いとうあきら イベントの企画・運営・演出を本業とするも、無類の食べ歩き好きが高じて“食べ手”の視点で店や料理を紹介。過去の書き手になかった大人の切り口で飲食への愛情を示した。著書に『東京百年レストラン(T〜V)』。

2016年04月01日

(90)神楽坂「龍公亭」

百年の月日が紡ぐ圧倒的な存在感と

これから百年の未来も感じる名・中国料理店

前回はお休みをいただき、申し訳ありませんでした。
体調不良と大家さんは案内をしてくださってますが、不良だったわけではなく、命には全く別状ないプチ手術をし、その療養をしておりました。

さて、ひょんなことから案内役としてレギュラー出演している「ニッポン百年食堂」だが、おかげさまで4月から2シーズン目に突入。収録回数も増え、その結果ロケに費やす日々も多くなり、しかも療養をしていた関係で現在多忙を極めている。

こうして、全国で百年以上続いている飲食店の皆さんと会い、お話をうかがうと、ますます新規オープン店やファインダイニングばかりを追っかけ論じることの「不毛」を感じる。そして、そこにばかり注目するのは相当なマイノリティであるとも痛感させられ、一抹の寂しさもある。

一方、こうして出会う百年食堂は、そのほとんどすべてにノスタルジーと達観を感じるわけで、それが今にどう通じているのか、今とどう共存していくのかについては、厳しい現実を見ることも多い。しかし取材した百年食堂のなかで、神楽坂にある中国料理「龍公亭」は、「東京カレンダー」や「dancyu」に掲載されても違和感のない雰囲気と内装を備え、現在やこれからを見据えた確固たるコンセプトで営業をされている、貴重なレストランである。

今や神楽坂もメインストリートはチェーン系の居酒屋・レストランに席巻され、神楽坂を知り、愛する自分たちは、常に脇道をめざし通り沿いの店に入ることはない。飯田橋から神楽坂を上る、その中腹ぐらいだろうか。「龍公亭」は神楽坂沿いにあって、もっともシンプルで小さなサインが掲げられるのみ。派手で品のない看板をかき分けかき分け、やっと発見できる程度で、表から見る店のどこにも、すでに百年以上続いていることを知る要素はない。

あまりにもカッコいい。老舗ゆえの引きの美学であろうか。
「龍公亭」のロゴマーク、店内に貼られたポスターや絵画をとっても、一分のスキもない完璧な同時代性と芸術性を秘めている。百年という縛りでずっと店舗を見てきたぼくには、驚愕をもっても語りつくせない事実だ。

ダイニングでもっとも特徴的なのは、神楽坂に向かって設けられたテラス席。坂の中腹、2階のその席からは、神楽坂の上から下まで全てを掌握したようにも錯覚するパノラマで天守閣に上った気分。神楽坂からテラス席を見上げるだけでは、この風景はまったく想像できないのもさらなる驚きだ。

料理は神楽坂らしく、花街の着物の女性でも界隈の年輩の男性でも親しめる、野菜を細かく刻み脂っこくない中国料理を志向していた。神楽坂に暮らした田中角栄が好んだメニューも存在する。
ただ、現料理長の四代目は、周冨徳が料理長時代の「赤坂離宮」で修業を積んだという。その時代の話を聞くと、料理の技というより、中華厨房の熱気を一番に学んだそうだ。

例えば、麺は創業以来全て自家製、そして無化調。こういったベーシックながらなかなか実現しがたい特徴を、大きく喧伝することなく継続しているさまも老舗の矜持だろうか。番組中でもぼくは言ったが、百年の月日に甘んじることなく常に成長し続けようとする姿勢は、まさに現代の名シェフにも通じる魅力かと思う。

プライベートなこともあるので詳しくは語らないが、話を聞けば聞くほど、「龍公亭」は、四代目料理長の奥様、若女将がキーマンなことがわかる。彼女の視点、そしてネットワークが、現状に甘んじない、次の百年をも見据えた展開へと通じている。こうして長く続く店とは、その時々を司る人の才覚によって決まるんだなと、改めて感じさせられた。

「龍公亭」
●東京都新宿区神楽坂3-5
●050-5590-0259 (予約専用番号)
●03-3260-4848 (お問い合わせ専用番号)
●11:00〜14:45LO、17:00〜21:30LO
●年末年始休
posted by 伊藤章良 at 15:09| Comment(0) | TrackBack(0) | 中国料理 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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