いとうあきら イベントの企画・運営・演出を本業とするも、無類の食べ歩き好きが高じて“食べ手”の視点で店や料理を紹介。過去の書き手になかった大人の切り口で飲食への愛情を示した。著書に『東京百年レストラン(T〜V)』。

2013年03月01日

(63)中目黒「クオーレ アズーロ」

東京イタリアンの“呪縛”を感じさせない

のびのびとした姿勢が頼もしい

前々回、東京のイタリア料理店に強く惹かれる店が少なくなってきたことを書いた。あれからもずっとそのことを考え続けていて、新規オープンの店をのぞいたり、人気店に再訪問してみるものの、やはり「強く惹かれない」という感覚に変化がない。一時のような、イタリア料理にワクワクする、というかゾクゾクする気持ちが沸き起こってこない。

その理由として、東京のイタリア料理店が一定の円熟期を迎え「優等生」になりすぎているのではと、個人的には感じている。なんとなく70点ぐらいにまとめておけば、客も満足するしネットで悪く書かれることもない。シェフ個人の嗜好や目指す姿が明確にあったとしても、経営的に存続させることが第一。もちろん、キチンと儲けて長く続けていただくことがもっとも大切で、ダイニングをカウンター中心にするなど効率面での工夫は見られても、冒険や挑戦をしているなあと感じる皿に出会わなくなっている。

同じ土俵では、日本料理やフランス料理の方がチャレンジ精神的な強さや期待を持って接することができ、なによりそれが客を楽しませる。いっぽう優等生との付き合いは、それなりに心地よく同席者に不快な思いをさせることも少ない。しかし、ぼくのように単純に友と食べて友と語ることだけが目的で利用する客には、以前はあんなにワクワクしたイタリア料理店から楽しさがこみあげてこないのだ。

昨年末に上梓した拙著「東京百年レストランII」では4軒のイタリア料理店を紹介したが、特にその中でも「GANZO」は、シェフ自身の店舗に対するこだわり、料理へのやんちゃなアプローチや主張が気に入っていた。

そしてもう一軒。中目黒に昨年春オープンした「クオーレ アズーロ」を取り上げたいと思う。なにより、東京イタリアンの呪縛やヒエラルキーを感じさせない、のびのびとしたシェフの姿勢が頼もしいのだ。

場所は、中目黒商店街をずんずん進んだ終点近く。界隈にも「ラ・ブーシェリー・デュ・ブッパ」や「タツミ」などビストロの名店が並ぶが、正に「タツミ」の隣りにあるのが「クオーレ アズーロ」である。

「タツミ」との相似形を感じてしまうような細長い店内に「タツミ」よりさらに狭い厨房の中から、実に様々な料理が巧みに生み出されていく。

ダイニングのキャパもレイアウト的にも、基本はバール。入口付近と奥にはテーブル席があるものの、メインはキッチンを囲むようにしつらえたカウンター。オープン当初は飲み中心の展開をコンセプトとしたようだが、ワインのつまみにしてはもったいない多種多様な料理の数々かイタリア料理好きの琴線に触れ、ウェブ上で取り上げられる以前から、じわじわとその魅力が口コミで伝わった。かく言うぼくも、そんなイタリア料理好きの友人からココを教えられ、さっそくファンになったひとりである。

店内はサラッとシンプルに組み合わさっていて、色使いの中に可愛らしい主張がある程度。だが詳細を見ていくと細かい部分にこだわりや個性が見いだせて、単純にバールというスタートではなく、この場所で長く営んで行こうという心意気が響いてくる。特に化粧室はドアの雰囲気から室内のアイテムのおもしろさ・居心地よさまで、思わず長居したくなる。

シェフはイタリアの北から南、ピエモンテからサルデニアまで修業したと聞くが、帰国後はしばらく神戸でならし運転をして中目黒にたどり着いた。どちらかというと北イタリアの料理が中心に感じるが、そのバリエーションは、メニューが書かれた黒板を眺めるだけでも飽きないどころか、満腹感まで追いついてくるようだ。

パスタは、イタリア修業時代に木型を集めてきたそうで、小さな見本に入れられ幅広く用意されている。多くの手打ちバスタは、ゆでた際にゆるくなってしまうのか個人的には残念だったが、「クオーレ アズーロ」の手打ちバスタはいずれもカチッとしたアルデンテで提供され、乾麺フリークの心も掴むことだろう。

もれ聞くところによると、シェフの奥様はまったく違う業界の方ながら、イタリア好きが共通のベクトルで現地で知り合われたとか。「イタリア」という共通項で結ばれたながらも、夫婦で違うキャリアを積んでいく流れが、のびのびとした前向きな楽しさを生み出す「クオーレ アズーロ」の源泉となっているのかもしれない。

「クオーレ アズーロ」
●東京都 目黒区上目黒2-42-12渋谷ビル1F
●03-5708-5101
●18:00〜25:00LO
●火休
posted by 伊藤章良 at 09:21| Comment(0) | TrackBack(0) | イタリア料理 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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