いとうあきら イベントの企画・運営・演出を本業とするも、無類の食べ歩き好きが高じて“食べ手”の視点で店や料理を紹介。過去の書き手になかった大人の切り口で飲食への愛情を示した。著書に『東京百年レストラン(T〜V)』。

2013年10月01日

(68)赤坂「うずまき別館」

すでに予約困難か。中国料理の名店のシェフが

シェフズキッチン的スタイルで復活

「ロンフウフォン(龍虎鳳)」という白金にあった中国料理店を、読者の皆さんは覚えておられるだろうか。日本人の持つ中国料理の認識を塗り替えたと言っても過言ではない名店だった。

スナックのような内装で、わずか14席。潤沢な厨房環境もなかったと拝察するが、そこから繰り出される料理は、出される皿ごとにこれが中国料理なのかと嘆息する内容。当然ながら予約は何カ月も先までとれなくなった。
ぼくが書いた当時の原稿の中で、その状況を「電話が鳴るたび、受話器を取るたび謝り、説明し、そして予約の依頼を断る。その精神的苦悩は、私たちには考えも及ばないであろう」と書いている。それほどのプラチナシートだった。

人気店となっても料理のクオリティが変化することはありえず、シェフの集中と努力は常に切れることがなかったが、結果、体調を崩して休業に至ったと記憶する。

そんな「ロンフウフォン」のシェフが、先ごろ遂に活動を再開。まさに待望久しかった、あの料理と相見えるチャンスが到来したのである。
「ロンフウフォン」のシェフが復活したお店は、なぜか「うずまき別館」という。中国料理にアンテナを張っておられる方ならアレっと思うであろう、赤坂・コロンビア通りにある名店「うずまき」の別館を語って、暖簾を揚げた。
予約の電話を入れた当初、「うずまき別館」というのだから「うずまき」の場所の横とか上とか、極端に言えは、その軒を借りてはじめられたとの解釈をしたが、場所は同じ赤坂でもまったく違うのでご注意を。なにかの仁義で別館を語られているかと思うけど、同じ赤坂の住所でどちらも地下1階なので、早合点をする客は多いのではないだろうか。

別館の方は、東京メトロ赤坂見附駅からも近く、赤坂見附から虎ノ門へと続く幹線道路から一本内側の通り沿い。飲食店もポツポツとあるものの、ちょっとした裏道風情のエリア。B級の香りが詰まった飲食ビルの地下に見つかる。
細い階段を降りると、以前はカウンターのみの店だったんだろうなあとわかる細長い空間。そのカウンター席はすべて取り払われ、4名掛けのテーブルが1卓のみ。出迎えるはシェフおひとり。カウンターの店に無理矢理テーブルを置く形で少々の違和感もあるが、まさにシェフズキッチン。贅沢極まりない設定に心も踊る。

シェフひとりによるオペレーションなので、飲み物のサービスもシェフ自ら。少々手狭なダイニングゆえ客席の後ろに冷蔵庫があり、飲み物の注文をすると申し訳なさそうにシェフが客の背中側を通る。でも冒頭からのそんなやりとりは、意外にもシェフと客の距離を縮める効果があり、微妙に漂っていた緊張感が一気に消えて行くのがわかる。

料理が始まれば、一気呵成である。絶妙のタイミングで次々と出てくる皿の多くは、未だ体験したことのないようなカテゴリーの料理だが、小手先の創作や多国籍の寄り合いではなく、確実に中国の香りをまとっている。しかも、シェフが自らのポリシーとして課しているのではないかと感じてしまう、ぎりぎりまで高められた透明度は、人工的な力で味が増幅された中国料理に麻痺した舌が、どんどん洗われていくようだ。

店を辞する時、うかうかしていたらまた二度と来れなくなるなと、すぐさま次の予約のことを考えていた。そして、卓を囲むメンバーには、「中華料理はどうも苦手で・・・」と語っていた何人かの友人の顔がすぐに浮かんだ。

「うずまき別館」
●東京都港区赤坂3-6-6 B1
●03-3583-2073
●月〜金11:00〜15:00(お弁当とお惣菜のみ)、17:30〜22:00
●日祝休
●コース1万円〜。完全予約制。できれば二日前まで。
posted by 伊藤章良 at 20:24| Comment(0) | TrackBack(0) | 中国料理 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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