いとうあきら イベントの企画・運営・演出を本業とするも、無類の食べ歩き好きが高じて“食べ手”の視点で店や料理を紹介。過去の書き手になかった大人の切り口で飲食への愛情を示した。著書に『東京百年レストラン(T〜V)』。

2014年11月01日

(76)大阪「たこりき」

大阪ならではの至極の楽しみ。

たこやきをつまみつつ、ワイン

大阪の食といえば、すぐに思いつくのが、お好み焼き・たこ焼だと思う。
ぼくは大阪生まれ大阪育ちで、子供のころから家での日曜の昼はお好み焼きと相場が決まっていたし、たこ焼き専用のガスコンロと鉄板も当然我が家にあり、おやつはたこ焼きが定番。およそ当時の大阪の家は、ほぼ同じようなランチタイムだったと想像する。なので、実際今でも、ぼくはお好み焼きを焼けるし竹串でたこ焼きをひっくり返すことも無難にできる。それこそ三つ子の魂百まで、なのである。

大阪はそんな土壌ゆえ、子供のころから愛してやまないお好み焼きやたこ焼きというソウルフードをベースに置きつつ、あくまで炭水化物として食事のラストに提供。それまでは全く違うジャンル、とくに西洋料理等を前菜やメインとして、ワインとともに出す店なんかも登場し始めた。東京には、というより大阪以外の街では決して生まれそうにない、でも生まれたなら確実に全国で受け入れられるだろうという、本当に大阪らしい楽しい形態なのだ。
そんな中、しばらくは会員制的に運営をしてきたが、基本誰でもオッケーの外に向けて営業を展開し始めた「たこりき」を今回は紹介したいと思う。

「たこりき」は、人形屋と問屋街が並ぶ、東京で言うところの浅草橋に匹敵する松屋町と呼ばれるエリア。界隈の雰囲気も少し似ている気がするその下町を、大阪人は親しみを込めて、まっちゃ町と呼ぶ。

実はぼくが大学を出て初めて就職をした会社がこのまっちゃ町にあった。今訪れても、どのビルだったかまったく記憶にないぐらいに変わってしまった(というか、単に自分の記憶が薄れているだけかもしれないが)。
当時ぼくが通っていたビルの一階に洋食屋があって、そこのメニューに「ビーフストロガノ風 ライス添え」なるものがあった。
これはギャグなのかと聞いたら、当時のマダムにキョトンとされたので真面目なのだろう。なんとなく大阪らしいエピソード。まっちゃ町に行くとこの店がまだあるかなあと探すが、もうすでに見つけることはできない。

そんな松屋町筋とは直角に交わる位置に、空堀(からほり)商店街という昔ながらの商店街がある。関西以西に行くと、やはり雨が多い土地柄なのか、どんなに小さくても商店街と呼ばれる道にはアーケードが設置される。ショップストリートとしての集中力はさすがだが、どの店も繁盛しているとは限らず、逆に外光を遮断するアーケードがより薄暗い雰囲気にしてしまっているケースもある。ただ、空堀商店街は道中とても楽しく、なかなか健闘しているように思えた。そんな商店街と名残を惜しみつつ左折してしばらく。「たこりき」が見えてくる。

通りに面したドアの左側はたこ焼きスペース。いわゆる屋台のたこ焼き屋同様、通りのお客さんから見える位置で、黙々とたこ焼きを焼いている。ドアを開けて中に入れば、七席のカウンター。といっても単にたこ焼きを売るための店と違って、ワインバー風にデコレーションされており、座った瞬間から居心地は抜群だ。

たった7席の店にスタッフは3人。たこ焼きの焼き手、ガス台と冷たい料理の作り手、そしてソムリエール。座って数分もすれば、その3人には恐ろしく高いスキルがあるのがわかり始める。そして、空堀商店街を歩いているときは、たこ焼きを数個いただいて帰ろうとか考えていた自分を失笑しつつ、まずは長居することに決めメニューを物色。

前菜として、親店の「豚玉」でも有名なポテサラ、そして大好きな山うに豆腐(豆腐の味噌漬け)。早々にビールからボトルワインへと移行。ワインは基本的にビオのようで、東京では、日本ソムリエ協会のガチガチなヒエラルキーに反旗を翻す逞しい集団が担ぐ酒のイメージが強いが、「たこりき」もなんとなく代々木公園「アヒルストア」的な香りはする。

そしてたこ焼き。家庭ではなかなか実現できないプロのたこ焼きの極意とは、あくまで個人的視点ではあるが、ほんの薄皮程度にカリッと焼かれた表面につつまれ、中身はほぼ均一にとろりと軟らかく、中にいくほど緩くなっていくようでは決してダメ。確実にセンターにタコがあり、食べると、ほんのり紅生姜の食感と香りがアクセントになる。とまあ言葉で書くとこんな風だろうか。

そして「たこりき」のたこ焼きは、完璧にこの文章通り。しかも、昨今のモノより小ぶりゆえ、一口で食べやすい。その旨伝えると、実は道頓堀で二軒並ぶ「大たこ」が大きいたこ焼きを作り始め、多くのたこ焼きサイズが大きくなってしまったということだった。なるほど。特に女性が一口では食べにくいサイズの大きなたこ焼きは、子供のころにはなかったような気がしてきた。

「たこりき」ではまず、なにも付けずに食べることを推奨。それがシャンパンに合うらしい。もちろんトッピングは数種あり、ソース系と醤油マヨネーズ系に分かれてチョイスできる。
「たこ焼き温泉」なるスープたこ焼きや、「塩チーズたこ焼き」(シンプルながら絶品)など、脇にいつでもツマメるたこ焼きを置きつつ、ワインをあおるなんて、まさに大阪でしかできない至極の時だ。いやー、幸せ。

「たこりき」
●大阪府大阪市中央区瓦屋町1-6-1
●06-6191-8501
●15:00〜23:00(月〜金)、12:00〜23:00(土日祝)
●火休
posted by 伊藤章良 at 14:44| Comment(0) | TrackBack(0) | その他 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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