いとうあきら イベントの企画・運営・演出を本業とするも、無類の食べ歩き好きが高じて“食べ手”の視点で店や料理を紹介。過去の書き手になかった大人の切り口で飲食への愛情を示した。著書に『東京百年レストラン(T〜V)』。

2015年05月01日

(82)五反田「かね将」

この町にしかない、自分しかできない。

そんなポリシーが響いてくる銘居酒屋

フランス料理が好きな人は居酒屋について論じないと思うし、居酒屋フリークは結婚式以外でフランス料理を食べることもないだろう。
フランス・イタリアを歴訪するメンバーはハワイには行かないに違いなく、同じく香港や台湾のリピーターもハワイに食指は動くまい。

ただぼくは、日本中の世界中のすべてに顔を出す。自分にとってはあらゆる食が同じ土壌に載っているからだ。もっと言えば、食の興味に貴賤がないからだ。しかもそれは、広く浅くではなく、広く深くである自負も持っている。
よって、居酒屋フリークにも、フレンチ・イタリアンラバーとも、ハワイ通でも、ヨーロッパを歴訪する面々にさえも、なんとか同等についていけると思っている。

でも、とりわけ居酒屋が好きだ。
それは、居酒屋で飲むという時間が掛け値なく楽しいのとともに、居酒屋で働く人集う人に加わり交わるのが震えるほど興味深いからだ。高級フランス料理や江戸前鮨などでは、ワインも日本酒も飲まず、レストラン情報以外の話題で同席者と会話することもなく、デジイチで一心不乱に写真を撮っている、とまあそんなヤカラばかりを散見するトウキョウ。本当に食べること飲むことを、独りでもカップルでもグループでも、心の底から楽しもうとする人種は、昨今居酒屋にこそ存在するのだと感じている。

もちろん、居酒屋というのは、今や日本中のどんな駅に降りても、駅前にまったく同じ看板やサインばかりがギラギラと目を引くチェーン店ではない。「いざかや、いかがっすか」と兄ちゃんがチラシを配る、みたいな店は、対象外というか最初から規格外である。

基本、その街にそこしかない店、いや東京中にそこしかない店を目指す。
街にヒトに根付き、店としての矜持やポリシーがあり、スタッフも皆、誇りを持って働いていて、大将やスタッフは、常連から〇〇ちゃーんと愛称で呼ばれる。そんな世界。
たとえ駅から15分歩くことになっても、駅前のチェーン店に吸い込まれることは決してない。いや、15分歩けば幾倍もの楽しみや喜びがあふれるのに、それを体験しようしないこと自体、天を仰ぎたくなる。

こういった店は、山手線の上側以北か東側にしかなかなか見つかりにくいのが今の東京だが、五反田にも貴重なる一軒がある。「かね将」という。
「かね将」とは、マツケンやキムタク同様、店主の名前を縮めた愛称だそうだ。店主は金子章治というが、そこは「章」ではなく「将」と収めたところがカッコいい。意外にも五反田駅から徒歩すぐ。多くのチェーン居酒屋やラブホテルに囲まれながら、ご自身の愛称を掲げて切り盛りし続けてこられた。その生業がストレートに頼もしい。

入口が複数あるので中の様子はある程度掴めるが、意外と奥に深くて客席数も多いので回転も速く、居酒屋より酒場と言うにふさわしい。店内はとても賑やかで混雑時には外にまで客があふれる。お店のファサードにもfacebookページでも、焼きとん酒場とタイトルが付いている。にもかかわらず、食べログ等のサイトでは焼鳥との表記も散見するが焼鳥は存在しない。

ベースのもつ焼きのみ活字で、それ以外のメニューはすべて手書きか板書。こうも活気のある酒場にいると、手書きの短冊や板書のメニューのみが目を引き、活字のもつ焼きはすでにそんな中に埋もれている。焼きとんを看板にスタートしたけど、やがて店主の才覚や趣味か高じつつ、客の求めるものを揃えるなかで、どんどん変化していく。そんなさまが、壁じゅう所せましと貼られた短冊を見ていると感じてくる。

店主奥様の故郷の味として「牛すじトマト煮」が名物と言われる。それにガーリックトーストを添えるのが定番らしい。ワインとでも言いたくなるが、「かね将」ではすっかり甲類焼酎のお供として定着。酒のピッチも加速度的に早まっていく。

加えて愛すべきは、店で働くスタッフだろう。客層はほとんど自分の親の世代に違いないが、そういった人生の先輩から目を細められることなく、実に上手に接しておられて、とても気持ちがいい。店内がキチンと清潔でトイレもきれいなのも、こういった若いスタッフの気配りかと頭が下がる。

回転も速いと冒頭に書きつつ、あまりに居心地がいいので、あっという間に3時間が経った。ふと見上げると、混雑時には3時間で・・・という貼り紙。2時間ではないところが、さらにチェーンにはできない心配りかと、あわてて席を立った。

なお、食べログには予約不可となっているものの、18時までなら予約も受け付けていただけるようだ。当然ながら喫煙率は高く、それが自分を居酒屋から遠ざける最大の要因となっている。ただ、予約できれば喫煙者と相席をさせられることもなく、豪炎ならぬ豪煙からは多少逃れることもできる。

「かね将」
●東京都品川区西五反田2-6-1
●03-3495-4677
●16:30〜23:30
●水休
posted by 伊藤章良 at 18:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 焼鳥・居酒屋 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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