いとうあきら イベントの企画・運営・演出を本業とするも、無類の食べ歩き好きが高じて“食べ手”の視点で店や料理を紹介。過去の書き手になかった大人の切り口で飲食への愛情を示した。著書に『東京百年レストラン(T〜V)』。

2015年01月01日

(78)恵比寿「おやまだ」

あえて鶏料理と清酒で硬派に味わう。

男前の主人が仕切る女性が憩う和食店

あけましておめでとうございます
今年もよろしくお願いします。

さて、最初に少し告知です。百年後にも存在していてほしいとぼくが願う料理店、という縛りだけで選んで紹介しているシリーズの第三弾が出来上がりました。『幸せになれる43の料理店 ―東京百年レストランIII』です。第三弾では以前にも増して、それぞれのレストランから感じる「継承」をテーマに据えて書き込み、序章では、ぼくのレストラン訪問や執筆に対する「こだわり」を改めてまとめてみました。どうぞよろしくお願いします。では、今月の店へ。

ぼくは、書くこと以外に、日常はイベントプロデュースという仕事をしている。イベントや各種ステージを展開していくなかで、モデル、コンパニオン、ナレーター等を派遣する事務所とのかかわりがある。きれいな女性と一緒に仕事ができていいですねともよく言われるが、実はそんな甘くやさしいものではない。

バブルが終わってすぐのころだったか、女性の人材を抱える事務所が「ざんぐり」という居酒屋も経営していることを、その事務所からの年賀状で知った。長い間行きたいなあと思いつつも結局叶わずだったが、そこと同じ名前の店のオープンを偶然に見つけ、早速訪問となる。

まずは店主の男前ぶりに驚き、料理の力量、人柄、そして清酒にたいする知識と情熱に惚れ込み、しばし通うようになった。その後の経過はここでは割愛するが、「ざんぐり」の店主だった小山田さんは、晴れて恵比寿駅に独立開業を果たし、「おやまだ」という日本料理と酒の店をスタートさせた。立地は、恵比寿駅西口から、線路沿いの急な坂をハーハーいいつつ上がっていくとすぐ。西口に7時で待ち合わせをしても、7時の予約で十分お店に失礼はない。

今までの小さなカウンターのイメージからいうとかなり広く、小上がりとテーブル席が中心となっていて、どちらかというと多品種の酒よりは料理に徹する決意の現れとも感じられる。いずれにしてもぼくはカウンターを所望し、背中に女性グループの喧騒を受けながら陣取ることにした。

小山田さんが勤めた以前の店は、モデル事務所が経営しているといいつつスゴく硬派な印象があったので、この女性客の多さ、女性に支持されているさまには少々面食らう。しかも、「おやまだ」のウリである清酒、焼酎に手が出るわけではなく、ゆず酒やワインといった「逃げ」で置いてあると思えるアルコール類のオーダーが飛び交う状況にさらに疑問符が付く。

自分が勝手に硬派だと思っていた小山田さんの店は、すっかり恵比寿西口界隈で働く女性の憩いの場となっている様子。そして、改めて気づいたのは小山田さんの男っぷりだ。店主のルックスが全てと思わないが、なるほど女性客を集める重要な要素なのだなと感心する。そういえば、オープン当初はほとんど誰にも気づかれず、いつでも入れたし清酒や焼酎をなめているオッサンばかりだったのだが。

「おやまだ」の店主は、恵比寿という土地柄を愛し恵比寿にこだわり続けた人というイメージが出来上がっているので、この地にこんな隠れ家的なステキな店を開けば、酒を飲まない客で満席になるだろうとはわかっていたと思えるが、きっとそれも含めての「おやまだ」なのだと解釈することにした。

料理は、「和食 おやまだ」と名のるだけあって、新鮮な刺身を中心に魚介が豊富にそろう。酒肴としてへしこなんかも置いてあり、清酒党なら目を細めるであろう。ただぼくは、ここでは鶏と決めている。「ざんぐり」時代のメインは鶏で、ご主人がいつも鶏をさばいていた記憶が強いし、その当時から魚というよりは鶏に合う強めの清酒に重きを置いていた。いっぽう「おやまだ」のメニューは、客層も鑑みて広い範囲に揃えている様相。その中での鶏料理は、ちらっと見ただけでは埋没しているようにも感じてしまうが、ぼくにとっては砂金のように輝いている。

とびきり新鮮な品を生で扱うだけではなく、塩麹、昆布、バルサミコ酢等で一手間かけたものがさらに秀逸。またモノが最上級なので、あぶり焼きや唐揚げにしても、普段定食屋のランチなどで口にするものとあまりに違い、そのジューシーさに脱帽だ。

当然、酒は清酒しか目に留まらない。鶏料理は、比較的塩が強くタレなどの濃い味付けもあるので、どちらかというと焼酎派だが、こと「おやまだ」では、そもそも鶏に合う清酒がご主人の眼力を通じて揃えてある。あとは、相談しながらそれをどのように組み合わせるだけだ。

少し心配なのは、というか老婆心ながら清酒のメニューに価格が書かれていない。その意味を尋ねることができなかったが、清酒の価格が書かれていないので、キチンと値段が書いてあるゆず酒やワインを客は選ぶのかもしれないと感じた。加えて相当の地酒猛者ではないと、この店のラインナッフには食指が動かないだろう。でも重ねて強く言いたいけど「おやまだ」では清酒である。

もうひとつ。「おやまだ」のエントランスに掛かる暖簾には、クラシックともモダンとも判断のつかない、極めてカッコいいロゴが染め抜かれている。山の形を表す図形の下に田を意味する地図記号。こんなところに垣間見るセンスの良さも「おやまだ」の魅力といえよう。

「おやまだ」
●東京都渋谷区恵比寿南1丁目13−11 ヴェール1F
●03-6412-7566
●18:00〜23:00LO(月〜金)、18:00〜21:00LO(土)
●日休(祭日・祝日は要確)
posted by 伊藤章良 at 20:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 日本料理 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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