いとうあきら イベントの企画・運営・演出を本業とするも、無類の食べ歩き好きが高じて“食べ手”の視点で店や料理を紹介。過去の書き手になかった大人の切り口で飲食への愛情を示した。著書に『東京百年レストラン(T〜V)』。

2011年12月01日

(50)恵比寿「廣安」

外食ストリート根づいて欲しい

新生、中国料理店

恵比寿の裏通り、というか、恵比寿ガーデンプレイスから明治通りを横切って日赤病院の方へと抜ける道を歩いていた時のこと。この通りは、バブル期には「フミーズグリル」来店者による駐車車両渋滞が懐かしく思い出されるし、移転拡張した「ノミの市」やオープン当初は生ビール券も配っていた「蟻月」の賑わい、「ヨロイヅカ」の大行列もあった。最近では「くろいわ」という秀逸の日本料理店も登場するなど、外食ファンにはなかなか注目のストリートである。

ただ、こんな通りにもなかなか飲食店が定着しない物件があった。詳しく覚えきれないほど通るたびに店が変わっている印象の場所。つい先日はカキ食べ放題の海鮮料理店だった記憶があるのだが、「廣安」という中国料理店へと改装中であることに気づいた。

今度はどんな店になるのだろう、期待を胸に近づいてみると、ベビーカーに子供を乗せた感じのいい夫妻がその店先にいて、オープン前の様子が心配で見に来た風情。

「ぼくは伊勢廣って焼鳥屋なんですが、ここ、友達がオープンする店なんです。彼、腕がいいから必ずいい店になりますよ」と言う。さらっと聞き流しそうになったが、「伊勢廣って、あの……」「はい、そうです。三代目になります」と、にこやかに応えた。

おお、それはなかなかの注目株だ。とはいうものの、この通り沿いにも古くから中国料理店があり、明治通りとの交差点近くには、「カーディナスシノワ」の後に、グランドハイアット六本木の厨房にいたシェフによる秀逸の中国料理店「ジャスミン」ができている。もともと「廣安」場所は、間口が小さくて奥に長い俗に言ううなぎの寝床のようなダイニング。幹線道路に面したガラス張りの「ジャスミン」に比べても相当なハンディが予想された。

その後しばらく自分の中の選択肢に登場しなかったのだが、先日ふと、明治通り沿いの「ジャスミン」に行く代わりに、一度「廣安」をのぞいてみようと思い立った。

とても真面目なシェフなのだろう。店の前まで行くと、いろいろなサービスやオープン記念コースなどを設けて、エントランスにも掲示しているわけだが、プロの飲食オペレーションチームが手掛けたとも感じられる「ジャスミン」に比べ垢抜けず、価格やとっつきやすさをメインとし、良質の飲食店を想起させない風情も少し残念。しかも冠は上海四川料理とあり、結局どっちつかずなんじゃないかと不安になる、とはいえ、伊勢廣三代目の言葉を信じてドアを開けた。

前回までのレイアウトをほとんど覚えていなかったが、入店した瞬間、そういえば左にカウンター右にテーブルの、奥に長いダイニングだったなあと思いだす。基本的には変えていないようだ。

案内されてメニューを見る。頼みたいものが多すぎるぐらいの爽快に驚く。エントランスに置かれた掲示やオープン企画のコース料理からは決して見えてこない、料理人としての主張や絞込みも伝わってくる。

「ピータンのたまご巻」といったオリジナルのものから、魚香茄子、麻婆豆腐など四川の代表料理、フカヒレや酢豚まで、この辺は確かに上海四川料理店ではあるけど、だらだらと大量に寄せ集めるのではなく、キッチリと自分自身の領域でセグメントされた意思が見える。

ぼくの最近の中国料理でのポイントは、オイルの使い方にあると考えている。いかに適量で適温の油を使って最適の時間で調理するか。当たり前のことなんだけど、それがうまくいかない市井の中華料理屋は、必然的にうま味調味料や塩に頼らざるを得ないし、東京の著名な中国料理店でも、中国本土や台湾とは一日の長を感じてしまう。

その観点で見る「廣安」の料理は、オイルのバランスのよさが際立っていた。カリッと揚げる料理は画期的に油臭さが落ちていて爽やか、そしてしっとり油を吸わせる皿においても、香りとキレのよさに唸った。

シェフに、上海四川料理とは? と聞いてみたところ、シェフ自身は上海料理の方が得意なのだが、煮込みが主体の上海料理に比べ、四川料理は個性のあるメニューが多く味もハッキリしていて酒のつまみにもなる。それで、両方をメニューに並べてみることにしたんです、とのこと。なるほど、お店にもウェブサイトのどこにも書かれてはいないが、明快だし客側にもありがたい発想だと思った。

お店自体の上手なアピール方法に始まり、店内レイアウトやサービスの面など課題は多い。でも、ラーメンだけで帰る客にも逐次厨房から顔を出して頭を下げるシェフの姿勢は謙虚で、ニコッと笑う面構えも頼もしい。なんとかこの地に定着して、中国料理の新しい担い手に成長されんことを願う。

「廣安」
●東京都渋谷区広尾5-23-2
●03-6277-2623
●11:30〜14:00、17:00〜22:30
●無休
posted by 伊藤章良 at 16:00| Comment(1) | TrackBack(0) | 中国料理 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
「廣安」の料理
おいしそうです
素敵なお店ご紹介 ありがとうございます
Posted by ryuji_s1 at 2011年12月14日 17:21
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