いとうあきら イベントの企画・運営・演出を本業とするも、無類の食べ歩き好きが高じて“食べ手”の視点で店や料理を紹介。過去の書き手になかった大人の切り口で飲食への愛情を示した。著書に『東京百年レストラン(T〜V)』。

2018年08月01日

(114)軽井沢「ラ・モンタニョン」

気分も最高潮。軽井沢で出会った
魂こもった小さなビストロ

最近の東京の食シーンでは、地方で名を馳せた、というと聞こえはいいが、地方で食べログにて高い点を得た店が東京に進出してくるケースが後を絶たない。行った自慢、食べた自慢が主軸の食べログでは、わざわざ遠方の店まで出かけている自分はすごいというバイアスがかかり、採点も甘くなりがち。
その地に存在してこそ輝く店であることを評価基準とすべきだし、タイヤメーカー「ミシュラン」の販促ツール『ミシュランガイド』のように、旅をしても行くべき、みたいな考え方が理想なのだが‥‥‥。

そんなレストランが、何ゆえゴミゴミした東京の真ん中で再オープンするのか。正直、何のワクワク感も期待もない。ましてや、全国各地で異彩を放っていたからこそ貴重なので、東京に来れば、大都市で切磋琢磨している店々に埋もれてしまうばかりか、対抗するのも困難が予想される。

おそらくは、東京の資産家・投資家が、東京でやらないかと声をかけるのだろう。もちろん地方でそれなりの名声を得ても、大都市で勝負してみたいとする料理人も多いに違いない。さらに、どの店も大変な高額と聞く。そりゃ当然だ。投資家に吸い上げられる分を客は負担させなければならない。

ところが、とんでもない高額もどこ吹く風で、それなりに席は埋まっているようだ。そんな店に浸食を許すぐらい東京のレストランは脆弱なのかと気の毒かつ寂しくなる。『浮かれた』客側も、投資家に大半を吸い上げられているにもかかわらず、地方から来た料理人の店に大枚を払う。


ならば今回は、東京を離れ地方で気を吐くレストランを取り上げてみたい。
場所は軽井沢である。ぼくは軽井沢で開かれるクーカル(「食う軽井沢」からのネーミング)というイベントの立ち上げ時のメンバーのひとりで、当時、少しだけお手伝いをしていた。ゆえ、その時は頻繁に軽井沢に行き現地のレストランにも足を運んだが、これといって印象に残る店とは出会えなかった。

当然だ。軽井沢は築地と同様に巨大な観光地である。観光地にうまいものなしとは世界の共通語。ところが意外にも、軽井沢のメインストリート、旧軽銀座の片隅にその店はある。
「ラ・モンタニョン」は、4人掛けが一卓、2人用が二卓、合計8席の小さなフランス料理店。「山の民の燻製」とも銘打つように、自家製シャルキュトリ(肉の加工品)の販売も兼ねている。
いっぽう、ダイニングで食事の際、「ラ・モンタニョン」のスペシャリテは舌平目のムニエルだと軽井沢在住の民から聞かされた。そんな外枠情報だけでも、゛ぼくのワクワク感は最高潮となっていた。

そして。
シェフ一人、マダム一人のミニマムな空間ながら、ぼくが今一番食べたいフランス料理が「ラ・モンタニョン」には揃っていた。

メニューにあれば、アンドゥイエットがマストと教えられたものの、訪れた日はなくて(といっても、都心のビストロでも今やほんどお目にかかることがないが)「豚足の焼テリーヌ アピシウス風」をチョイス。食感のバラエティさ、香り複雑さ、加えて焼きが呼び込むアドレナリン。この一皿でアンドゥイエットに巡り合えなかった寂しさは一気に紛れた。

舌平目のムニエルはもう、見た目から「鰻の蒲焼ビストロ風」とでも表現しようか。分厚く香ばしくクリーミー。添えられたバターライスがさらに鰻丼感を増長する。「牛肉やトリッパ(牛の内臓)の煮込み」も、ユーラシア大陸など軽く越えて、フランスそのものに降り立った自分がいた。

わずは8席の店をここに紹介するかどうか、少し迷った。でも、軽井沢の地で一人孤独に奮闘するシェフの姿を拝見し、すばらしい料理や人柄にも接し、やはり書きたくなった。
加えて「ラ・モンタニョン」は、ガイドブック的には「ナポリタン」が名物となってウェブ等に登場する。ぼくが訪問した日も、ぼくたち以外の客は全員ナポリタンを食べていた。ナポリタンはシャルキュトリを作る際に出た切れ端の肉を使っているそうで、そりゃウマイに決まっている。それ以上に、ナポリタンを軽く凌駕するメニューの数々がこの店にはあることをお伝えしたかった。

夏の観光シーズンは少々大変かと拝察するが、1月〜3月を閉める以外は通年でオープンされるという。秋口以降、寒くなってきたら、ぼくにとって「ラ・モンタニョン」の温かい煮込み料理が毎年の定番となりそうな気配だ。

「ラ・モンタニョン」
●長野県北佐久郡軽井沢町大字軽井沢668 軽井沢ショッピングアレイ 2F
●0267-41-6401
●11:00〜20:00
●水休
posted by 伊藤章良 at 09:11| Comment(0) | フランス料理 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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