いとうあきら イベントの企画・運営・演出を本業とするも、無類の食べ歩き好きが高じて“食べ手”の視点で店や料理を紹介。過去の書き手になかった大人の切り口で飲食への愛情を示した。著書に『東京百年レストラン(T〜V)』。

2012年07月01日

(57)銀座「レカイヨ」

情報にまどわされず、自分の目で、

純粋にレストランを愉しめる客かどうかが試される

「レカイヨ」のオープンを知ったのは、当サイトの大家、土田さんのブログだった。昨年2011年は、震災の影響もありさすがに銀座、六本木といった一等地での高級レストランの出店は控えられたようだが、その反動か、2012年になって堰を切ったように動き始め、「レカイヨ」もその筆頭に挙げられる一店である。

ぼくは不思議でしょうがないのだが、未だにこういった「レカイヨ」のような高級フランス料理店に対し「グランメゾン」という意味不明の言葉が使われること。ブロガーやレビュアーなど見よう見まねの素人だけではなく、マスメディアに至ってもだ。誰が、文法的にも間違っているフランス語「グランメゾン」の、日本のレストランシーンにおける意味を説明できるのだろうか。
「レカイヨ」「フィネス」「アムール」「エスキス」、今年上半期に続々登場のグランメゾン・・・。それぞれコンセプトも想いも違う形でオープンしたフランス料理店を、グランメゾンという説明不可能な言葉でくくってしまう不作法は、もうそろそろやめるべきだ。
※なお、古い記事ですが、ここにぼくが考えるグランメゾンの意味とそれに対する考察を書いています。
http://eatout.jp/archives/2005/05/post_118.html

さて、「レカイヨ」は、当サイトの大家も料理長やソムリエを応援していると聞くし、設計・デザインは、当サイトで「レストランの空間考」を担当し友人でもある西森陸雄さん。となると、ぼくがここであれこれ書く際、言葉を入念に選んでしまう恐れもある。
だが、スタッフの経歴や店のスペックばかりが先行した多くの紋切評価やレビューがあるいっぽうで、ぼく自身は純粋に素直に愉しめたレストランゆえ、それをきちんと表しておきたいと考えた。

というのも、なぜ、オーナーが元「シェ・イノ」だとかシェフがサラブレッドだとか、そういった経歴が重要なのだろう。なぜ、シルバーがレイノーだとかカップがベルナルドといった、見れば誰でもわかる枝葉末節にこだわるのだろう。高額の支払いに対し客自身に納得がいかないからだろうか。
反面、ぼくが目にした書き込みのいずれにも、数多く掲げられた名画に対する賞賛の声もなければ、陰影や反射、ぎりぎりまで絞り込んだ色の扱いなど、内装・デザインのすはらしさへの評価も見つけられなかった。

レストランへは、何を求め、何を愉しむために訪れるのか? この店から感じとれる各人の評価によって、それが十分にわかっているヒトなのかどうかを判断することができる。前回の「クニオミ」にも書いたが、「レストランの上級者」、つまりレストランでの愉しみ方を理解しているかどうかの違いである。シェフやソムリエの経歴といった前情報、レストランとしてのスペック、支払った金額に対する満足度。そういった部分にしか着目できない人たちには、残念ながら「レカイヨ」の素晴らしさに気づかないと思う。

「レカイヨ」のアラカルトメニューにスープの欄を見つけ、過日はスープのチョイスからメニューを構成することにした。まず、メニューにきちんと何品かスープを揃えている点に、ググッと惹かれたからだ。もちろん選んだのはコンソメ。重厚な雰囲気に抗(あらが)うような、どことなくフレッシュ感のある爽やかなテイストだった。

ワインついてはソムリエの意見を問うた。その際に軽く「リーズナブルなものでお願いします」と言ったところ、「おねだん以上ニトリの精神で選びます」と言われた。
グランメゾンに、スターシェフや高いスペックを求めてやってきた面々にとっては、もしかしたらこの言葉は大いなる肩すかしなのかもしれない。でもぼくにとって、「レカイヨ」でこのひと言を聞いた瞬間、これからの愉しい時間はすでに約束されたな、と感じるのだ。

1950年代の絵画で飾られた店内。そこから放たれるアートのうねりには、当然ながらクラシックな料理で波長を合わせてくる。でも、そのクラシックさとは、伝統のコピーではなく伝統の解釈であると感じた。特にグランドメニュー外ではあったが、食感の妙を愉しむべく計算されたオマールとアスページュの取り合わせには瞠目させられた。

店主と少し話した際、一定期間を過ぎたらすべての絵画をモダンな現代物に替えようと考えている、と聞いた。きっとその時には、「レカイヨ」の新たなダイニングに調和した料理が待っているのだろうなと、再訪への期待感も膨らんでくる。

個人的に、唯一残念に思ったのは店のロゴである。「レカイヨ」のロゴからは、フランスの、そしてフランス料理のエスプリがあまり感じられない。ゆえ、店の近くまで来て最初にロゴを目にしたら、「ここは建築事務所か何かかな。フランス料理店ではないよな」と素通りしてしまうことだろう。
もしかすると、それも意図したとコト、との説明がなされるかもしれない。でも、新たに銀座に登場したフランス料理店であり、そこに来る客に、最初にフランスのエスプリを感じてもらえなければ、それはロゴの意味をなさないと思う。

レカイヨ
●東京都中央区銀座6-4-16 花椿ビル
●03-5537-7071
●11:30〜14:00LO、 18:00〜21:00LO
●日休
posted by 伊藤章良 at 11:15| Comment(0) | TrackBack(0) | フランス料理 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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