いとうあきら イベントの企画・運営・演出を本業とするも、無類の食べ歩き好きが高じて“食べ手”の視点で店や料理を紹介。過去の書き手になかった大人の切り口で飲食への愛情を示した。著書に『東京百年レストラン(T〜V)』。

2012年01月01日

(51)茅場町「アメ」

“がむしゃら感”からの遠さが生み出す

新感覚の心地よいワインバー

あけましておめでとうございます。
今年も新・大人の食べ歩きをよろしくお願いします。

                ***

ここ1〜2年、日本の飲食シーンに関して強く感じていることのひとつに、レストラン運営に携わる皆さんの、意識の変化がある。

まともな収入も得られない長期の下積みや修業を経てやっと独立、とまではいいが、新たな開業に際し多大な投資が必須だった一昔前。料理人として大成したいなら、まずは良家の女性をゲットすること、と普通に言われた過去もあった。

ところが最近、特に若い料理人の独り立ちを見ていると「まずはやってみようよ」との彼らの声が聞こえてきそうな、「独立」の二文字にプレッシャー感のないレストランが多いように感じる。

もちろん当のご本人は本当にタイヘンだろう。でも、20年前と比較して、修業という過程に対するストレスの低さや、物件の価格下落、ネット口コミの発達で立地条件と店の繁盛にはあまり関係がなくなってきたことも大きい。でも、ぼくが個人的に一番変わった気がするのは、飲食店における女性の存在である。

一時代前の保守的な食の世界において、日本の場合、女性は陰で出資者となるか、マダムや女将といわれつつも一人のサービススタッフとして主人を支えるかの2通りだった。ところが最近は、女性の持つスキルや今まで培った経験もふまえ、自分達2人の店なんだから、「共に働こうよ」という強い空気が伝わってくるのだ。

それにはまず、男性側の理解と協調が必要となろう。もっとさかのぼれば、封建的な厨房内にて長期にわたる追い回しを体験したなら、男はなかなかそんな気分にはなれない。だけど、修業形態の近代化もあり(多くの人が未だに間違うが、修行ではなくやっと修業と言えるようになった)、自分ひとりがイバるより、協力して店を盛り上げていった方が、楽しいし合理的だとの変化が生まれたに違いない。

そして、リベラルというかフラットというか平等というか……、ぼくのような年齢からすると一番ピタッと来る言葉は「ほほえましい」ワケだが、そういった店側の雰囲気や意欲は必ずダイニングの客にも伝わり、確実に居心地のよさや再訪への意欲へと置き換わっていく。

ここ最近オープンした店で例を挙げると、「ビストロエビス」「アヒルストア」「たく庵」「くろいわ」など和洋も問わない。
料理には、一過性ではなくキチンと学んできた技量を十分感られる反面、毎日100%の力を出し切ろうという気負いは薄い。そして、意外にも彼ら2人から、5年後10年後の自分達のグランドデザインを聞かされることもあって密かに唸る。「がむしゃら」とか「ひたすら」といった言葉が普通に似合っていた飲食業界において、こんなにも最近の若い連中は冴えているのかと、「ひたすら」感心するのだった。

今回取り上げる「アメ」もまた同様に男女2人で営むワインバー。東京メトロの茅場町と水天宮前が駅としては近いので、路線で選ぶとよいだろう。長めのカウンターとテーブルが一卓、そして小さな立ち飲みスペース。カウンターの奥で腕を振るうシェフは、料理のウマさでも知られる「山利喜」という居酒屋からイタリアに渡り、日本に戻って「アメ」のオープンに参加した。明るくてゆるいキャラも魅力的だが、いったん背中を見せて鍋を持つと、その手際から料理の質の高さは容易に想像できる。加えて、共に働く女性が爽やかで美しい。シェフ同様にワインの特徴を語り栓を抜く。さらに、彼女の担当はパン。日替わりで何種類かの個性的なパンがメニューのトップにオンリストされていて、アミューズにも前菜にも主食にもなる幸せ。普段のぼくは、パンをつまみにワインを飲むことをほとんどしないが、久しぶりにそのマリアージュの素晴らしさを実感した。

こんな感じのノリから、「アメ」は東の「アヒルストア」とも称されるらしい。激混みの渋谷店より入れる茅場町店、が、最近の狙い目とのこと。

ところで、「アメ」なる店名は、「雨降って地固まる」から取ったそうだ。まるで結婚式や政治家の挨拶のようだが、そんな不思議な感覚もまた、「がむしゃら」からもっとも遠いところにある。

なお、この「アメ」という店。ウェブサイトによれば、意外にも多店舗展開をしているチェーンの一店のようである。例え現実にはそうであっても、店の成り立ちや個性を考えれば、立ち飲みバルチェーンの一形態というウェブでの打ち出しにはあまり感心しない。

「ワインバー アメ」
●東京都中央区日本橋箱崎町5-15エヴァーグリーンマツモト 1F
●Tel:03-3662-3226
●18:00〜翌2:00(月〜金)
●17:00〜23:30(土)
●日祝休
posted by 伊藤章良 at 23:00| Comment(1) | TrackBack(0) | その他 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
ワインバー アメ
素敵なワインバーですね
Posted by ryuji_s1 at 2012年01月07日 21:50
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