いとうあきら イベントの企画・運営・演出を本業とするも、無類の食べ歩き好きが高じて“食べ手”の視点で店や料理を紹介。過去の書き手になかった大人の切り口で飲食への愛情を示した。著書に『東京百年レストラン(T〜V)』。

2017年01月01日

(97)新橋「割烹 山路」

今年も期待。大人の作品を描く
若き日本料理人

あけましておめでとうございます。
今年もどうぞ宜しくお願いします。

そろそろ、この新・大人の食べ歩きも100回を数えるということで、書き始めた当初はいろいろと方向性を模索していたものの、最近は自分が書きたいことを比較的完結に書けるようになってきたかなと感じています。少しずつブレイクスルーした自分を、今年もこのページに表現していきたいと思います。

TBSのバラエティ番組で、数枚の絵をパネラー見せてその中で一枚だけ何億円もするものを当てるというコーナーがある。ぼくもテレビを観ながら考えるが、絵の質感や色がテレビだとよく分からないこともあり、何億もする絵画を当てるのは相当難しい。もちろん回答者も外す人が続出する。しかも、その高価な絵画以外は小学生が描いているとの種明かしもある。今の小学生ってすごいなといつも関心しっぱなしだ。

さて、最近特に料理の世界で思うのは、ああ、このお皿って、たいへん上手に描けた子供の絵と同様だなと感じるケースが頻繁にあることだ。特に和食系に顕著。加えて言えばそんな子供の料理に何万も出す人の多いことか。

子供の絵と何億もする芸術作品との違い、それは、キャンバスの中にどれだけ無駄がないか、その中で可能な限り取捨選択、いや引き算ができているかだと考える。概念的には分かっているものの、四角い中にそれを見つける能力や経験は自分にはない。いっぽう料理の世界では、経験だけは長年積んできたので、これは子供の上手な絵なのか、きちんと大人が描いた作品といえるのか、そこに高額の価値があるのか。ある程度判断できるような気がする。

2016年を振り返って、東京の日本料理店で大人の作品だなあと強く印象に残ったのは新橋の「割烹 山路」。意外にもかなり若手の料理人だった。
店は烏森神社脇の飲食店街、ビルの2階である。つい先日まで別の形態の店が営業していた空間をそのまま引き継いでいるようにも見え、店舗からは料理人本人の個性や主張はほとんど感じられない。あえて言うなら、「山路」という暖簾ぐらいだろうか。

そんなシンプルな環境下で食事はスタートしたが、皿が自分の前に置かれるたび、静かに心が震えるような感動を久しぶりに経験した。店主はこれと決めて入手した食材をさらに一つ一つ吟味し、食材を際立たせる調味料を自作し、それ以外は何も加えず足さず仕上げる。今日は魚河岸にすごくおいしそうなハタハタがあったのでと、シンプルに焼いて供するが、見たこともない大きなハタハタで身は締まり、たっぷり卵も詰まっていて別種の味わいがあり、そこにほんの少し添えられたオリジナルの調味料との組み合わせで、シンプルな焼き魚にも3度の楽しみをもたらす。

料理人もそれを紹介するライターも「食材の持ち味を生かす」と安易に表現するが、基本的に食材の持ち味を生かせなくてはプロの料理人ではない。ぼくたちは、食材の持ち味が生かされた次の段階を心待ちにしているのだ。単に持ち味をいただくなら、わざわざ料理店に足を運ぶ必要はない。

たとえば、とても渋い野菜があったとして、ほんの少しの調味料や調理技術でその渋さを損なわず、逆に上手に印象づけながら美味しいと感じさせる。食べ手側は、「え、何か手を加えた?」と首をかしげるぐらいな引き算のなせる技。「割烹 山路」の料理にはそれがあった。

若いながらも彼のなかに、きちんと食材そして調味料が整理されていて、一皿一皿それぞれの戸棚を開いて提供するのだろう。高級品や希少品を乱暴、いや無謀に組み合わせて豪華に皿に盛り付け、客の舌よりは情報が詰まった左脳にのみ働きかける。さあどうだと眼前に置かれても、それはやっぱりたいへん上手な子供の絵なのだ。そこにぼくは技も洗練も魅力も愛情も感じることができない。

清酒の選択も彼らしい。自分は酒のことがあまり分からないので、二軒の酒屋さんに対し、コースの最初、中盤、ラストに合うとの観点で三本持ってきてくださいとオーダーするそうだ。「割烹 山路」には二軒の酒屋が競う銘酒が、マリアージュも考慮され常に6本揃っている。実にクレバーなやり方だと思う。

食べてこそ美味しい、それは食べた本人だけしか味わえないからこそ価値がある。将来が楽しみな店との出会いは、客自身をも若返らせる。

「割烹 山路」
●東京都港区新橋2-9-12 フロンティアビル 2F
●050-5590-8896(専用予約)
●12:00〜(なくなり次第終了)、18:00〜23:00(L.O.22:00)
●日祝休
posted by 伊藤章良 at 20:15| Comment(2) | TrackBack(0) | 日本料理 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
毎月楽しみにしています。更新はまだでしょうか?
Posted by ピ−助 at 2017年02月02日 09:31
ピー助様

いつもお読みくださり、ありがとうございます。
アップが遅くなりまして大変申し訳ありませんでした。先ほどアップさせていただきました。
今後ともよろしくお願いいたします。

〜管理人
Posted by 管理人 at 2017年02月02日 11:11
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