いとうあきら イベントの企画・運営・演出を本業とするも、無類の食べ歩き好きが高じて“食べ手”の視点で店や料理を紹介。過去の書き手になかった大人の切り口で飲食への愛情を示した。著書に『東京百年レストラン(T〜V)』。

2010年05月01日

(24) アーリア

超人気店から受け継がれた

“香りの料理”とくつろぎの空間

予約のとれないレストラン、その筆頭といっても過言ではない「アロマフレスカ」は、現在第三期に入った。多くの方がご存知のように、最初は東京メトロ広尾駅の最寄り。明治通りから少し奥に進み、小さな橋を渡ってすぐの地下。本当に小さな小さなレストランから始まった。

そんな空間からは想像もつかない大ぶりの花が、いつも店の奥にドンと活けられていて、モダンでシンプルなダイニングに、むせるような艶っぽさを放っていた。当時のぼくは還暦を過ぎた母を連れて行ったことがあったが、強く感激するものの「こんな場所に私を連れてくるようじゃ、あかんで」と笑われたものだ。

そんな広尾の「アロマフレスカ」も、発祥の場所に別れを告げ麻布十番へと移った。同じように席数を絞り、様々に植物を配するしつらえは同様だったが、艶っぽいというよりは濃淡のある大人の空間へと変貌していった。

そして2010年春、麻布十番にても予約のとれないレストランとして名声を保ち続けた「アロマフレスカ」は、銀座へと移転。
今回は「アロマフレスカ銀座」の第一報をお届けすることも考えたが、ぼくにとって「アロマフレスカ」はすでに過去の店となりつつある。既存の超人気店をトレースするよりは、そこを巣立って次のステップへと駒を進める次世代のメンバーに対する興味のほうが尽きないのである。

話を戻すが、「アロマフレスカ」が麻布十番に移転した後(正確にはいったん品川の「アロマクラシコ」へと移るのだがその辺の詳細は省略します)、その後の同じ場所に「アロマフレスカ」のオーナーシェフ原田氏に薫陶を受けたひとりの料理人が「リストランティーノ・バルカ」を開いた。師匠から直々に身代を引き継ぐのだから、まさに免許皆伝とでも表現しようか。ちょうど「分とく山」が移転した後、同じ場所で愛弟子が「すゑとみ」を開いたのと同様である。

「リストランティーノ・バルカ」は、アロマフレスカ時代に花が活けてあった部分がカウンターとなり、店のレイアウト自体は大幅に変わったものの、一部に同じ家具が使われ、底辺に流れるスピリットが奥深くに息づいており、「アロマフレスカ」のカジュアル版的気軽さもあいまって、とても好きな店だった。

カウンターを設けたことでも気づくように、優れたワインを比較的安価で飲める環境が整い、ぼくはここで、個人的には生涯最高との印象を持ったキアンティ・クラッシコと出会った。

つい最近、たまたま前を通りかかって「リストランティーノ・バルカ」が閉店していることを知り、ショックを受けた。ところが、程なくして閉店ではなく移転のようであり、「アーリア」という新しい名前で、まさに「アロマフレスカ銀座」のオープンと同時期に恵比寿にオープンしたことがわかり、さっそく訪問。

恵比寿駅西口から駒沢通りを代官山方面に。しばらく歩いて最初の大きな十字路を右へ折れると恵比寿西公園が見えるが、その筋向いにある白い建物の4階。いわゆるペンシルビルと称される狭いスペースに建った真新しいビル。この界隈はかなり頻繁に歩くが建設中であることも気づかなかった。

このビル、1階にはカフェというかワインバーもあり、4階の「アーリア」と同系列とのこと。さらに、その1階店舗を通り抜けないとエレベーターに乗れない構造になっている。「アーリア」に向かうなら抵抗はないが、それ以外にも店舗が入っている様子で、そこのお客さんにとっては若干入りにくいのではないだろうか。実際「アーリア」に行く時も、1階店舗スタッフの視線がとても気になった。

ま、そんな枝葉末節はさておき、4階に到着するとそこは別世界。落ち着き研ぎ澄まされ無駄が一切ない空間。「リストランティーノ・バルカ」から、さらに一段上の完成された姿を一瞬で垣間見た。

ペンシルビルのサイズゆえ想像はついたが、これもアロマフレスカイズムだろうか。ダイニングは20席に満たない小スペース。恵比寿西公園に向いた窓に2卓、内側に数卓。そしてテーブルを優しく照らす美しいシャンデリア。実にゆったりと、食べる側への究極のくつろぎを演出している。

料理はこの店のスタイルが味わえるとする8200円のコースとアラカルト。アラカルトの品数は、オープン間もないからか、もしくはこの店のスタイルなのかは不明だが、さほど多くはない。でもその文字や行間を読むだけで香りが立ち上るような錯覚を受け、迷わずアラカルトから、あれこれと迷いながら料理を選択。

誤解を恐れず言えば、ぽくにとって、アロマフレスカの料理に脈々と息づいているのは「香り」そのものであると思う。それは、ガツンとイタリアらしさを想起させる匂いではなく、トウキョウイタリアンの優しいフレーバーでもない。季節ごとのそして日本の食材独特の、色までも見えてきそうに感じる香り。それこそが個性だと感じている。

それは「アーリア」でも健在だった、まず、アミューズとして出されたひと口大のアランチーニ(ライスコロッケ)。熱々のものを口に含んで咀嚼するとぐわっとフキノトウの香りが広がる。最初からやられてしまった。そして、魚介のパスタには磯の、鴨肉のラグーには獣の香りが、奥に奥にと広がっていく最新の3D映像を見ているような余韻で楽しめる。

ワインリストは皮製のブックタイプで、相当立派なもの。眺めているだけでも幸せだが、店の照明がほの暗いこともありどんどん時間が経ってしまうので、ソムリエに一任。泡、白、赤いずれの段階でも3本ほどのボトルを並べて説明を受けたが、その内容も価格的にも充分満足。加えて、最後にもうちょっとだけ赤ワインが飲みたくなり、グラスでもいいかとその日のグラスワインの説明を聞いていたら、あまりにもそそられてボトルごと頼んでしまった。

ただ「アーリア」の難点のひとつは、閉店時間が23時と早いこと。ランチ営業もしているしビルの都合でやむをえないとの説明だったが、銀座のど真ん中でもないので、せめて終電に間に合う時間帯までは営業していただきたいものだ。

遅くスタートし集まりも悪かった当方に非はあるけど、よどみないディナータイムだったゆえ、終わりを告げられたときの失望度合いも大きかった。

最後に、「アーリア」を訪れる際「リストランティーノ・バルカ」で出会った最良のキアンティ・クラッシコを見つけたならぜひ飲んでみようと決めていたにもかかわらず、「アーリア」で過ごした時間のあまりの快適さに、店を出るまですっかり忘れてしまったことを付け加えておこう。

aria.jpg

Aria (アーリア)
●東京都渋谷区恵比寿西1-12-11 Biosビル 4F
●03-3496-5050
●12:00〜14:00(LO)、18:00〜21:30(LO)…23:00(Close)

posted by 伊藤章良 at 22:54| Comment(1) | TrackBack(0) | イタリア料理 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
Podere il Palazzino La Pieve
あなたの思い出のキャンティだとは思いませんでした、光栄です。
Posted by at 2010年05月26日 21:06
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