いとうあきら イベントの企画・運営・演出を本業とするも、無類の食べ歩き好きが高じて“食べ手”の視点で店や料理を紹介。過去の書き手になかった大人の切り口で飲食への愛情を示した。著書に『東京百年レストラン(T〜V)』。

2017年02月02日

(98)渋谷「池湖」

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高額の波が押し寄せる本格中国料理において安価。
立地でもたげるオトコの下心を抑制できる上質な料理

前回、「たいへん上手に描けた子供の絵」を題材にしたので、今月も少し絵画を例にとって話を始めたい。
ここ何百年間で描かれた巨匠とよばれる画家の作品は、当然ながら世界的に高く評価され、とてつもない高額で取引されている。とりわけ日本人は、この「世界的に高く評価された」ことが大好きで、評価と価格が高いから、この絵は優れていると認識。個人の好き嫌いとか感性に合うとは関係なく展示会に出かけ、金持ちはこぞって購入する。どこもかしこも、ゴッホやシャガールばかりである。

誰もが優れていると認めてしまった(すでに終了した)ものへの憧憬や投資ってワクワクするのだろうか。もちろん投機のために動かす人たちもいるだろう。それは芸術を金儲けに使うわけで、さらに卑しいともいえるが。

近いことが東京の外食の世界でも起こっている。
予約が全く取れなくなった超人気店ばかりを集め星やアワードを授与したりパトロンになったりという金銭や労力を、底辺を引き上げ埋もれている価値を見出す方向に繋げていけないものだろうか。
すでに価値や名声を確立した料理人や店より、自分自身や自分の仲間で密かに楽しめ共有する、そんなキラリと光る店を見つける悦楽を享受しないのか。

他人が、というより多くの人が散々に引いたレールを単にトレースするだけの、安全で退屈なスタンプラリーばかりを近くで見ていると、やっぱりここでも、結局は子供の課題解決手法なのかと思わざるをえない。大人にしかできない、というかもっと皆で大人になって大人の愉しみ、応援の歓びを感じたいものだ。

今回取り上げる中華バル「池湖」は、東急文化村から渋谷のホテル街に上がる坂の途中にある。自ら中華バルとオフィシャルサイトで名乗っているのでしかたがないが、〇〇バルと称するだけで、最初から料理はイマイチですと言い訳をしているようにも見え、しかも黒く埋もれたビルの4階。食べること以外の目的がないと選択肢にはなりにくい環境だ。

ところが。
中華バルなのに料理がめっぽうウマイ。2017年2月現在、男性が一人で営むが、つき出しのえびせんから、客が来るたびにひとつひとつ丁寧に揚げて用意する。名物である焼豚も注文を受けてから火を入れ始める。カウンター中心で店主の動きが逐一見渡せ、よどみなくテキパキと対応しつつ料理のすべてに手間を惜しまず真面目一徹なのを確認する。

メニューにXO醤を使った料理があったので、自家製ですかと聞いたら、醤の作り方は修業先で学んできたが、一から作ると採算がとれないので仕入れています。でもいつかは自家製でやりたい、との言葉が返ってきた。
ただ、ほとんどの調味料は自家製。食材のロスを極力なくすための小さな工夫がちりばめられ、玄人をも唸らせる技巧を随所に備える。
そう、店主はアイアンシェフ脇屋友詞氏のもとで、約10年じっくりと修業を積み、脇屋氏と中国各地も回ったという。

さらに言えば、大丈夫なのかと心配するぐらい安価だ。安さゆえ客層が荒れることも先回りして不安になる。昨今、鮨だけではなく中国料理にまで高額の波が押し寄せ天を仰ぎたくなるが、ここではそんな不安も一掃。未だ食べたことはないが、フカヒレ(6,000円)もメニューにあるので、いつかトライしてみたい。

さて『東京いい店やれる店』という黄色い本をご存知だろうか。
やれるかどうかという視点で飲食店を評価する画期的なガイドだが、やれるためには、下心を封印しつつそれを上回る驚きや意外性、ひいては感動を与える店を選ばなくてはならない。「池湖」こそ、立地といい味といい、いい店やれる店の秀逸なる一軒ともいえよう。
店名の「池湖」は、店主が池田さんなので、池よりも大きな湖に成長したいとの思いでつけたそうだ。ただ一説には、店主が通っていたゲイバーでイケコと呼ばれていたからだとも聞く。そんな店主ゆえ、さらに「やれる店」としてオトコの味方となってくれるような気がする。

「池湖」
●東京都渋谷区道玄坂2-22-6 CREA道玄坂 4F
●03-6455-1550
●11:30〜14:30、18:00〜23:30
●月休

posted by 伊藤章良 at 11:09| Comment(0) | TrackBack(0) | 中国料理 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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