いとうあきら イベントの企画・運営・演出を本業とするも、無類の食べ歩き好きが高じて“食べ手”の視点で店や料理を紹介。過去の書き手になかった大人の切り口で飲食への愛情を示した。著書に『東京百年レストラン(T〜V)』。

2010年03月15日

(21)赤寶亭

東京で味わう日本料理のなかで、もっとも

西のテイストに近いと思う1軒

東京には、店名に「京」の文字をつけて京料理を標榜する料理店が多数あるが、そのほとんどは「京風」に過ぎないと思う。

ある詳しい方に聞いた話。たとえば魚についていうと、京都はしっとりしたテイストを好むので、料理店では塩を打ってから数時間寝かせる。反面、東京は弾力性のある魚が好きらしく、京都で修業経験のある料理人でも好みに合わせて短時間しか寝かせず、食感の違うものに仕上げるという。また東京の人が思い描く京料理みたいな幻想は実は京都にはなく、京料理と呼ばれるモノが何を指すのかも定まってはいないようだ。

いっぽう客も、宵越しの金は持たずその日に使い切ってしまう東京気質と、不浄とされるお金のやり取りはお店ではせず信用のみで遊び、請求が半年後ぐらいに送られて来る京都とでは、大きく食文化にも影響しているに違いない。

ただ、ひとついえる重要なことは、京都の著名な日本料理店はその多くが世襲。親から受け継いだ身代を絶やすことなく自分の子孫に引き継ぐという重要な責務を背負って日々営業されている点を見逃してはならない。つまり、ちょっとした行き違いやミスが末代まで祟ってしまうことになりかねず、信用ある常連客をひたすら大切にし真摯に気を配るさまはさすがだなあと思う。

ぼくは京都のある有名な割烹に長く通ったことがあった。通い始めて4〜5年経った頃だろうか。お支払いの段になって「今日の分は送らせてもらいまひょ」とご主人が言う。即座にその意味が理解できなかったが、それは、ぼくが店に信用され他の旦那さんと同等に認められたに他ならず、やっと京都の食べ手として第一歩を踏み出したかなあと、感慨ひとしおだった。

さて、そんなむずかしいというか自分流の日本料理解釈はこれぐらいにして、神宮前にある「赤寶亭」の話を進めよう。「赤寶亭」は、それこそ東京で食べることができる日本料理の中で、もっとも西のテイストに近い一軒じゃないかなと個人的には推している料理店。つまり、自分の故郷に一番近い東京の店である。

場所は、多少わかりにくい。
およそ日本料理店があるとは思えない、アパレルメーカーが軒を連ねる神宮前の一角。1970年代に大阪から東京に進出したコシノジュンコがオフィスを構えた通りを「東京キラーとなれ」との想いを込めて堺屋太一氏が名づけたともいわれる(これについては諸説あります)キラー通り。そこから表参道の方へ折れてしばらく行った左側に、小さな赤い看板が見つかるだろう。まさにそんなストリートのそばに、ぼくが西にもっとも近いと感じる料理店があるとは、きっと何かのえにしかもしれない。

エントランスも少々わかりにくい。
大きな門や黒い塀や厳粛な看板も一流料理店に必要なアイテムかもしれない。ただ「赤寶亭」の慎ましやかな入口は、料理店として決して居丈高ではなく、迎え入れる方おひとりおひとりをキチンと通すための配慮のような気がする。

引き戸を開けると、いつも着物姿の女性が正座で迎えてくださるので毎回気持ちが引き締まるが、これから始まる幸福への序章なんだと切り替える作業も実は嬉しかったりする。

ぼくが「赤寶亭」に行き始めたころは、全室個室対応で個室料もとらなかった。その後改装されて、今は個室と普通のダイニングに分け個室料をとるようになった。それでも「赤寶亭」の個室の一角に鎮座することがすっかりお気に入りとなっているぼくは、未だ個室以外に入ったことがない。

料理は納得できる価格に見合った真っ当なコースが数種類。一番安価でも充分にの店の魅力を知ることが可能。上を選べば選ぶほど、高級食材をでしゃばらせることなく盛り込んだ巧みな技を堪能でき、いずれも懐具合に応じてオススメ。

さらに、ぼくが日本料理を前にして気にするひとつは、料理長がどうしてこのような構成でコースを組み立てたのかという点。たとえば、店の味を決めるダシの存在をどう散りばめるか、塩加減や酸のバランスと各皿同士の統一感、どこにコース料理のピークをもってくるかなど興味は尽きない。ひと皿ひと皿に「オオッ」と目を見開くスグレものがあっても、次に出てくる料理とガラッと流れが変わってしまうと、残念に感じてしまうことも多い。

ぼくが特に「赤寶亭」ですばらしいと思うのは、流れの淀みなさである。もちろんすべての料理自体が「高み」に位置しているが、ずっとラストまで集中を切らすことなくそのポジションを維持し続ける。ゆえに、「最後のお食事となりますが」との声がかかったなら、毎回「え、もうラストか……」と、アニメ番組が終わったあとの子供のようなせつない気持ちになり、この心地よい流れが断ち切れてしまうことへの後ろ髪は相当なのだ。ま、量的にもうひと皿ぐらい多くてもいいかな、とも思うが。

お酒については、たぶん好まれる方が店側に少ないように感じるラインナップ。自分の嗜好とは若干異なるけど、選択肢は比較的多くあるのでさほどストレスは感じない。

最後に。若干ぼくらしくない話だが、「赤寶亭」は2010年のミシュランガイド東京で一ツ星から二つになった。「石かわ」や「かんだ」に三ツ星を与えるガイドゆえその真偽は言わずもがなだけど、最初は一ツ星でスタートし二年後に二ツ星、続いてさらに上を目指さんとするさまこそ、毎年どうなるかと気が気じゃないフランス本国の本家赤本を彷彿とさせる、オリジナルのミシュランガイドらしい展開とは思いませんか。

sekihotwi.jpg

「赤寶亭 (せきほうてい)」
●03-5474-6889
●東京都渋谷区神宮前3-1-14
18:00〜23:00
12:00〜14:00(木〜土)
●日曜日
posted by 伊藤章良 at 23:46| Comment(1) | TrackBack(0) | 日本料理 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
つい先日、あの辺り散策していて、赤賓亭の慎ましやかな玄関が目に止まりました。此処は大人の臭いがするぞ。。。と興味を持ち、近じか寄らせて頂こうと思っています。インターネットで調べて見ている内にこの記事に辿り付きました。
参考にさせて頂きます。
Posted by 岩倉一憲 at 2013年03月26日 13:07
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