いとうあきら イベントの企画・運営・演出を本業とするも、無類の食べ歩き好きが高じて“食べ手”の視点で店や料理を紹介。過去の書き手になかった大人の切り口で飲食への愛情を示した。著書に『東京百年レストラン(T〜V)』。

2010年11月01日

(33)表参道「レフェルヴェソンス」

日常食を取り入れた遊び心の現代フランス料理が

日本人にどこまでうけるか?

10年ほど前、西麻布の奥の奥、正確に言うと、旧フジフィルム本社の裏に「サイタブリア」という尖った店がオープンした。「尖ってた」というのは、店の内装や雰囲気だけではなく文字通り料理も尖っていた。

「Sex and the City」の撮影に使われるほど当時のニューヨークで人気絶頂だった「Gotham Bar & Grill」を模して、料理を尖らせるというか高く高く盛り付けるテクニックを取り入れ、ニューアメリカ料理の今をトウキョウに伝える数少ない貴重なレストランといえた。

エントランスには、少々シェラトンホテルのロゴに似た不気味なほどデカイ「S」の文字が配され、店の性格上、客の半分は外国人。交通至便とはいいがたい立地ながら、ひろいダイニング、地下の怪しげな個室に加え、脇にシガーバーも設けるほどの大箱ながら、いつも席が埋まっていて、東京の他の店には例をみないスノビッシュなざわめきも楽しむことができた。

ヒタヒタと近づくネオアメリカンの脅威に気づかないヨーロッパ偏重の日本の飲食店やマスコミをわき目に、「サイタブリア」は孤高ともいえる立ち位置をくずさず頑張っていた。ぼくは仕事の打ち上げや壮行会など、オフィシャルな食事会にも利用し、この店の面白さを口コミで伝えてきたつもりだった。

ただ、最近の「サイタブリア」は、ニューアメリカ料理をさらに極めるというよりは、広いダイニングかつ隠れ家的な利点を生かした結婚式や外国人向けパーティ需要の店として様変わりし、いつしか訪れる回数も減っていった。

そしてついに、2010年9月「サイタブリア」は閉店し、新たに「レフェルヴェソンス」という現代フランス料理店が誕生した。どこかのブログで「レフェルヴェソンス」は元結婚式場の後にできたと書かれていたのを見かけたが、「サイタブリア」もそこまで落ちていたのかと思うと、日本におけるニューアメリカ料理の衰退を同時に感じさせる。ただ、90年後半から様々に奇抜な料理を創造し続けていたニューアメリカ料理も逆にヨーロッパのレストランがその手法を取り入れるといった、「enjoy」や「surprise」のお株を奪われる事態ともなっていて、世界の料理の先端はすっかり垣根のないものとなっていることは確かだ。

まさにその例にたがわず「レフェルヴェソンス」のシェフは、ロンドン郊外にあるミシュラン三ツ星店「ザ・ファットダック」の厨房にいた人物。特に最近の傾向として、ヨーロッパのレストランは日本人の料理人を厨房のそれなりのポジションにおいて、彼らの潜在能力や技術を使おうとするが、パリの三ツ星レストラン「アストランス」に在席し、日本に凱旋した「カンテサンス」の岸田シェフなどと同様のケースに感じられる。

そして「レフェルヴェソンス」では、修業先の「ザ・ファットダック」が好んでやっている、ジャンクフードや目玉焼きのような日常食の形を借りたギミックな手法にて、コース料理の幕が開く。

それは、筒状の紙のパッケージに入った「こどもの日の思い出〜ジ・アップルパイ」という料理。メニューが英語というのもイギリスのレストラン出身者らしいが、ファストフードで100円程度で売られるチープな包みをまとったもの。ファストフードのアップルパイ同様、紙のケースを手に持って、中身を引き出ししながら食べる。ファストフードではケースごと電子レンジで温められるように工夫されたであろうやり方を、客単価20,000円のレストランに持ち込む大胆さ。ただ、この遊び心を日本人の客がどの程度受け入れるかどうか。これを受け入れられないのが日本の客の限界、ともいえる気もするが。
もう少し希望を言えば、その紙包みに店のロゴを入れるなど、さらなる工夫が欲しかった。あの単純な赤さは、こどもの日の思い出ではなく、現在の世界的ファストフードチェーンを想起させる。

メニューは、フランス語の光と陰。野菜中心の料理と魚・肉の料理との説明を受けるが、野菜中心の料理にも魚も肉もあり、その言葉上の違いはあまりよく分からなかった。

前菜以降の料理は、真空低温調理のオンパレード。どのように火を入れているのだろうかと悩んでしまう半ば化学実験のような野菜、魚、肉と続く。見た目、ナイフを入れた感じ、そして口の中で咀嚼する瞬間、すべてに違う顔を見せるカブ、内臓として機能していたことが理解できないような美しいフォアグラ。そんな中で普通にポワレされたホタテにやたら驚いたりする。

どの皿も想像を超えた創造力を見せつけながら、料理としては意外にスーッとナチュラルに入ってきたし、低温調理のふにゃふにゃ感をウマイとするか老人食のようだとするかはギリギリのところだが、ぼくは前者に軍配だった。

ただ、やっぱり残念なのはあまりにも広すぎるダイニングだろうか。エントランス付近は変わったものの、結局「サイタブリア」時代とほとんんど変わらない印象のダイニングに、「ルミエール(光)」や「オンブル(陰)」といったタイトルの料理が親しむとはあまり思えない。その点が内装を含めた統一感のある「カンテサンス」とは違うところだろう。

一品一品に相当な手を加えて作っていることも分かるので、逆にパーティ需要に向くとも考えられない。なかなか今後が楽しみなレストランではあるが、将来をどのように切り開いていくのか、ちょっと不安な気はする。

レフェルヴェソンス
LEFFERVESCENCE.jpg
●東京都港区西麻布2-26-4
●03−5766−9500
●12:00〜14:00LO、18:00〜21:30LO
●月休

posted by 伊藤章良 at 23:01| Comment(0) | TrackBack(0) | フランス料理 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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