いとうあきら イベントの企画・運営・演出を本業とするも、無類の食べ歩き好きが高じて“食べ手”の視点で店や料理を紹介。過去の書き手になかった大人の切り口で飲食への愛情を示した。著書に『東京百年レストラン(T〜V)』。

2014年02月01日

(72)銀座「明日葉」

レストラン評における“ぼく”の核を支え続ける

銀座の隠れ家割烹

ぼくは、このサイトの大家さんとの出会いがきっかけで、90年代後半から雑誌に寄稿するようになった。その後、情報ウェブサイト等にも広く記事を書く機会を経て、『東京百年レストラン』という、新規オープンや話題の店ばかりを追う料理マスコミやブロガー、レビュアーとは一線を画する、百年続いてほしいと願う独自の視点で選んだレストランガイドをシリーズで上梓するに至った。

今回は、自分が雑誌に書き始める以前から定期的に通い、雑誌やウェブサイト等で折に触れて紹介して来た思い出の店を改めて取り上げてみたいと思う。

その店「明日葉」は銀座一丁目にある。ご承知のように銀座の飲食店は、晴海通りを挟んで新橋側と京橋側では異なる顔を見せる。新橋側が夜の街になのに対し、京橋側は、銀座としながら「三州屋」に代表されるような庶民的な店も多く、かつ新橋側よりは飲食店の密集度が低いので「食べ歩き」の楽しさもある。

そんな一角、ビルの三階に「明日葉」は今日もひっそりと営業している。京都で修業し、本人曰く京都にいられなくなって東京に流れ銀座で旗を上げた。ぼくが東京に移ってきたとき、すでにこの店はあったので、少なくとも25年以上、銀座という地で営業を続けておられることになろうか。
若いスタッフがいた時期もあったようなような気もするが、調理はすべて店主ひとり。手際・機転・アイデア・経験、そのすべてをフル活動させて、カウンター10席とテーブル3卓分の厨房を切り盛りしている。

そんな孤高の料理人ゆえ、味も20年来ほとんど変わらないし、銀座の地においてもなお、完璧な京都なまりである。昔はキッチンでタバコを切らすことのないスモーカーだったが、今はすっかりやめて、その分顔色もよくなり、「毎日しんどいわー」と軽口をたたきつつも、健康的なイメージすら出てきた。

昔から、冬の時期に味わっている店の定番料理に「ぶりシャプ」がある。文字通り、ブリのしゃぶしゃぶ。今はブリ以外にも魚の切り身をしゃぶしゃぶ形式にして食べる料理を散見するが、20年前の当時はかなり新鮮だった。しかも、しゃぶしゃぶというと、薄い牛肉をさっと湯通しして・・・の印象から、ブリもそのように薄いものかと想像するが、「明日葉」のブリは分厚く、湯通しという感覚よりは湯洗いが近い。表面のみを強火で焼いて味を閉じ込めたステーキのごとく、噛めば、閉じ込められたブリ特有のうま味が口中に広がり、刺身でも照焼にしても引き出せない隠れた魅力を発見することになろう。これぞ出世魚の最終形と感嘆するに違いない。

もうひとつの特徴は、一握りの牛肉が「ぶりシャブ」に添えられていること。ブリを食べ終えた後のダシに改めて牛肉を投入。その対比は絶妙で牛肉のミルキーさが際立つのがおもしろい。

今回「明日葉」を紹介するに当たって、10年前に書いた紹介記事を読み直してみた。多少文章の表現力はついたかなあと思うものの、書いている内容はほとんど同じだった。これは、店が不変だからなのだと、いい方向に解釈することにしたい。

なお、最近とてもステキな「明日葉」のウェブサイトができて、食べる前後に目でも楽しませてくれる。でも、20年以上店主を知っているぼくは、そのウェブサイトのできばえに一番驚いている。

http://ashitaba.org/

「明日葉」
●東京都中央区銀座1-5-1太陽ビル3階
●03-3564-4675
●11:30〜13:00、17:00〜24:00
posted by 伊藤章良 at 10:26| Comment(0) | TrackBack(0) | 日本料理 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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