いとうあきら イベントの企画・運営・演出を本業とするも、無類の食べ歩き好きが高じて“食べ手”の視点で店や料理を紹介。過去の書き手になかった大人の切り口で飲食への愛情を示した。著書に『東京百年レストラン(T〜V)』。

2011年09月01日

(47)恵比寿「ル・マリアージュ・ドゥ・ガク」

フランス料理を心から愛する面々が

静かに訪れて欲しい

8月はほとんどハワイにいた。
日々宿泊先のホテルから仕事先のイベントの会場、もしくは日本の会社のハワイ支社で打合せ。ホテルに戻って、台本の執筆、イベントのマニュアル類作成……。確かに、くそ暑いトウキョウを脱して避暑としてステイするにはハワイは最高である。ただそれは、バケーションであれば、の話。

基本的に、人が食事を楽しんでいる時間帯が、まさにイベント屋であるぼくのコア稼働域。外食が大好きでも普通の営業時間にテーブルにつくことは難しい。ハワイに何度か訪れたことのある方なら想像できると思うが、ぼくの晩メシは、ほとんどABC(ハワイで最もポピュラーなコンビニ)定番の「ざるそば」か「そうめん」。ハッキリ言って恐ろしくマズイのだけど、仕事が終わった後の解放感とライトなアメリカンビールとで、毎夜流し込んでいた。

そしてハワイを発つ前日、現地在住の友人が連れて行ってくれたのは、渋谷に本店のある居酒屋「成ル」。またその前日、イベントの打ち上げで集まったのが、博多ラーメンの「めんちゃんこ亭」。アメリカ合衆国50番目の州に行きながらも、いつナイフ・フォークを使ったのか思いだせないぐらいのジャパニーズぶり。

ということで、東京に戻ってからも特に「和」を欲することもなく、帰京の翌日からフランス料理三昧。そんな中の一軒が今回取り上げる「レ・マリアージュ・ドゥ・ガク」である。

ここは、オープンしてすでに1年半ぐらい。恵比寿は外食するにもっとも好きな街でもあり、開店当初からもちろん存在は知っていた。ところが、隣にあった天ぷら店「さわき」(今は別の店)、反対隣の居酒屋「ほりこし亭」には訪れるものの、この場所に以前あったカフェはまったく未訪。しかもカフェをフランス料理店へとリモデルするには、厨房スペースなど無理があるのではないかと想像していた。

表に掲げられたメニューを見ると、男性用と女性用の二種類のコースがあるらしい。ランチには顔を出してみたものの、短時間の滞在もあって、カフェだったサイズの店舗をよくここまでフランス料理店にしたなあとの感慨ぐらい。それ以上の印象を持つに至らなかった。

そして今回、ハワイ長期滞在中に友人がディナーの予約を入れてくれていて、帰国後すぐの訪問。ぼくが今まで持っていた先入観とも言える軽い思い込みは、大きく崩れ去ることとなった。

さて、メールをくれた友人が場所の案内のために添付したのが食べログ。「レ・マリアージュ・ドゥ・ガク」の点数はかなり高い。食べログの点が高いと、「食べログの点が高い店に行く」ことをモットーとする皆さんが殺到するので、その店の実力とは関係なく、客層が乱れ予約が全くとれなくなる。ひいては、店自身が思い描くコンセプトとは別の方向へと勝手に店のイメージが作り上げられていく。「フロリレージュ」「くろぎ」などが顕著な例だが、ぼくはこれを、もう一軒その代表的なレストランにちなんで「バカール現象」と呼んでいる。

食べログでバカール現象を生む条件はおよそ二つ。必ずわかりやすい低価格のコースを設け、シェフやスタッフが有名店出身であること。「レ・マリアージュ・ドゥ・ガク」はその条件を完璧に満たしているようだ。

それを裏付けるかのごとく、客はぼくたちグループ以外すべて女性。すでにオープン当初の男性用メニュー、女性用メニューというコンセプトは形骸化していて(ここまで女性ばかりだとそうなるよなあ……)、結局は一部選択制のコース5,250円のみ。

そんな不安をよそに、いったん席に着いてしまうと、狭いながらもとても落ち着く内装で、目線に様々な画を施すなど随所に細かな工夫がなされていることに気づく。しかも恵比寿駅から徒歩2分程度の好立地(というか駅前すぎ)ながら、スタッフの温かく人懐っこい対応で、アットホームな雰囲気も醸し出している。

心地よくて、なんかこの場所に根を生やしそう、と目を細めつつメニューの説明を聞く。一つのコースゆえみんなで同じものを食べるのかと思いきや、前菜にもメインにも、この店の特徴である、箸で食べる最後の炭水化物にも選択肢があるので、さあ皆さんイッセーに、というブロイラー状態は避けられそうだ。

そして肝心の料理だが、これこそ特筆に値する。女性ばかりが席を埋めるには悲しいぐらいのしっかしたポーション。前菜は、すべて同じ食材を用いながら、温かい料理か冷たい料理を選ぶというエンターテインメント性。ワンコースのみにしては多少時間を要するが、丁寧さと実力派としての力量との双方が皿の中にみなぎるメイン、フランス料理人としての立ち位置で生まれるラストの和テイスト。

また、絞りに絞ったワインリストも秀逸。この規模の店ゆえ大量のラインナップは期待できないものの、きちんと吟味してきれいなデザインのリストにまとめ、客の希望を聞いておだやかに提供する。その姿勢とそれに見合う価格、そして料理とのマリアージュも、さすがに店名につけるだけあって納得できた。

今回は、厨房を背にするテーブル席で食事をしたので、次回はカウンターでディナーをと、ぼくの中での再訪意欲も高い。また化粧室がとてもかわいらしく、手狭なダイニングから抜け出るような解放感の演出も工夫されている。

バカール現象にて予約がとれなくなってしまう前に(といっても少々手遅れ気味だが)、本当にフランス料理を愛する面々が静かに訪れてほしい良店だと思う。しいていえば、もう少しアクセスが不便で駅から離れていた方が、この店本来の個性が光ったかなあ……。

「ル・マリアージュ・ドゥ・ガク」
●東京都渋谷区恵比寿1-4-1 恵比寿アーバンハウス105
●03-6450-4743
●18:00〜21:30LO
(ランチはしばらく土のみ。12:00〜限定20食)
●日、第1月休
http://gaku-san.com/index.html
posted by 伊藤章良 at 23:00| Comment(0) | TrackBack(0) | フランス料理 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

この記事へのトラックバックURL
http://blog.seesaa.jp/tb/223707860
※ブログオーナーが承認したトラックバックのみ表示されます。

この記事へのトラックバック