いとうあきら イベントの企画・運営・演出を本業とするも、無類の食べ歩き好きが高じて“食べ手”の視点で店や料理を紹介。過去の書き手になかった大人の切り口で飲食への愛情を示した。著書に『東京百年レストラン(T〜V)』。

2011年01月15日

(37)銀座「ぎんざ 一二岐」

銀座の離れに花開く

“力強い”日本料理

あけましておめでとうございます。

今年も、月二回のペースでゆっくりと続けていきたく思っていますので、どうぞよろしくお願いします。

年初め、ということもあり、まずは日本料理の話題から。

話はさかのぼるが、今年のお節は、京都の「御料理はやし」に求めた。

「御料理はやし」は大変すばらしい料理店であるが、特に東京の客には手厳しく、この店の最高の実力を知るには、まずは関西に住み、そして相当通わなければならないように感じている。

以前、ぼくの横にいた東京からの客は、どこの店でもやっているだろう雰囲気で、お造りの魚の産地を問うた際、店主は馬鹿丁寧に、すべての魚の産地はおろか、添えられたツマや葉物、わさびや皿の産地までも延々と説明。その後に「私はプロで、そのプロが目利きした食材でございます。産地などお気になさらなくても、常にその時期の最高のものを入れております。どうぞご安心ください」と皮肉たっぷりに言った。

残念ながら、東京からの客はその店主の言葉を京都一流の皮肉と理解するには至っていない感じだったが、それこそが京都の洗礼といえよう。

ぼくは、「御料理はやし」で東京から普通に食事に来て、他の常連客が食べているものと同じクオリティのものをいただくには相当の時間を要するなあと感じていたが、機会あってお節を頼むことができた。一斉に作るお節なら、東京の客として軽んじられることもなく、他の地元常連客同様に「御料理はやし」の真の実力が見えるというものだ。

そして、その予想はストレートに当たった。箸を動かすたび、驚きのあまり吸い込んだ息の吐き出すタイミングを失うほど感激した。香ばしいものは香ばしい、酸っぱいものは酸っぱい、甘いものは甘い。それ以外の味がしない。針の穴レベルにまで焦点が来ている。当たり前だが、当たり前を何のてらいもなく堂々と表現する。極めて整然と幾何学的に並べられたお重の中から、料理人のしてやったりという「どや顔」を垣間見る。

化学調味料以前に味覚を確立した、ぼくのもっとも信頼する舌の持ち主、つまり母をも、一口、一口ごとに唸らせ、逆説的だが、齢80歳を過ぎる母をして「もう、死んでもええわ」と言わせた。

やはり京都のレベルは別格だ。今回のお節で、悔しいながらもその点に関する認識のゆらぎは微塵もなかった。では東京の和食店に京都とは違う個性は見いだせるのか。というと、ひとつ思い当たる点が個人的にはあった。それは「力強さ」である。

今回の「御料理はやし」は、お節という仕出し形態ゆえ、料理は落ち着き、いい意味で枯れているのも当然といえよう。ただ、京都にてカウンターで食する機会と比較しても、東京のイマの日本料理店は力強いなあと頼もしく思う。

一般的には、フレンチやイタリアンの力強い料理に疲れて、和食でも・・・となるのが普通だ。ただ同じ和食と接する場合にも、力強いものを食べて、パワーをもらいたいとする機会もしばしば訪れる。

東京と京都を比較した場合、京都の和食店は、それこそ他の日本料理店のみがライバルだが、東京の場合は、鮨、天ぷらなども同等の客単価で名店がひしめくため、どうしてもそれらとも競合せざるを得ない。つまり、鮨・天ぷらなどのコアなカテゴリ勝負の店と対抗するためにも、東京の日本料理店は力強くあるべきなのだ。

そんなニュアンスで、最近印象に残った店がいくつかあるが、代表格は銀座の「一二岐」だろうか。

「一二岐」は「いぶき」と読せる。これは「息吹き」と引っかけてのネーミングでとても秀逸だと思うと同時に、店名に漢数字を入れるのが若い和食の料理人の間でハヤリなのかな、とも感じてしまう。

場所は銀座。店名も正式には「ぎんざ 一二岐」とするが、いわゆる銀座ではない。住宅街とはいわないまでも、夜はほとんど人通りもなくなる銀座の外れである。ゆえ、立地の妙はすばらしく、最寄駅から店までの夜道のアプローチもなかなか色っぽい。

階段を地下に降りる。スペース的には銀座のプライドを捨てておらず若干の閉塞感は否めない。というか、カウンター側(客席側スペース)に比して厨房の比率が大きいように感じた。これは悪い意味ではなく、できるだけ広い場所で伸び伸びといい料理を作っていただければ、座って食べるだけの客は本望だ。

将来的に変化をすることは承知でいうなら、高知の食材にスポットを当てて多用している点がとても面白い。当然ながら「いごっそう」を目指すわけではなく、東京の料理店の中でも塩はかなり控え目だ。豪快な食材を繊細に仕上げていく技術力は若いながらも確立されていて、そんなところが力強さを見出す所以なのかもしれない。

加えていえば、狭いダイニングスペースで孤軍奮闘する女将さんも、たいそう魅力的である。いったん店の外に出て化粧室に行く無粋さも、彼女の導きならいっこうに苦にならない。それでいてサービス料をとらないので、支払の段には、意外なほど安価に感じる幸せも加わることを約束しておこう。

「ぎんざ 一二岐」
ibuki.jpg
●東京都中央区銀座2-14-6第2松岡ビル B1F
●03-6278-8110
●日休
posted by 伊藤章良 at 09:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 日本料理 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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