いとうあきら イベントの企画・運営・演出を本業とするも、無類の食べ歩き好きが高じて“食べ手”の視点で店や料理を紹介。過去の書き手になかった大人の切り口で飲食への愛情を示した。著書に『東京百年レストラン(T〜V)』。

2010年04月15日

(23)千羽

呑ん兵衛の垂涎ネタとして

語り継がれるべき串焼きの名店

今さら宣言するまでもないが、ぼくはかなりの酒飲みである。
そして、フレンチ・イタリアン・鮨・天ぷらなど、柴田書店が分類するところの「専門料理」ばかりで飲み食いしているわけではなく、無類の居酒屋好きでもある。隠し持っている(といっても隠しているつもりはないけど)居酒屋系は、かなりの数にのぼると思う。

と同時に、居酒屋を探訪する好事家のブログを読むのが楽しみだ。あえてここには紹介しないが、相当数お気に入りに登録し日々回遊しながら、忙しい時期などバーチャル居酒屋気分にひたらせていただく。さすがに酒好きの同輩が描く日常は、写真+その注釈でしかない多くのグルメブログとは一線を画し、読み応えも十分。

また、こういった酒に目がない面々と、ゆるーい交流もある。お互いにブロガーや熱心なネットサーファーであることは臆面にも出さず、アナログおっさん感覚で痛飲に徹するのが流儀。そんな関係の中でも、一種のアンタッチャブルな存在価値を放つ一軒の串焼屋があった。「千羽」という。

場所は神泉。駅の目の前。といっても、ほぼ間違いなく渋谷から徒歩で向かうだろう。看板は掲げられるものの入り口は奥まっていて、一見には入りにくい拒絶感に暖簾は重い。

店内も居酒屋の居抜き風。看板に冠として書かれる串焼のイメージではない。半オープンの厨房ながら串焼屋の良心かつダイナミズムである焼き場が客の位置からは見えないのだ。しかも、ご主人の手元も隠れているのだが、「うちの串がうまいのはね、焼く直前に串を打つからなんですよ」と実況する。「多くの焼鳥店はそんな手間のかかることはせず、仕込みで串を打っておき冷蔵庫に保管します。すると串を打った穴から、旨みが外に出ちゃうんですよ」。

「千羽」のご主人、相当のご年配である(年齢は聞いたが忘れてしまった)。脱サラをし、現在の奥まった場所ではなく表通りで焼鳥店を始めた。その後界隈では知られる存在となったが、歳も歳ゆえ一度店を閉める。後述するが、こちらのスペシャリテも、教えてほしいと乞われるままにレシピを伝え、そこで出してもらうように段取りもした。ところが、常連はソレを許さなかった。

何度も何度も再開してくれと懇願され、根負けしたご主人は、常連が見つけてきた今の場所にて再スタート。真剣かつ優雅に深夜までマイペースで営業をされている。そして、そんな店主に付き合ってサービス面を切り盛りする夫唱婦随の女将さんもまた魅力的だ。

こちらのショップカードには「うわさの千羽焼」とある。そう、スペシャリテのひとつ。一見するとつくねに思える。だが、食すとニラ等の青菜を練りこんだ餅のようでもある。本来ならコレが何かと論ずるべきなんだろうけど(ご主人や女将さんからも、中身を聞かれるのが恒例となっている)、こと「千羽」では、アレコレ考える自体不要な気がする。「ああ、おいしー。なんか、なつかしい味やなあ」とつぶやき、ホクホクと食べるのだ。

他にも「カレー味の煮込み」は、過去に食べた東京三大煮込みって何? と唸らせるぐらいの個性と上品な旨みに満ちている。わざわざ「たれ焼」と称するメニューを選ぶ。ぼくの場合、甘口のタレが苦手で、お店から強くススメられない限りタレで食べることはない。いっぽう「千羽」の「たれ焼き」はぜひ。甘味を外したタレがどれほど鶏肉と絡み美味しさを増幅させるかが分かるだろう。

「お新香」を箸休め感覚で頼むと、ナスとキュウリの浅漬けを薄くスライスしショウガの千切りと和えた、ぼくが漬物の中でもっともウマイと信じてやまない逸品が出てくる。

酒の種類は多くないが厳選されている。「千羽」の料理にはやはり焼酎が合うと思うし、芋なら「なかむら」がある。普通に買うと定価の3倍は取られるプレミア焼酎なのに、「千羽」では普通に飲める。

さて、「千羽」は本来、呑ん兵衛の垂涎ネタとして語り継がれるべき店であり、ウェブ上でお店紹介として書くことが適切かどうか、今でも悩んでいる。ここに導いてくれた友人も書いてほしくないなあと伝えてきた。

ただぼくは、外食することにおいて性善説だし、多くの読者の方も同じ嗜好だと信じている。ゆえ、足を運んでもらいたいと強く願うお店については、どうしても発信したくなる。場所を確保してまで店主を迎え入れた常連の皆様には、ご理解をいただきたく……。

体力的にも大変じゃないかなあとの心配をよそに、平日の営業は、夜型人間を迎え入れる時間的な余裕がある。料理を生業とする方々も、仕事が終わって静かに一息つきつつ適度な刺激も受ける隠れ家として最適だと思う。

お会計の段になり、電卓をたたくご主人がワォと声をあげて、あわてて検算する一幕があった。おそらく合計金額がご主人の予想を超えていたからと拝察するが、それにしても2人で1万円に収まっていた。

senba.jpg
千羽
●03-3780-0285
●東京都渋谷区円山町17-2
●18:00〜翌2:00頃
●日祝休


posted by 伊藤章良 at 18:51| Comment(0) | TrackBack(0) | 焼鳥・居酒屋 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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