いとうあきら イベントの企画・運営・演出を本業とするも、無類の食べ歩き好きが高じて“食べ手”の視点で店や料理を紹介。過去の書き手になかった大人の切り口で飲食への愛情を示した。著書に『東京百年レストラン(T〜V)』。

2018年09月01日

(115)大阪「かわ原」

日本料理なら大阪が一番。
全身全霊で伝える真のうまさが染み渡る

おいしい料理が食べたい。
最近外食をするといつも最初にそう願う。
おいしさの定義は、もちろん人それぞれだ。でも、料理を提供する側から、おいしいだけの料理を作りました。ぜひ食べてください、みたいな意思や愛情が感じられないケースが多くなってきた。予約が入りすぎて多忙だったり、客の着眼点がおいしさとは別にあったり、店の目指す姿もおいしさとは次元が違ったりもしているようだ。

店名を特定するつもりもないけど、世界のベストレストランで長らく一位だったレストランが東京にもできたらしい(正確には同じ店ではないが)。世界ベストで過去一位ということは、今以上に伸びる可能性は低く落ちるばかりの店。今更なぜ東京にオープンするのだろうか。バブル期にゴッホやシャガールの絵ばかり買いあさっていた日本人と非常によく似ていて、ある一定の評価を得たもの、きちんと前例のあるものにしか手を出そうとしない、自らの価値観を持たない典型だ。

ネット上でしか見たことはないけど、すごく高いお金を払ってムシや花を食べるそうだ。金持ちの変態的享楽ならそれもありだが、果たしておいしかったねーと純粋な気持ちで店を辞することができるのだろうか。

その点、大阪はシビアである。まずは、お金に厳しい。二言目にはそんな高いもん食えるか、が合言葉。大阪の高い店は、ほとんど東京の客だったりする。そこに京都への対抗意識が加わる。なぜ喰えない葉っぱや飾りつけにまで金を出さなあかんのや、とくる。
ただしその底辺には、おいしくないものに金を払いたくない強い信念がある。ゆえ、必然的においしいものへの選択と集中はすごい。

特に日本料理は、日本でもっとも大阪が優れると最近思っている。一番分かりやすいから、そして全国がライバルだからだ。
そんな大阪割烹の潮流に数えられるのが、「とよなか桜会」だ。この店は、有名政治家・H氏が密かにここで戦略会議を開いていたことでも一部で知られる。もしH氏が今後日本を変えるような政治家になったら、歴史の教科書に載るかもしれないと勝手に思っている。
「とよなか桜会」は、エスプーマで泡状にしたダシを天ぷらに添えるなど、イノベーティブな手法を取り入れた日本料理店としても知られた。しかしそれは、ダシに浸して天ぷらの衣を殺してしまうことなくダシの香りも楽しむための工夫。さらなるおいしさを求めてイノベーティブな技を取り入れたのみで、客を驚かせるためではない。というか、ここまで世界中に料理写真が配布されネタバレが連続すると、見て驚くようなイノベーティブ料理は、写真を撮られた瞬間から時代遅れだ。

「とよなか桜会」門下からは、大阪福島に「楽心」をオーブンした弟子がいて、そこも大変すばらしいものの、今回は新たに登場した同じ一門の「かわ原」を取り上げたい。
場所は中津。大分ではなく大阪市北区。大阪梅田から歩いても大した距離ではない。というか、ぼくは大学時代、この中津で暮らしていた。京都の大学に通うのにわざわざ大阪で住むことにこだわった。それだけ便利で意外と静かな優れたエリアだ。

しかも「かわ原」は、大阪の大幹線道路である新御堂筋から一本脇の路地ながら、京都の町屋風情な渋い木造二階建て。よくこんな場所を見つけたなあ。30年前に暮らした中津にこんな建物があったこと自体、驚かされた。
そこを上手にリモデルし、玄関から少し折れ曲がりつつ進むと、喧騒を打ち消す静謐なカウンター席が現れる。

料理には全国各地から優れた旬の食材を集めるが、それぞれを惜しみなく組み合わせる度量が頼もしい。果物、野菜、キノコ、魚、そして極め付けのダシ。各種の食材が皿の上での突然の出会いを喜んでいる様子が客にも伝わってくる。一つ一つで十分おいしいのに、さらにお互いを持ち上げて相乗効果をもたらすアイデアが随所にある。

そして、巧みな組合せで新たな味覚を提供されても、ほんの小量しか皿の上にないとそこを感じる前に終ることも多い。いっぽう「かわ原」は、ひと皿に十分なまで盛り込まれるので、気づき確認しそしてまた気づく、を繰り返すことができる。そこまでやってこそおいしさの提供だと言わんばかりの大阪スピリット。

「これ、おいしいでしょ。けど、けっこう仕入れ高いんですよ」みたいなことを、さらっと平気で言うのも、カッコつけない大阪たる所以。威圧的なところは微塵もなく、あくまで低姿勢を保ち座を和ませ感動を共有する。高い調理技術を持ちながら、あくまで人対人として客をもてなす心を忘れない。少々の不手際やドタバタも、さっと笑いに替えてしまう話術は、大阪で培われた賜物だろう。小さなほつれが大きなほころびとなることも多い、特に客と対面なカウンターでの食事には、さらに欠かせない魅力だ。

威風堂々なのも、苦虫を噛み潰したような表情を変えないのも、一種のスタイルだろう。だか、笑顔の中においしさの相乗効果が生まれるのも間違いのない事実だ。人間力すぺてを使って、おいしさを感じてもらおうとする料理人の精神に触れるときこそ、食べ歩きの真の愉しさを知る瞬間なのかもしれない。
「かわ原」にて、改めてそれを知ることとなった。

「かわ原」
●大阪府大阪市北区豊崎2-4-21
●06-6131-4668
●11:30〜14:00 17:30〜(LO21:00)
●不定休
posted by 伊藤章良 at 10:32| Comment(0) | フランス料理 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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