いとうあきら イベントの企画・運営・演出を本業とするも、無類の食べ歩き好きが高じて“食べ手”の視点で店や料理を紹介。過去の書き手になかった大人の切り口で飲食への愛情を示した。著書に『東京百年レストラン(T〜V)』。

2011年05月15日

(44)新宿「割烹 宍倉」

新宿に帰ってきた渋い板長がしきる

男同士が似合う割烹

15年ほど前、ぼくは初めて雑誌に連載を持った。その連載は、毎月自分で決めたテーマに基づき1200字ぐらいで飲食店を紹介するという企画。ぼくはその誌面で新宿2丁目にある「百千(ももち)」という割烹を取り上げたことがあった。

新宿2丁目は、ご承知の通りかなり趣向の偏った街として全国的に有名である。同性愛者の集う場所がこのような一地域にかたまるという情景は、世界でもなかなか類を見ないそうだが、かの地の独特な雰囲気と最近の女装家ブームによって、同性愛者ならずとも好んで訪れる人が多くなってきた。そんな中に、まったく街のカラーに染まらず孤高の立ち位置でひっそりと営なんでいた割烹。それが「百千」だった。

店内がどんな様子だったか、あまり覚えていない。記憶にあるのは、ドーンと真ん中にカウンターが一本あるだけのシンプルな造作と落とし気味の照明。渋い面構えの作務衣姿の男が黙々と料理を作る。少し濃いめの味付けでボリュームもある中、比較的安価な価格。深酒しながらじっくり語りたい夜などには、ドストライクな店だ、ということぐらいか。

ランチタイムもキッチリ開いていて、割烹の昼飯らしいプロの味が楽しめる割に席も確保しやすかったのでもよく訪れたものだが、いつの間にか違う店になっていた。こうしてぼくの記憶は薄れ相当の年月が過ぎたと思う。

なにかの記事かウェブの書き込みで、その当時の板長だった宍倉さんが新宿に戻ってきた、との情報を得た。ただ、その店がどんな名前でどこにあるのかについては、ぼくのメモには詳らかに書かれていなかった……。

さて、映画化もされて一気に日本人にも需要が増えつつあるfacebook。その中に「外食産業を勝手に救済しよう」というfacebookページ(参加者が自由に書き込み閲覧できるコミュニティのようなもの)がある。東日本大震災の影響で元気のない外食産業にせっせと足を運んでお金を使おう、なる趣旨を「勝手に救済」とのイキな言葉で表現した秀逸のページなのだ。
ぼくもそこに少し参加していて時々勝手に救済した(笑)情報を書き込むのだが、このページのオーナーでもある柏原光太郎さんが書き込んだ「割烹 宍倉」という名前を発見し小躍りした。まさに「百千」の板長が新たに新宿に興した店。いつか縁があればまた行きつくかなあとぼんやり考えていたけど、やっとその機会が到来。そして訪問となった。

場所はかなりわかりにくい。なにゆえココに?と、まず店主宍倉さんに質したが、やはり彼は自分の古巣「新宿」にこだわった。独立するなら「新宿」と決めていたようだ。といっても、チェーン居酒屋が立ち並ぶ日本最大のターミナルというより、すでに大久保寄りか。歌舞伎町の北のはずれで、ビジネスホテル・ラブホテルが混在するエリア。そんな雑居ビルの2階。扉の前まで来ても、ここがかの「百千」かと、少しひるむぐらいの変化。

ドアを開けると、壁が白いせいもあるが、かなり明るい。これについては結局聞かなかったものの、「百千」は薄暗かった記憶がある(若いゆえ、そう感じたのかもしれないが)ので、この明るさ、全体的な白っぽさには面食らった。とはいいつつ、宍倉さんの渋さは相変わらず。以前の店では雇われ板長で、仕入れの原価率等にもチェックが入ったが、「割烹 宍倉」はオーナーゆえ、自分の裁量で決めることができ仕入れに気合が入ります、との談。「割烹 宍倉」では「百千」より格段に素材はよくなっていると胸を張る。

座るなり仕入れにまつわる話をうかがって期待感は増大。
そんな「割烹 宍倉」の料理とは、無骨なまでの潔さ。
決して王道とは言えないまでも、ずっと板場で地道に鍛え続けてきた技術を見事に昇華させたストーリー。訪れた日もそうだったが、まさに男同士が似合う店。

そして、男たちの期待にこたえるべく地酒のラインナップはなかなか巧み。業界に長いだけあって酒のそろえ方にも主張と年季が入る。しかも、杯を重ねるために仕組まれたコースといっても過言ではないほど、料理は隅々まで酒と語り合う。〆のご飯に至ってもなお、体は酒を欲していた。

こうして完璧にできあがった二人を温かく迎えてくれるであろう歌舞伎町。「割烹 宍倉」よりさらに硬派なバーで、ハードリカーに切り替えたのだった。

「割烹 宍倉」
●東京都新宿区歌舞伎町2-20-11 玉野ビル 2F
●03-3207-5804
●18:00〜24:00LO(月〜金)、〜22:30(土祝)
●第3月休み
●日曜日は前日までに予約があった場合のみ営業
http://www.posh.jp/t2/ex/hp.php?w=az1knnjgwc
posted by 伊藤章良 at 12:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 日本料理 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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