いとうあきら イベントの企画・運営・演出を本業とするも、無類の食べ歩き好きが高じて“食べ手”の視点で店や料理を紹介。過去の書き手になかった大人の切り口で飲食への愛情を示した。著書に『東京百年レストラン(T〜V)』。

2011年05月01日

(43)恵比寿「アルマ」

応援のつもりが元気をもらった

東北がテーマのイタリアンバー

4年ほど前、宮城県は仙台市に本拠地を置く飲食会社が、恵比寿から渋谷方面に向かう明治通り沿いに「アルマ」というイタリアンバーをオープンした。この辺りはかなり頻繁に歩くので、開店当初から存在を意識していたものの、店の外観から放たれる雰囲気は、いかにもレストランのヒットメーカーが企画・デザインしました的匂い。ぼくの場合、そういった臭気が一番苦手なので、「ここはちょもらんま酒場じゃないよね」とかひとりごちながら毎回通り過ぎていた。

そして2010年夏、同じ明治通り沿いの「アルマ」の少し恵比寿寄りに「ビストロエビス」がオープン。一見、似たような外観ながら「ビストロエビス」にはプロの考えそうな「あざとさ」が感じられず、その素人的手作り感に吸い寄せられて、しばし「アルマ」の存在を忘れていた。

ところが先日ある方からお誘いを受け、「アルマ」に行く、ということになった。宮城県からの野菜や、七ヶ浜や塩釜、相馬など三陸を中心とした新鮮な魚介を使った料理をウリにする当店にとって、東日本大震災は最大の痛手である。食材が入らないという物理的な問題はもちろん、仙台出身の店であるゆえ、スタッフの心のケアや本拠地の救援など、きっとさまざまな窮地に直面し乗り越えてこられたことだろう。

そんな心からの応援の気持ちもあったけど、信頼できる今回の主催者によると、実にいい店、らしい。外からの眺めや勝手に決めつけた匂いだけで判断していた過去を反省し、今までの時間を取り戻すつもりで店には一番乗りをした。

だが実際に食事を始めるまでは、悪い予感は消えていなかった。メインダイニングの、計算され尽くしたような木造り感とオレンジの照明。そして赤いカーテンで仕切られた怪しげな中2階。まさかあそこに案内されるのではないだろうなと訝るものの、店の雰囲気とは真反対の明るくステキな女性スタッフによって、カーテンの裏へと通された。

ダイニングを横切ったときも気づいたが、そのカーテンの奥に入って、この店はなんと男性客の多いことかとビックリ。イタリア料理&ワインを標榜する店でこんなにも男性比率が高い場面はあまり経験がない。

一番乗りはしたものの、すぐに息苦しくなって化粧室を探す。すると中2階から降りる階段の要所、そして化粧室への導線にも、先ほどとは違う、若く溌剌とした女性スタッフに親しげに声をかけられ、トイレに行くのが少々恥ずかしくなる。

メンバーが揃って食事スタート。まずはバーニャカウダと焼き野菜。これが相当にウマイ。東北から食材が来ないので西の方にて美味しい野菜を懸命に探しているそうだが、基本的に食材の目利きに優れるメンバーなのだろう。また、そのように説明するサービスの真摯なまなざしにも、野菜の鮮度以上に心を打たれる。

続いてソムリエとおぼしき方に、色々とワインの要望を伝える。何本が携えテーブルに並べるが、どうもこちらの要望に答える種類ではない。まあいいか、とオススメをオーダー。そのワイン自体はぼくの好みでまったく文句はないんだけど、1本目なので軽めでとお願いしたのに、すでにかなり重め。

そんなこともあったので次にリストから選ぶと、ことごとく品切れという。ワインの在庫も震災の影響とは思えないものの、逆に数少ない在庫のなかで必死に客の要望を叶えようと説明に熱が入るソムリエールに感情が移入されてしまい、個人的な要望など二の次になる。

魚介の炭火焼も名物。残念ながら三陸沖ではないわけだが、良質でしかも火の通し方焦げた皮の香ばしさ加減など、厨房からのメッセージも、熱意溢れる女性スタッフ同様に、ひしひし伝わってくる。

日付が変わって店を辞するころ、ぼくたちはほぼラストな客。にもかかわらず、接客を担当する女性3名がひとりも欠けることなくエントランスから外に出て、帰路につくぼくたちの背中にずっと視線を送ってくださった。

不遜にも応援の気持ちを携えての訪問だったが、幸せで元気になったのは逆のぼくのほうだなと、心と頬を赤らめながら明治通りを歩いた。

alma.jpg
アルマ
東京都渋谷区東3-15-6 百百代ビル 1F
●03-5468-5737
●18:00〜翌2:00
●月休
posted by 伊藤章良 at 14:00| Comment(0) | TrackBack(0) | イタリア料理 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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