いとうあきら イベントの企画・運営・演出を本業とするも、無類の食べ歩き好きが高じて“食べ手”の視点で店や料理を紹介。過去の書き手になかった大人の切り口で飲食への愛情を示した。著書に『東京百年レストラン(T〜V)』。

2014年01月01日

(71)中野「ランタン・ルージュ」

中野で意外(?)な発見。わざわざ行きたい

店主の経験が生きたステキなフレンチバル

中央線沿線在住のころはよく行ったものだが、てっきり中野には行かなくなった。食というカテゴリで中野という街から想起するのは、ホルモンやジンギスカンといった肉と煙。それらの店以外で中野を目指すことは、今はほとんどないような気がする。

さて今回、中野の劇場で関西出身の仲間と上方落語を鑑賞。その後どこかで食事をしましょう、との運びとなったのだが、リクエストはワインが飲める店。ふー、中野でワインの課題にはキツイものがあり、東中野か新宿に移動して改めて、という方向にしようかと逡巡するもふと一軒思い出した。「ランタン・ルージュ」である。

「ランタン・ルージュ」。字面通りフランス語で赤提灯を意識したのだろう。おそらくフランスで同じ意味を持つとは思えないが、まずはネーミングの魅力に吸い込まれる。

もともとこの店の主は、渋谷に1980年代から続くフランス料理店「アンドラ」で修業、その後下北沢に「酒党の店 安寅゛(もちろんアンドラと読ませる)」をオープンした。つまり、基本的に言葉のセンスにも溢れた方なのだ。

店の窓からJR線が見えるので中野駅からは最寄りかと思うが、メインストリートの商店街を横道に折れしばらく歩くと、かわいいランタンのイラストが見つかる。その横にもカジュアルなレストランがあるので、瞬間どっちかな?と迷うも、階段に吸い寄せられて2階へ。ダイニングはカウンター中心。4名がけのテーブルが一卓のみ。店の構造上しかたがないと思うけど、このテーブルは特等席。窓からの眺めも楽しめる。

ここで少し、冒頭に書いた渋谷の「アンドラ」、下北沢の「酒党 安寅゛」に話を戻したい。渋谷の「アンドラ」は、フランス料理店評価の草分け、見田盛夫・山本益博両氏にはほとんど紹介されなかったが(もしかすると拒否していたのかもしれない)、80年代初頭からビストロを冠にし、渋谷区神南という当時もっともオシャレエリアの一つだった場所で健闘していた。個人的には世界中のカキの中でも最高にうまいと思う、広島・地御前 川崎健のカキがシーズンには数種類食べることができ、それを楽しみに出かけていた記憶がある(このカキは、「ランタン・ルージュでも食べられます)。

そして「安寅゛」。ココはビストロ料理と清酒の店、とでも言おうか。そのマリア―ジュにかたくなに挑戦していて、メニューでは、料理名の横に必ずその皿に合う清酒(それ以外のも酒あったかな)が明記されていた。
言うなれば「凝りすぎ」なわけだが、ぼくはこの遊び心がとても好きでよく通ったものだ。そして「凝りすぎ」な面は料理自体にも反映。あまりに丁寧にじっくりと作るのでなかなか出てこない。出てこないから手持無沙汰で酒量が増え、必然的に「安寅゛」では飲み過ぎた。

こうして「アンドラ」「安寅゛」を経てきた店主が、続いて中野に興したのが「ランタン・ルージュ」。なぜ「安寅゛」を閉めたのか詳しく存じ上げないが、下北沢を経てきた分、「ランタン・ルージュ」はすっかり肩の力が抜け、とてもリラックスできる空間となっている。

フレンチバルと名乗り酒としてはワインを中心とするものの、清酒など日本の酒も様々に用意されている点は、下北沢の酒党の店の片鱗を見る。ただ、やはりカッチリとしたビストロ料理にはワインがうれしい。「柿と生ハム」みたいなチョイひねりのメニューもあれば、オニオングラタンスープをすすっているように濃厚な玉ねぎのキッシュも忘れがたい。料理一皿一皿にかける丁寧さは健在で、その分なかなか出てこないのも以前と同様で、やっぱり飲み過ぎる。

中野という猥雑に飲食店が林立するエリアの外れにて、可愛らしい看板に迎えられる心地よさ、そして店内での得難い寛ぎは、さまざまに飲食店を経験してきた店主だからこその成果だろう。わざわざ中野に行ってみようとすら思わせるステキな名店だと思う。

さて実際に「ランタン・ルージュ」なる言葉を紐解いてみると、自転車レースで最も総合タイムの遅い選手のことを指すらしい。つまり「赤ランプ点灯」のことだそうだ。

「ランタン・ルージュ」
●東京都中野市中の5-36-32
●03-3388-3802
●17:30〜24:30LO
●月休

posted by 伊藤章良 at 09:00| Comment(2) | TrackBack(0) | フランス料理 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
正確には「ランタンルージュ」は列車の最後尾の赤灯の事です。
それが転じて最後尾を走る選手の事を指すようになりました。
Posted by れき at 2015年05月20日 08:57
れき様

コメントありがとうございました。
大変、勉強になりました。最後尾を走る選手のこと、というのは何となく知っておりましたが、そんな言われがあるとは存じませんでした。
今後とも、よろしくお願いします。
Posted by 伊藤章良 at 2015年06月01日 15:33
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