いとうあきら イベントの企画・運営・演出を本業とするも、無類の食べ歩き好きが高じて“食べ手”の視点で店や料理を紹介。過去の書き手になかった大人の切り口で飲食への愛情を示した。著書に『東京百年レストラン(T〜V)』。

2012年12月01日

(61)恵比寿「ビストロ ジャズキッサ」

つまらない男は連れて行きたくない。

姉妹による気品ある料理が魅力のビストロ

まず始めに、少し告知をさせてください。
先月、大家の土田さんにもブログで紹介していだたきましたが、このたび、『東京百年レストランU』を出版いたしました。
この本は前作に引き続き、百年後も存在していてほしいという、ぼくの独自の視点で40軒のレストランを厳選し、紹介しています。食マスコミもブロガーもレビュアーも、新しくオープンした店ばかりを必死で追いかける昨今、こういったコンセプトの本や活動を地道に続けていきたいと思っています。どうぞよろしくお願いします。

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さて、今回の本題。

「ラ・シュエット」という、静かに追っかけてきたレストランがある。

例によってぼくは、店のシェフやスタッフに根掘り葉掘り聞くこともないし、ブログやレビューを読み漁ることもしない。正確なウラもとらずに記憶のままを振り返ってみると、「ラ・シュエット」に初めていったのは、もう20年近く前だろう。白金高輪の、マンションの2階のような場所にその店はあり、オーナーがすさまじいワインのコレクターということで、彼の秘蔵ワインをかなりの適正価格で飲ませていただくサロンのような店だった。

ただ「ラ・シュエット」は、単に高級ワインサロンと呼ぶにはふさわしくない。すぐれたフランス料理も合わせて提供されるのだ。ぼくの記憶は、卓越した料理が味わえるフレンチレストランで、加えて、それに合わせるワインも充実。と、捉えていたかと思う。

時期を同じくしてかどうか定かではないが、西麻布にも「ラ・シュエット」は存在した。確か「バー・ラジオ」にいた方が出した「バー・ラジオ」そっくりの店の跡に(もしくは、同じビルだけだったかもしれないが)入っていたはずだ。白金高輪よりはワイン中心だった気がするが、こちらの格別な居心地良さも、きちんと覚えている。

白金高輪の店を移転させたのだったか、銀座に、こちらはフランス料理店として出店されていた。ウッディで重厚感のあるダイニングにて、あまり銀座らしからぬ夜を楽しんだ。

それと、白金高輪におられたシェフが沼津でフランス料理店をオープンされたことを知り、泊りがけで沼津まで食べに行ったこともあった。沼津という漁港で名を馳せた小都市とは思えない落ち着いた品のあるレストランで、ときを忘れるほど幸せな体験は、クリアに頭に残っている。

アメリカに行く機会がなくなってしまったので残念ながら未訪だが、「ラ・シュエット」は、違う名前でサンフランシスコにも出店。ザガットやミシュランでもその店の女性シェフが高い評価を得ていると聞いた。

そんなレストランシーンを、日本とアメリカの各所で静かに長い時間をかけて創りあげてきた「ラ・シュエット」は今、銀座は名前や経営が変わり、西麻布は六本木に移転。現在日本の拠点は、六本木に集約された様子。残念ながら、最終形の六本木の店は未訪である。ただ今回は、そこを巣立って、恵比寿にカウンターのみのビストロを開いた姉妹の店を紹介したい。「ビストロ ジャズキッサ」という。

場所は、日赤通りから明治通りを超え恵比寿ガーデンプレイスへと続く細い道沿い。以前ここでも紹介した中国料理「廣安」や、「トシヨロイヅカ」「くろいわ」「蟻月」などがひしめくグルメストリートだけど、最も分かりやすく言うなら、界隈でも老舗になってしまった「フミーズ・グリル」の下である。

この場所、定点観測ほど見ていたワケではないものの、ずっと和系(焼鳥屋とか焼酎・清酒を飲ませる店)が入っていて、しかもなかなか定着していなかった。反面、ここを巣立って恵比寿駅の反対側に立派な店を構えた「おやまだ」など、成功している店もある、そんな小さな空間。

足を踏み入れると、サービス担当でやさしい感じの妹さんが迎えてくださり、カウンターの向こうには、コックコートをキリリと着こなす姉さん。いずれもタイプの異なる美しい方々で、まず(男なら誰でも)オッとなる。店の内装はほとんど手を入れていないというが、ちょっとした品のいい置物や、「ジャズキッサ」たる所以のレコードジャケットなどを施しただけで、瞬時にカウンタービストロへと変身する。なにより、今までのオッサン系とは180度異なる、姉妹二人の醸す雰囲気が最大の特徴だろう。

店内にはジャズが薄く流れ、料理のメニューとワインリストはレコードジャケットを使うなど、ジャズ喫茶なところも多少はあるが、もちろんワインとフランス料理を楽しむレストラン。元々料理人だった姉さんが、妹さんと二人で店をやろうと決意。妹さんは飲食ではなかったそうだが、その気持ちに賛同し、レストランでサービスの修業をされたと聞く。

料理ができあがるまでをカウンターから眺めていると、まったく危なっかしいところがなくすでに完成された力量だ。手際もよく、時間がかかる料理の前には小さな野菜の皿をサッとサービスしてくれるなど、心憎い。

恵比寿、広尾。いずれの最寄駅からも少し遠い立地だが、ゆったりとした空気感と丁寧で気品のある料理。なりより姉妹の謙虚でけなげな振る舞いは、東京にビストロ多しといえども得難い魅力だと確信。

そして、つまらない男だけは、絶対に連れて行きたくないと心に誓うのだった。

「ビストロ ジャズキッサ」
●東京都渋谷区恵比寿2-1-5 佐々木ビル B102
●03-6721-7988
●18:00〜翌2:00LO
●不定休
posted by 伊藤章良 at 13:05| Comment(2) | TrackBack(0) | フランス料理 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
当該店舗の近隣在住で定点観測を続行する熟女です。
以前より共感する記事の多かった貴殿のページにて最近一番気に入っている空間であるこのお店を取り上げて下さったことで、自分の感性までも褒められた気がして感激しております。
Posted by Y at 2013年01月15日 21:32
続けてしつこく申し訳ございません。

貴殿の仰る「つまらない男」のゲストに加えて、マスコミ関係の方々はご遠慮いただきたいと勝手な要望を抱いております。
Posted by Y at 2013年01月15日 21:37
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