いとうあきら イベントの企画・運営・演出を本業とするも、無類の食べ歩き好きが高じて“食べ手”の視点で店や料理を紹介。過去の書き手になかった大人の切り口で飲食への愛情を示した。著書に『東京百年レストラン(T〜V)』。

2011年04月01日

(41)渋谷「リベルタン」

フランスのエスプリを蓄えた

大胆な“男メシ”ビストロ

3〜4年前だったか、代々木上原にDJブース付きのビストロがオープンしたとの情報を得た。フランスの大都市には多少そういった店もあると聞くが、東京では初らしい。店名を「ル・キャバレー」といった。

なんとなく、DJブースとビストロってどっちつかずな第一印象だったし、妙齢の女性にキャバレーに行こうよとも誘いにくい。「ル・キャバレー」の訪問期待度はどんどんと他店に先を越され、ぼくの未訪リストでは下がるばかりたったものの、ある信頼できる筋から、実は料理がとてもいい、というウワサを聞いた。

それではと、さっそく訪問。代々木八幡から上原へと通じる一本道。ポツポツと好みの店やバーがあるエリアで「ル・キャバレー」の場所は充分に把握していたものの、思った以上に狭い空間。どこが厨房かもよくわからない。しかも、DJブースはまったく形骸化している様子なのに、スタッフは、ビストロというよりはまるでDJのごとく、ヒップホッパーな面々ばかり。

にもかかわらず、板書されたメニューと分厚いワインリストは妙に充実している。フレンチ熟練者ではないと、なかなかメニューを解読したりワインをチョイスすることは難しそうだ。レストランとしての強い主張が出ていて、決して客に対して媚びるタイプではないようだ。

おー、いいねえ。

そして、その後供された料理もワインもすべて想像以上だった。
そこで、およそDJチームの一員としか思えない紫藤喜則シェフも初めて知った。

場所柄も含め「ル・キャバレー」の熱心な客ではなかったけど、それでも紫藤シェフが外苑前の「レジドア」(今は閉店)に異動したことを知り、そちらにも向かう。相変わらず料理人らしからぬ飄々とした青年が作り出す皿の数々に、ウマくてしかも大量であることを必須とするぼくにとっては、頬を緩めざるを得なかった。

その後、「レジドア」は閉店したそうだが、そういった寂しい話は全く耳に入らず。いっぽう、シェフの紫藤さんが渋谷に「リベルタン」なる新店をオープンしたとの朗報は、「葡呑」のオーナー中湊さんを通じてバッチリ知った。

渋谷から裏原宿に続く、キャットストリートと呼ばれる道。その渋谷側の起点辺りに「リベルタン」はある。ロゴはレストランらしからぬし、外観もブティックのようで、うっかりすると通り過ぎてしまうが、そこは店内の賑わいを感じてキッチリ引き戻される。

「リベルタン」。それにしてもカッコいい店名だ。デカダンスな感じがフランスっぽいうえ語感や響きも完結。昨今のややこしいフランス料理店名と比べても、すぐに覚えられる。よく今まで同じ名前のレストランが東京になかったものだ。まさにそんな冴えた言葉の印象をそのまま具現化するような、2人の男が「リベルタン」には待っていた。

店内の入るとそのままダイニング。一段上がって厨房を囲むようにカウンター席がある。厨房にはDJ(料理人)とおぼしき男一人。ターンテーブルを回すようなノリでフライパンを振ったりまな板を叩いたり。そしてサービスの彼は、対照的に人懐っこい笑顔でフロアを走り回る。

メニューは店の一番奥の壁に書かれ、ワインはカウンターに並んだものから選ぶ。はっきり言って、かなりわかりにくい。でもいいや。そんなことより、少しでも早く"男メシ"にたどり着くのだ。

そう、「リベルタン」の料理は、まさに"男メシ"と呼ぶにふさわしい、大胆かつ豪快ながら、きちんと隅々までフランスのエスプリを蓄える。リエットを頼んでみると、チーズケーキ大のものが3個分ぐらい出てくる。サラダも普通なら4人前だろう。シュークルートやハンバーグに至っては、過去に日本の一流レストランにて出会った皿では最大級。でも、食べ飽きることも見飽きることもなく、少しずつ減っていくのが悲しくなるぐらい、後を引くウマさだ。

ワインがもう少し充実するとなあ、とか、DJ風な割には意外と店内に流れる音がよくないなど、気になるところもある。でも、これから幾らでも手を加えることのできる点ばかりだと思う。まずは、待望久しかった男メシビストロの誕生を素直に喜び、そしてメニューを全制覇すべく食べまくるのだ。

「Libertin(リベルタン)
libertin.jpg
●東京都渋谷区渋谷1-22-6伊藤ビル1階 
●l03-6418-4885
●19:00-26:00
●日休

posted by 伊藤章良 at 09:17| Comment(2) | TrackBack(0) | フランス料理 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
昔、よくAllAboutの伊藤さんの記事を拝見していました。社会人デビューした9年前、両親にコンコンブルでご馳走したりしたのも伊藤さんの影響です(笑)
今日「リベルタン」で検索して久々に伊藤さんのレビューを見ましたが、案の定非常に行きたくなってしまいました。写真がずらずらと並ぶ昨今のブログレビューもわかりやすくていいですけれど、文章で「美味しそう」「行ってみたい」と思わせる力、さすがですね!
これからも素敵なレビュー、楽しみにしています。
Posted by こむ at 2011年04月07日 12:35
こむ様

ウレシイメッセージありがとうございます。また、AllAboutのころから読んでいただいていたとのこと、大変光栄です。

今も、こちらでコツコツと書いていますので、ぜひ「クーチャンネル」共々、よろしくお願いします。
Posted by 伊藤章良 at 2011年04月07日 16:27
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