いとうあきら イベントの企画・運営・演出を本業とするも、無類の食べ歩き好きが高じて“食べ手”の視点で店や料理を紹介。過去の書き手になかった大人の切り口で飲食への愛情を示した。著書に『東京百年レストラン(T〜V)』。

2012年02月01日

(52)神楽坂「アンティカ オステリア カルネヤ」

熟成牛のカツレツで感じた

イタリアンとしての上質度

ぼくは、東京でほとんど牛肉を食べない。もちろん「コート・ドール」に行けば「牛しっぽの赤ワイン煮」が待ち遠しく、四川料理店では「水煮牛肉」を欠かせない。ただ、そういったスペシャリテ以外の牛肉料理をレストランで自らオーダーすることはほとんどないし、その道のスペシャリストからのお導き以外では、焼肉・ステーキの類に足は向かない。

ただそれは東京に限ったことで、大阪に帰省すれば日課のように焼肉屋へ出向き、アメリカに渡れば、3日に1度ぐらいの頻度でステーキにはまる。昨年出張したウイーンでは幸いにも高級ホテルに泊まったので、朝食メニューにステーキがあり、卵ではなく牛肉を毎朝チョイスしていた。

なぜ東京で牛肉を食べないのか。第一に値段が高いからである。ずっと様々に書いてきたが、「肉いうたら牛肉」の関西と「肉といえば豚」の関東とでは、市場規模、流通、価格とも異なり、わざわざ高い東京で食べることはないと思ってしまう。例えば、沖縄や北海道に行くより安価に台北や香港に行ける今日、わざわざ高くておいしくない日本で中国料理を食べることはない、というのに近い発想だ。

加えて、東京の焼肉店のうま味調味料まみれには閉口する。今やラーメンに代わって最もうま味調味料満載な料理は、東京の焼肉である。肉の表面が真っ白になるぐらい振る人気店も存在するし、焼肉フリークには聖地のように語られても、うま味調味料を舐めている感じが拭いきれない店もある。

また、サシの入った霜降りの肉を好まないのも大きな理由のひとつ。甘いとかとろけるとか、そういった形容が霜降り肉には頻繁に加えられるけど、それは、肉に対してではなく脂への賛辞なのだ。その不健康な脂を愛でるつもりはない。

一方欧米の牛肉は赤身オンリー。また熟成の方法も、国や地方、店それぞれに個性がある。ウィーンで毎朝食べていた牛肉は、マグロの赤身に匹敵するぐらいにあっさりとしていて噛むほどに強い酸味があった。ちなみに生涯最高の牛肉は、フランス・ラギオールの「ミシェル・ブラ」で出会ったオーブラック牛である。

そんな話をツラツラと肉のスペシャリストにしていたら、お前に食べさせたい牛肉店がある、という。神楽坂の「カルネヤ」。ここはアンティカオステリアと称するようでイタリア料理店らしい。というか、そこそこ肉イタリアンとしての名声はぼくにも聞こえていて、ランチ・ディナーともに訪問経験あり。昼のハンバーガーはアメリカの優良店を思わせるもので、ディナーでは「カルネヤオールスターズ」なる肉ばかりのスペシャリテにも、それなりに満足だった。

ただ、肉を本格的に食べさせるイタリア料理店なら、ン10年前から「トゥリオ」や「ラ・ビスポッチャ」等が普通に存在し、今はなき「テラウチ」も、以前投稿していたサイトで紹介するほどのお気に入り。それらの印象から、イマの「カルネヤ」が大きく上回ることはなかった。

ところがスペシャリスト曰く「熟成牛のカツレツを食べたのか?」と質す。和牛ではなくホルスタイン種を使いながら、牛肉を扱うその道の熟練者たちによって極めて上質かつ個性豊かに長期熟成され、最後に「カルネヤ」シェフの巧みな火入れや味付けによって完成する合作だと言うのだ。

確かにすばらしく、そして実に楽しい料理だった。自分が経験したことのある欧米の牛肉、特に何度も通ったニューヨークの「ピータールーガー」が試みる熟成香・熟成感とは表現方法自体が異種のもの。

まさしく「枯れた」とでも言おうか。枯れるのは悪い意味ではなく、熟成を経ることによって、甘いとかとろけるといった牛肉の最も興味を感じない部分がそぎ落とされ、その代り咀嚼したときの肉の香りと味にほんのりした野生味が蘇る。そして最後の叫び的な肉汁は、それはそれは儚く独創的だった。

「お腹の具合はどうです? パスタなどいかがですか」とシェフから聞かれ、お、ここはイタリアンだったと思い出す。再びメニューを見つつ「かなうなら、先ほどの熟成牛のローストを今度はいただきたく……」。さすがにカツレツのおかわりとは言い難くローストを所望。

ただローストは、個人的には「ピータールーガー」に軍配。というより、改めてコートレット(カツレツ)という料理の完成度に瞠目して、「カルネヤ」が上質のイタリア料理店であることを認識。今度はパスタもいただこう。

「アンティカ オステリア カルネヤ」
●東京都新宿区南山伏町3-6 市ヶ谷NHビル1F
●03-5228-3611
●12:00〜14:00LO、18:00〜22:00LO
●日休
posted by 伊藤章良 at 12:40| Comment(0) | TrackBack(0) | イタリア料理 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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