いとうあきら イベントの企画・運営・演出を本業とするも、無類の食べ歩き好きが高じて“食べ手”の視点で店や料理を紹介。過去の書き手になかった大人の切り口で飲食への愛情を示した。著書に『東京百年レストラン(T〜V)』。

2015年03月01日

(80)中目黒「まるや」

中目黒というキャラ濃い場所に

ゆるやかに馴染むもつ焼き屋

ぼくは、まったくそうではないのにやたら高いものばかりを食べていると思われがちだ。本当に何度も書いてきたことなので、またかと言われる可能性も気にしつつ「高いものではなくおいしいものを」というのがまぎれもない事実である。それは、ものすごく高いときもあれば、エッというほど安価なものも存在する。

今はどのように教科書に記載されているのだろうか、ぼくたちが学んだ日本という国は高度成長時代に加工貿易で栄えた。資源の乏しい我が国では、原材料を海外から輸入し持ち前の知恵で加工。製品としての付加価値をつけて輸出する。その差益がひいては日本の国益となる。石炭を輸入すれば大量消費のプラスチック製品になり、同じ元素ながらダイヤモンドの場合はゴージャスな装飾品に変化する。

料理もまた同じで、使う食材が安ければ低価格で提供できリーズナブルとかコスパがいいと言われ、原価が高ければ高級料理となってしまう。ところがいずれも間違いで、料理に高級・低級は一切ない、というのが、石炭とダイヤの例のこどくぼくの持論だ。

今月紹介するのは 中目黒のもつ焼き店「まるや」。もつ、つまり獣の内臓は、一部でホルモン(関西弁で捨てるもの)とも呼ばれるほど、21世紀の今、安価な食材の代表である。ただ、新鮮でなければ価値がないだけに、と畜時の仕分けやその後の流通、保存手段を考えると、高値で取引される正肉と同等、もしくはそれ以上の手間がかかるのではないかとも想像する。つまり、もつが安いのは、霜降り肉を食べて「きゃー、とろけるぅ〜」と叫んでいる方々に大部分を肩代わりしていただいているからかなと、密かに感謝だ。

もつ焼は、焼鳥とともに日式串焼きの代表格。ある意味一人前がもっとも少量の料理である。言い換えれば一人飲み用としても最適なツマミだと思う。ところでこの「新・大人の食べ歩き」で大変お世話になっている「クーチャンネル」大家の土田美登世さんが、昨年末『やきとりと日本人』という本を光文社新書から上梓された。焼鳥という大衆食文化を、気の遠くなるような文献や取材の積み重ねと緻密で重厚な文体で学術的に紐解いていく労作である。本来なら、ここで好みの焼鳥の一軒でもと考えたが、思いついたのは、もつ焼の「まるや」だった。大家の土田さんは『モツ・キュイジーヌ』なる西洋の内臓料理の本も編集者として出してるし、串焼きのルーツをたどる以上、もつと焼鳥は切り離せない。この本の中でも幾度か言及しておられるが、「鳥◯」との店名ながら、関東以北ではもつ焼きを提供することが許される土壌もある(ちなみに、拙著『幸せになれる43の料理店』では、もつ焼店を二軒紹介しているが、「鳥茂」「鳥平」とも鳥の文字が入っている)。

「まるや」はなぜまるやというのか詳らかではない。高名な野方の「秋元屋」の流れを汲むとも聞くが、自分にとってあまり重要ではない。なにより中目黒というキャラの濃い場所にふさわしい快適な空間を作り上げているところにまず注目する。もちろんオシャレでもデコラティプでもない、真ん中に焼き台がある普通のコの字カウンターではある。ただ、ほとんどのもつ焼店が、座席のすぐ後ろが壁で席間もぎゅうぎゅう詰めで、焼き台とタバコの煙でモウモウなのは当たり前にもかかわらず、「まるや」は店内がとてもゆったりして窮屈さをまったく感じさせない。中目黒という土地柄か下町に比べ喫煙率も低い。そしてBGM代わりに流れるAMラジオが店内の雰囲気とマッチして、さらにゆるく心地よいのである。

もつについては、まずは半焼をチョイスしレアな食感を楽しむことからスタート。この半焼に使われている塩がまた絶妙。オススメのごま油でさらに香りも増幅する。以降はお好みで。味付けはシオシオと連呼せず店主に任せるのが一番かとも思うが、秋元屋系の個性として味噌もぜひ。ニンニクと味噌の甘味が過不足なく絡まっておいしさに頬がすぼむ。このまろやかさだとキレの悪さも危惧してしまうが、スッと消えて行く後味もまた格別である。

酒はブランド焼酎も数々並ぶものの、「まるや」ではシャリキンの酎ハイもしくはホッピーだろうか。シャリキンとは「キンミヤ焼酎」をシャーペット状に凍らせて、それを割るやり方。いつまでたっても水っぽくならずウマイのは当然というか、確実に酔いが早い。

長居したくなるもつ焼き店、というのは「まるや」にとって名誉なことなのかどうかは客が決めることになるだろう。ただし、ぼくはキッチリ他のもつ焼店の2倍は消費してかつ4倍の幸福を得た。

「まるや」
●東京都目黒区上目黒1-5-10 中目黒マンション 114
●03-6452-3995
●17:00〜22:00LO
●日休
posted by 伊藤章良 at 19:40| Comment(0) | TrackBack(0) | 焼鳥・居酒屋 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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