いとうあきら イベントの企画・運営・演出を本業とするも、無類の食べ歩き好きが高じて“食べ手”の視点で店や料理を紹介。過去の書き手になかった大人の切り口で飲食への愛情を示した。著書に『東京百年レストラン(T〜V)』。

2017年06月01日

(102)和歌山「ヴィラ・アイーダ」

和歌山の土地と旬の魅力を
その地で鮮やかに描く自然体料理

東京の著名なフランス料理店シェフが、スペインの料理人を連れて北陸の食材を探し巡るNHKの旅番組を観た。
北陸から滋賀まで、さまざまに日本固有の食材や優れた料理法を紹介しながら試食する。最後に厨房へ戻り旅の思い出の一品を二人のコラボで作り上げるという趣向だ。それを観ながらふと考えた。スペイン人シェフが口に出して言うシーンはなかったけど、「それなら、なぜオマエは北陸の地でレストランを開かないんだ」と、普通に聞きたかったのではないか。

最近とみに東京の料理人が、生産者生産者と声高に言うようになった。もちろん料理は食材ありきで生産者と関係を密にし敬意を払うことは極めて大切だ。自ら食材を探して全国を歩いたり、生産者と渡り合ったりすることも、食べ手として頼もしく感じる。
ただぼくは、生産者ありき、生産者頼みではなく、集められた食材を折り重ねアレンジすることが、東京の料理人としての役目、技の見せどころで、客はそれを楽しみに足を運んでいると考える。

東京にここまで多くの飲食店が林立する中、自分の店を他と差別化するにも、差となる特徴を見つけるのが困難ゆえ、生産者の個性や名声に頼らざるを得ない閉塞感が、どうも腑に落ちないのだ。

東京で飲食店を展開する意味は、ビジネスが生産者本位を上回るからに他ならないと思う。それは正しいし恥ずかしいことではない。でも、自分が生産者本位であることを隠れ蓑にしてビジネスにいそしむ面々を潔いとは思えない。

フランスの偉大な料理人フェルナン・ポワンは「若者よ、故郷へ帰れ。そしてその街の市場に行き、その街の人の為に料理を作れ。」との言葉を残している。もし生産者ありきなら、故郷の市場に行き、その街の人の為に料理を作るべきではないか。それがいずれ世界中から客を集める料理になりうることは、フランスのミシュランガイドが100年かけて証明してきた。

今回紹介する和歌山の「ヴィラ・アイーダ」は、約20年間の研鑚によって生産地に根付くことを証明した貴重なレストランである。よく知られるように、和歌山地場の食材だけではなく、それ以上に自分の畑で栽培した野菜を中心としてコース料理を構成している。市場でも見ることのできないような野菜の数々は、東京でも注目するシェフが多く、「フロリレージュ」の野菜も「ヴィラ・アイーダ」から一部を仕入れていると聞く。もはやイタリアンと呼ぶより、言葉を探すなら和歌山料理店だろうか。

フランスやイタリアでも、クルマでしばらく走らないと見つからない、吸い込まれそうにステキな外観。食事の楽しみは、すでにここから始まることをヨーロッパを巡って幾度か体験し、和歌山でもまさにそれが可能な場所があることに気づく。

訪れた日はゴールデンウイークの最中。元々料理人だったというマダムから、今の時期は豆しか収穫がないので、今日は豆のコースですよと告げられる。豆というのは日本人の感覚からいうと少々軽んじられる平凡な食材である。というのも、ほとんど目にすることのない豆の豊富な種類を知らないからだろう。

その日の豆の個性は圧巻だった。そして、堂々たるものだ。
東京のレストランでは、今は豆しか取れないという理由で豆を中心にコースを作ることなどありえない。ところが「ヴィラ・アイーダ」は、あえて挑戦する。季節や収穫のイメージに結びつけ、店のコンセプトを客に認識、納得させるためなのだ。

もちろん豆が主体としても、それを補い凌駕する食材は、魚・肉を含めてふんだんに登場する。そこでも当然、和歌山の地のものばかりとの組み合わせだ。徹底したこだわりというよりは、自然体なのだろう。いかに日本の、とりわけ東京のレストランが無理や苦労をして料理を提供しているか、「ヴィラ・アイーダ」に来ると感じることができる。

さらに驚いたのは、お酒とのマリアージュだった。
マダムのススメでチョイスした北イタリアのシャルドネとともに、お店と隣接する海南市で醸された日本酒を持ち込ませてもらった。
驚いたことに、前菜から肉料理に至るまで、どの料理もどの皿も、ワインより日本酒の方がすっきりと調和して、料理のエッジをさらに際立たせる触媒となってくれた。これこそがテロワールのたまもの。原料が米だの蒲萄だのとは関係なく、和歌山の食には和歌山の酒だという衝撃の事実だ。

たまたま隣の席に大勢の東京からの集団がいて、コント・ラフォンなどのワインを持ち込んで食事会をしていた。東京から和歌山までやってきて、フランスの高級ワインを飲むという。その姿は、あまりにもステレオタイプで残念としか思えなかった。

ぼくたちが「ヴィラ・アイーダ」を目指す意味、そして意義。ここにはビジネスとは真逆の、崇高な料理人としての思いがある。それに習い身を任せることのできる客がもっと増えれば、故郷に帰る若者も増えることになるのかもしれない。

「ヴィラ・アイーダ」
●和歌山県岩出市川尻71-5
●0736-63-2227
●11:30〜14:00、18:00〜21:00
●月休(祝日の場合は翌日)
posted by 伊藤章良 at 10:48| Comment(0) | TrackBack(0) | イタリア料理 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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