肢があった。基本のフルコース、途中にチーズをはさみデザート2種を加えて7000円。食べた12月のメニューは、フォワグラ、オマール、ブーダン・ノワール、ショコラと、シーズンをきちんと意識した構成だった。

驚くべき、地に足着いた堂々たる料理。ムースがありソースがあり酸がありスープがあり‥‥‥。見かけの美しさや繊細さより、内面に描く姿が伝わる。口にした瞬間から感じる優しさと深み。ある面では大胆で、また別の側に儚さが添えられる、極めて趣きのある皿の連続だ。久しぶりに、舌だけではなく脳が喜ぶ感触があった。

女性シェフはルックスも含めとても若い。フランスで修業し日本に戻ってオープンしたと伺った。ややこしい師弟関係や星の数や流行りすたりなど意識の外にある。古い話で恐縮だが、成澤由浩シェフがフランスから戻って小田原の早川にオープンした「ラナプール」を思い出していた。

ワインのペアリングは、フランス産オンリーとそれ以外の新世界ものと、同じ3500円で2通りの用意がある。趣向自体面白いが、ペアリングの妙はさらに流石としか言いようがなく、失望することの方が多い昨今のペアリングにあって、説明の巧みさも含め文句のつけようがなかった。
葉山さんは毎日おられるわけではなく、シェフのお父様がお友達という縁で手伝っているとのこと。シェフのお母様は美術の先生で陶芸もたしなまれ、店の食器はお母様の手によるものだとか。情報に左右されない、本当の価値が分かる大人がサポートする姿もまた、シェフの人柄、いや個性に違いない。

今から、将来が楽しみだと書くのは少々勇気がいる。ただ、ずっとブレずにこの流儀を貫いてほしいと切に願う。

「タンモワ」
●03-6447-1996
●東京都港区赤坂8-13-19インペリアル赤坂壱番館B109
●12:00~14:00(LO)土日のみ。18:00~21:00(LO)
●水休
posted by 伊藤章良 at 21:12| Comment(0) | フランス料理 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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