いとうあきら イベントの企画・運営・演出を本業とするも、無類の食べ歩き好きが高じて“食べ手”の視点で店や料理を紹介。過去の書き手になかった大人の切り口で飲食への愛情を示した。著書に『東京百年レストラン(T〜V)』。

2010年08月01日

(30)赤坂「龍滕(ロンタン)」

暑さを吹き飛ばす上質の四川料理を

まだ空席が目立った穴場の店で

こう暑いと、ヒーヒーと唸るほど辛いものでも行きたいね、みたいな話になる。辛い食べ物の代表といえば、タイ料理・インド料理、そして中国は四川料理あたりに考えは至る。ということで、今回は四川料理の店を取り上げてみたい。

誤解を恐れず言えば、フランス理やイタリアの料理は、コロッケやトンカツのごとく日本風にアレンジされたり、分厚いピザのようにアメリカの外食産業を経由して日本で定着した時期があり、オリジナルにぼくたちが迫れるようになったのは、ついこの30年ぐらいのようである。

ただ、30年での成長と変化は極めて激しく、今やすでに本国を凌ぐイキオイで、良質かつクリエイティブな料理を東京で体験できるようになったのは、ココに暮らすひとりとして喜ばしい限りだ。

いっぽう中国の料理はどうだろうか。日本に近い、広東・上海・北京エリアならば大量に本場の料理人が渡ってくることもあり、八宝菜や酢豚といった昔ながらの和風中華から、よりリアルな料理が味わえるようになっている。

そのなかで、中国四大料理のうち大陸の奥地である四川料理は、他と比べあまり深く日本の風土には馴染まなかった。しかし、鉄人シェフ陳健一の父であり東京で本格的な四川料理店を開いた陳建民が、麻婆豆腐や回鍋肉、坦坦麺といった代表的な四川料理を日本人にも食べやすくアレンジし、料理教室などでレシピを伝えた結果、市井の中華料理店でも陳建民風を出すようになったといわれる。エビチリとの愛称で親しまれるエビのチリソース煮も、もともとは「乾焼蝦仁」(カンシャオシャーレン)なる四川料理を陳建民がアレンジしたものだとそうだ。ぼくがホテルで勤めていた30年ぐらい前は、陳建民のレシピでありながら「乾焼蝦仁」と客に言えと、料理長が説明していた記憶がある。

ただそれは、スパゲティナポリタンやマカロニグラタンなどと同様に、本国にありそうで決して存在しない、日本独自のアレンジ。そして四川料理についても、ようやく最近になって食べ手はその違いに気づき、いわゆる日本アレンジではない本場に近い四川料理店の需要が急速に増え始めた。

今回紹介する「四川菜 龍滕(ロンタン)」もそんな中のニューフェイス。いかにも中国料理店らしい珍しい店名である。藤の草かんむりがない「滕」という文字を初めて見たような気がするが、普通にパソコンでも出るのに二度驚いた。

住所は赤坂。最寄り駅は大江戸線の六本木となろうか。位置的には東京ミッドタウンの裏に当たる。上手にミッドタウンの中を抜けていく道をたどれば、そこそこ涼しいエリアで距離は稼げるが、それにしても少し遠く、店に着くまでに汗だくとなる可能性は高い。ただ、それをおしても訪ねる価値がある、と確信する。

ミッドタウン側から坂を下り続けるとすでにあたりは住宅街。ようやくたどり着く目的のビル以外にほとんど飲食店はない。そしてこの不思議なビルは、地下、1〜3階、すべてが飲食関係らしく、しかもいずれも中国料理に関係している模様。「龍滕」のウェブサイトによれば、オーナーは台湾の会社らしい。

台湾の経営者による四川料理か・・・。と若干不安になりながらも、ウェブで予習した「龍滕」のメニューには、「宮保鶏丁」「水煮牛肉」など四川料理の王道がずらずらと並んでいて、餃子もエビチリもスブタもない潔さに覚悟を決めた。

地下に入ると、ここは以前ダイニングバーだったんだろうと思わせる広々としてモダンな造り。奥のコーナーには、天井からプロジェクターも吊られ、中国のテレビ番組ではなく環境映像が流れている。四川四川と気合を入れてきた自分には、いかにも合コンな席に案内され、ちょっと出鼻をくじかれた気分。

いっぽう厨房は、そちらも以前の店の名残りだったのか、ガラス張りのオープンキッチン。シャカシャカと炒める中国料理特有のイイ音がタイミングよく聞こえてきて、音だけでお腹や舌が敏感になってくる。メニューが渡されるやいなや、すでにほとんど決まっている料理名を次々と(まるで暗記してきたかのように)告げてしまった。ああ、料理が待ち遠しい。

味はまさに期待通り。赤面するぐらい食欲を感じてしまう香り、望んだままのホット加減、そして、花椒による舌の痺れ具合もバツグンの心地よさだ。

しかも値段が驚くほど安い。前菜類は4人で取り分けても丁度いいくらいの量があって、すべて千円以下。肉や魚のメイン料理も大半が千数百円である。久しぶりに、すごいコストパフォーマンスだなあと、テーブルを囲んだ一同関心しきり。

そして最後に。
確かに最寄り駅からは少し遠いけど、こんなに素晴らしい料理店なのに(今のところ)まだまだ空席が目だつ。昨今の飲食店に対する情報の偏りには情けなくて天を仰ぎたくなるが、ここまで情報の狭間に埋もれてしまう店では決してない。

安くておいしくて清潔な空間で、ワイワイと暑気払いをされたいなら、2010年夏、最右翼な店のひとつとしてぜひオススメしたい。

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四川菜 龍滕
●03-3560-1512
●東京都港区赤坂6-19-46 I.C.O.Kビル B1F
●11:30〜17:00、18:00〜23:00
●日休

■■
毎度お読みいただきありがとうございます。
まことに勝手ではありますが、8月15日アップ分は、
夏休みということでお休みをさせていただきたく、よろしくお願いいたします。
リフレッシュして、9月よりますますガンバリます。
                         伊藤章良
posted by 伊藤章良 at 09:18| Comment(0) | TrackBack(0) | 中国料理 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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