いとうあきら イベントの企画・運営・演出を本業とするも、無類の食べ歩き好きが高じて“食べ手”の視点で店や料理を紹介。過去の書き手になかった大人の切り口で飲食への愛情を示した。著書に『東京百年レストラン(T〜V)』。

2012年04月01日

(54)南青山「L'AS」

「コストパフォーマンスよし」なのか?

徹底的にコストカットした店作り

不況という二文字の重圧で誰もが下を向いてしまった2012年の日本に、逆風を覆すような興味深いレストランがオープンした。骨董通りを少し脇に入ったところにある「L'AS」。

個人的には、この「L'AS」こそは、イマの料理店におけるコスト削減の成功法は何か、という最重要な課題に、数々の正解を(今のところ)出しているレストラン、という捉え方をしてみた。どんなスタッフが、この店の内装を作り、オペレーションを考え、料理やサービスを実践しているのか、詳しいところはシェフの経歴程度しか知らない。ただ、敏腕の経営コンサルタントが知恵を絞りきって協議しても、こういった優れた展開は生まれなかったであろう気がする。

オープン数日後に訪れたものの、入店すると何となくすでに古い感じを受ける。色使いにもよるが、決して高級な調度品を持ち込んでいるわけではない。さらに驚くのは厨房だ。ダイニングとまったくフラットな位置関係にあり、壁やパネルの隔たりは一切ない。いわゆるフルオープンキッチン。一瞬、先ごろ流行りの合コン専門キッチンスタジオに踏み込んだ感覚だった。換気や夏場の冷房効率などはまだまだ未知数だけど、内装費の初期投資では、相当なコストダウンに成功したであろう。

テーブルにクロスは掛かっておらずナプキンもない。狭いテーブルスペースを確保するためか、カマボコ板のような細長いパン皿に安定感の悪いパンが置かれる(これはそのうち改善されるに違いない)。カトラリー(ナイフ・フォーク)は、テーブルの下に引出しがあって、そこから客が必要なモノを出して使うという段取り。

この仕組みはすでに知っていたので、訪問時まず引出しを開けてみたら何も入っていない。さっそく評判が悪くて廃止したのかと思いきや、入れ忘れていただけ、というさらに悪いパターンだった。こちらも、サービススタッフの作業工数を減らすことによる人件費のコストダウンである。しかも、クロスが掛けられていないテーブルの上にそのまま置くより、なんとなく清潔感もある。

そんなことより、なんといってもスゴイと感心したのが料理。週末のランチも日々のデイナーも同じ内容の5,250円コースのみ。2週間ごとに変えていくというが、1種類しかない同じコース料理を2週間昼夜出し続けるフランス料理店って他にあるだろうか。2週間分の食材を計画的に仕入れロスが出ないように使い切れば、相当なコストダウンだ。また、この方法ではポーションを小さくすればするほど利益が上がる。そして、メインを除けば「L'AS」のポーションはとても小さい。ぼくレベルでは全く満腹にならない。何人か女性にも聞いてみたが、満腹にはならなかったと応えた人もいた。

多くのレビュアーやブロガーがこの店のコスパが最高と書く。ただしそれは、上記の点から見ても単に量が少なくて安価なだけなのだ。しかし、デザートを2品出すなど視覚的な満足度も含め、トータルでは不満が出にくい構成に仕上げているのはサスガだと思う。

しかも、エッと驚くほどダイニングには客が詰め込まれている。入口近くには3名掛け程度の丸テープルに5名が肩寄せあって座るといった光景も見られた。ゆえ、満席になればかなりの騒々しさで、隣の会話も丸聞こえ。はっきり言ってデート向きではない。

などなど、決してあまのじゃくではなく普通に食事をして受け止めた感想なんだけど、こうして様々にコストカットされた部分が、180度反対の「魅力」として受け止められ、グルメブログや食べログレビューで大絶賛されているのだ。

料理自体は、量を除けば決して悪いものではなく、コート・ドール等シェフの修業先からのエスプリも十分に含んでいる。欧州本場への憧憬も感じられる。メニューの作り方も、キッチンの環境・客層・利益など、いくつかのポイントを決めて、きちんとそこに照準を定めているのだと思う。あまりにも科学的・データ的な取り組みで、一料理人の発想とはなかなか考えにくい。

いっぽう、対客という立場で言えば、レストランは客単位での独立したプライベートな集合体であり、オープンキッチンを受け入れるのは好事家の一部。しかも、舞台裏を見せることは、手品のネタ晴らしとかがいい例で、初回は大変な感動を覚えるが、それ以降は逆効果となる可能性が強い。ナイフ・フォークを格納した引き出しも使いにくく、ナイフは、刃の部分を持たないと取り出せない。

節約・節電・省エネ・・・。ぼくたちは日々我慢を強いられて、それに対し強く反発や憤りも感じながら今を生きている。でも、「L'AS」における窮屈な感覚や客側への要求のほとんどが、この店の新しさや個性として捉えられているところが、なんともスゴイとしか言いようがない。本当にうまい。

ただ、フルオープンキッチンやナイフ・フォークを引き出しに格納するといったレストランも過去何軒か見てきたが、そのいずれもが現在まで存続していない印象がある。「L'AS」が百年続くレストランと思えるかどうか。今後の展開と軌道修正が注目される。

なお、「L'AS」の公式ホームページには、すでに予約受付時間を14:00〜18:00、22:00〜24:00に限定する旨が表記されている。オープン当初から予約の電話がジャンジャン鳴ることを想定した防御策。やはり只者ではない。

「L'AS」
●東京都港区南青山 5-16-5 MA FIVE 1F
●03-3406-0880
●17:30〜22:30 L.O(日・祝〜22:00 L.O)
●火曜日を中心に月6回程休
●予約受付時間14:00〜18:00 / 22:00〜24:00
http://www.las-minamiaoyama.com/
posted by 伊藤章良 at 09:30| Comment(1) | TrackBack(1) | フランス料理 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
はじめまして♪
さとなおさんとのページは、ちょくちょく読ませていただいております♪
ツイッターでこちらを知り
なるほど〜と読ませていただきましたっ
量が少ないとは思わなかったのですが
勇気を持って(^o^;)TBさせていただきますっ♪

また、これからも遊びにこさせていただきますっ!!
Posted by yurico at 2012年04月08日 14:22
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もうフレンチならここに行くっ!! 「L'AS(ラス)」@南青山
Excerpt: 今日は、春分の日♪ グーグルさんから ↓ 頂きました♪ 可愛いですね♪先日の日曜日に、2月6日にオープンしたばかりのお店に行ってきました♪ って、行ってからお聞きしたわけですが・・・^^; ..
Weblog: ♪♪♪yuricoz cafe♪♪♪
Tracked: 2012-04-08 14:19