いとうあきら イベントの企画・運営・演出を本業とするも、無類の食べ歩き好きが高じて“食べ手”の視点で店や料理を紹介。過去の書き手になかった大人の切り口で飲食への愛情を示した。著書に『東京百年レストラン(T〜V)』。

2014年04月01日

(73)ハワイ「PALACE SAIMIN」

見事に完成されたスープでまとめられた

ハワイ・ローカルフードの麺店

日本国内の店も書きたいところはいろいろとあるのだが、先週少しハワイに行っていて、そこで接した麺につ
いて、今回は考察と紹介をしたいと思う。

ハワイにもラーメン店は数多くある。そして意外にも、そのほとんどは日本からの観光客そして現地駐在の日本人が席を占めている。ほんの数日間滞在の貴重な食事の中で、なぜ日本でも食べられるラーメンを選ぶのか、そんな議論もしたくなるが、マクドナルドとスターバックスにしか行かず、ひたすら買い物をしてたという話も頻繁に聞くので、まあ、典型的な日本人らしいハワイへのアプローチなのであろう。

日本において、和洋中を問わずうまいといわれるほとんどの麺は、自家製である。うどんもそばも、そしてパスタも、その店内でオリジナルのおいしい麺を打っている。いっぽうラーメンはスープに力を注いだ結果、麺への注目が薄い時代か続き、他のヌードルに比べ自家製麺への対応が遅れてしまった。
ぼくはその点が、もっとも日本のラーメンに満足できないポイントだと思うし、麺のウマさで引っ張るつけ麺形態では、未だまったく魅力を感じていない。ただ、多くのラーメンスペシャリストが注目し指摘していく中で、ラーメンの麺に対する意識も上がり、今の進化形はスープ以上に麺が重要となってきたのは喜ばしい。

今回のハワイで新に知った事実として、ハワイを含む全米の日本式ラーメン店の麺はすべて同じ製麺会社で作られている、という事実。海外でのラーメン店展開を考えれば、大手の製麺所と組まざるを得ない状況は理解できるものの、誤解を恐れずあえて言うなら、アメリカでは、どこでラーメンを食べてもほとんど同じ麺である、という結論だ。ラーメンが世界的な和食となっている話題が最近のニュースでは喧(かまびす)しいけど、上記のような日本国内でのラーメン発展過程を考えれば、アメリカでおいしいラーメンにありつける日は相当先だろうと思う。

いっぽう製麺所と共同歩調の日式ラーメンとは別に、ハワイには「サイミン」と呼ばれる麺が、かなり昔から存在している。サイミンとは細緬がなまったとも言われ、その風貌やレイアウトから沖縄そばにもルーツを感じるが、いわゆるハワイへの移民がもたらした、というか創造した、ハワイローカルフードの典型であろうか。

ハワイには「ポキ」と呼ばれる代表的なローカルフードがある。これは、簡単に言ってしまえば生マグロのピリ辛マリネ。魚を生食するなんて南の島では考えにくい状況ながら、今やハワイのスーパー総菜コーナーには必ず置いてあるポピュラーメニューである。
きちんと調べたわけではないが、これはハワイに移住した日本人が、やっぱりマグロは生で食べるのが一番うまいという認識と切望から、ハワイで考案されたメニューではないかと推測する。ちなみに「yelp」という、アメリカ全域での、食べログみたいな一般人によるグルメ投稿サイトで、全米1位が、この「ポキ」をご飯の上に載せた「ポキ丼」を提供する店なのだ。

さて、ぼく自身もアメリカにおいては、地図アプリと連動している便利さもあり「yelp」をかなり活用して(特にB級グルメにおいては)動く。今回取り上げる、オアフ島でカリヒと呼ばれる地区にある「PALACE SAIMIN」も、最初はこのサイトで見つけて訪れた。

カリヒ地区というのは、日本人が大好きなワイキキからクルマで20分ぐらいだろうか。工場兼倉庫が建ち並ぶ風情で完全にローカル、というか下町。日本人はもとより、観光客の訪れるエリアでは当然ない。日本でいう質流れ品や倒産品を集めたかと思われるような、下着やシャツ等を大量販売している巨大なモールなども存在し、低所得者層の住宅地でもあるようだ。

そんな下町エリアゆえか、安くてウマくて、ローカライズされた飲食店の宝庫ともいえよう。。

「PALACE SAIMIN」は、そんな中の一軒。あらかじめ情報を入手していなければ到底行きつかない目立たない店。オモテからは、営業しているのかどうかすら分かりにくい(海外にはそういった店は多いけど)。ワイキキでこそサイミン専門店、というかサイミンを食べさせる店ですら見当たらなくなったけど、カリヒ界隈では「PALACE SAIMIN」以外にも、カウンター形式のサイミンスタンドが何店かあるようで、庶民の軽食として今でも愛されていることがよく分かる。

「PALACE SAIMIN」は、創業68年だそうだ。もちろん日本軍が真珠湾攻撃を仕掛けるずっと以前からそこにあった。そしてそのサイミンは、70年前の関西以西の日本人なら、きっとこんなスープで麺を食べていたんだなあと思わせる原型が、そこに残っている。化学調味料ができる前からの味、とでも言おうか。ワインに詳しい人ならフィロキセラ以前と例えてもご理解いただけるかもしれない。

化学調味料という味覚の大きな標準化があり、それに疑問を感じた料理人によるさまざまな試みがなされる現代の厨房だが、今の日本で、化学調味料以前を感じさせる食べ物に出くわすことは、不可能に近いだろう。
多少大仰かもしれないけど、ぼくにとってハワイの「PALACE SAIMIN」は、それを感じるテイストがあった。

もちろんこの店は、自分たちのサイミンの味が一般的に薄いモノであることを知っていて、必ずカラシが添えられる。客はそれを醤油で溶いてスープに継ぎ足し自分の味を調える。また強めのタレで味付けたBBQスティックも、ほとんどの人がサイドオーダーとして注文し、サイミンに投入する。

でも、当然ながら何も足すことなく「PALACE SAIMIN」のスープは完成していて、文字通りそこはかとなく、はかなく、そして日本人としての矜持を改めて認識する立ち位置をキッチリと守っている品だった。
麺屋を志す人はもちろん、料理全般に興味のある方には、ぜひ一度訪れてご意見をうかがいたいものだ。

なお、ハワイのサイミンが、すべて「PALACE SAIMIN」の味ではない。というか、色々と食べてみたが、この味はココだけ、である。多くのローカル定食屋にもサイミンはあるが、それらはすべて、化学調味料以降の味であるのは、残念ながら言うまでもない。

「PALACE SAIMIN」
http://www.palacesaimin.com/
posted by 伊藤章良 at 08:31| Comment(0) | TrackBack(0) | その他 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:


この記事へのトラックバック