いとうあきら イベントの企画・運営・演出を本業とするも、無類の食べ歩き好きが高じて“食べ手”の視点で店や料理を紹介。過去の書き手になかった大人の切り口で飲食への愛情を示した。著書に『東京百年レストラン(T〜V)』。

2018年11月01日

(117)日本橋「フォカッチェリア ブリアンツァ」

伝統の街に誕生した
ローカルなフォカッチャ専門店

9月にフィレンツェに行ったのだけど、着いた日があいにく日曜だった。
名だたるイタリア料理人の皆さんにフィレンツェの名店を教えていただくものの、すべて日曜休み。困ったなあと悩んでいたら、ひとり思い出した。
事情を説明すると長くなるのだが(笑、ぼくの友人の息子さんが20年以上フィレンツェに住んだ経験がありフィレンツェの大学も卒業している。ローカルかつカジュアルで日曜開いている店を教えてもらうには最適の人物だ。
その彼の推薦は、これまた別途一軒書けるぐらい素晴らしいレストランだったのだけど、ここでは冒頭だけ。

もちろん英語は全く通じない。メニューを開くとなんと1ページ目からパスタ、次にピッツア、そしてメインと、前菜が全く載っていない。こりゃまさに理想的な店に来たもんだとほくそえんでいたら、「フォカッチャをどうぞ」とテーブルに置かれたもの、誤解を恐れず形容すれば小麦粉で作ったカリカリのせんべいだ。そこに少量の塩とオリーブオイルがかけられ、その瞬間からイタリア料理になる。うますぎて、ぼりぼりパリパリと無心でつまむ。塩加減もほどよく、続いて運ばれた10ユーロしないボトルワインもクイクイ進み、一本空きそうな勢いだ。

フォカッチャは、日本においてもポピュラーな食べ物である。しかし、ファミレスや、そこそこのイタリア料理店でも、ふかふかの生地でオリーブオイルがしっとり感じられる、スポンジケーキのような食感のものが、日本では概ねフォカッチャと呼ばれている。

冒頭のフィレンツェのケースでも分かるように、フォカッチャといえどもイタリア全土でさまざまなタイプがあり、気候や土壌に合わせ独自に進化を遂げている。
イタリアを巡ると、実は日本に入ってきていない、もしくは違う形でひとり歩きしている例がまだまだあることを痛感する。法律的な制約や食材の輸入制限も考えられるが、「イタメシ」との愛称までもらいつつ、現地のイタリア料理には程遠いこともしばしば起こる。

六本木ヒルズなどで4店舗を展開するブリアンツァグループの奥野義幸シェフも、きっとその疑問、いや憤りを持っていたのだろう。
日本橋高島屋レストランフロアという、これ以上にない保守的な場所に、イタリアのフォカッチャを提供する専門店「フォカッチェリア ブリアンツァ」をオープンした。

イタリアで広く食べられているフォカッチャは、平たく焼いたパンの一種でピッツアの原型とも言われる。日本人がイメージするフワフワでもちもちのパンだけではなく、イースト菌等で発酵させない無発酵パンのカテゴリも存在するのだ。
そんなフォカッチャは、焼くのに時間がかからず粉の味をダイレクトに感じられる特徴を持つ。シンプルゆえ、他の食材との相性もいい。

「フォカッチェリア ブリアンツァ」では、フォカッチャで名を馳せるリグーリア州レッコの伝統的な手法を、東京日本橋へ持ち込んだ。レッコには、古くからのオリジナルレシピを守るフォカッチェリアがたくさんあり、オープン前にスタッフ全員で訪れたと聞いた。
イタリアン激戦区の恵比寿や西麻布ではなく、無発酵のフォカッチャを知らない層が集まるであろう日本橋高島屋であえて披露した大胆さに瞠目すると同時に、この環境にもキッチリとハマる仕掛けが随所に施されている。

基本フォカッチャは、現地から取り寄せたストラッキーノチーズをはさんで焼く、レッコのやり方そのままだ。トッピングや特別に吉田牧場の国産チーズも選択可能。それらを決め焼きあがるまでの間、本格イタリア料理がビュッフェから取り放題。ブリアンツァ本店で修業したシェフがすべて手作りで用意する。前菜や野菜料理は、それぞれ細かく味付けが異なり、サラダに使用する葉物野菜も新鮮で苦みばしった歯ごたえ。スープやパスタ類のホット系に加え、肉、魚料理も。フィレンツェ名物「ランプレドット(牛ギアラ煮込み)」まで、さらっと置いてある。
スタッフから、フォカッチャが仕上がるまでにお腹一杯にならないでくださいねと声がかかるが、そんなことをすっかり忘れて全種類制覇だ。

ビュッフェを2〜3順した辺りでフォカッチャが登場。見た目は大きいけれど軽くて食べやすい。小麦の味もチーズの香りもしっかりと感じられ、舌の上での触感まで記憶に残る。まるで上質のパスタやうどんを食べたときと同じ喜びだ。あっという間に食べてしまうが、その後、空前絶後の満腹感に驚愕。すでにビュッフェには戻れない。こうして取り放題といっても皿に残すことのない流れも、してやられた感アリだった。

果物はビュッフェにあるもののドルチェはない。ところが自らカップに入れるソフトクリームが食べ放題。エンディングにも遊び心を忘れていない。

日本橋高島屋レストランフロアに灯った新しいイタリア料理の潮流。10年後にはあちこちにフォカッチェリアが出来て、イタリア各地のフォカッチャを紹介しているかもしれない。こうして海外の料理が正確に日本に浸透していく姿に、ぼくは改めて期待する。

「フォカッチェリア・ブリアンツァ」
posted by 伊藤章良 at 19:20| Comment(0) | イタリア料理 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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