いとうあきら イベントの企画・運営・演出を本業とするも、無類の食べ歩き好きが高じて“食べ手”の視点で店や料理を紹介。過去の書き手になかった大人の切り口で飲食への愛情を示した。著書に『東京百年レストラン(T〜V)』。

2010年03月01日

(20)ラ・レッテラ

フレンチの街(?)に堂々と挑む

ほどよい直球のイタリア料理

食に対する斬新なアプローチと熱い情熱を兼ね備えた友人夫妻と食事をすることになった。ぼくよりかなり若手なので本来ならぼくが店を選ぶ立場なんだけど、彼からのメールに掲げられた店のリストに未訪のイタリア料理店が一軒あった。さっそくネットで確認するとメチャメチャよさげ。これなら、先輩だからと主導権を握るより彼らの提案にのっかるほうが間違いない、と判断したぼくは、さっそくそこに行きましょうと返信した。

場所は神楽坂。目指すは「ラ・レッテラ」。

神楽坂といえば、昔ながらの色町風情に溶け込む日本料理か、近くにフランス政府の公式機関である日仏学院があって、神楽坂界隈を「日本の中のフランス」とイメージづけているゆえのフランス料理か。確かに歩いている外国人のフランス人率は高いんたけど、神楽坂がパリに似ているとは、ぼくには決して思えない。

ただ、少なくとも飲食店の密集地であることは確かだし、何度訪れてもぼくの血が騒ぐのもまた隠しようのない事実である。特に、チェーン店にほとんどの場所を占領された神楽坂のメインストリートから横に折れると、細い道の両側には一軒一軒すべてを訪ねてみたくなるような、小さくて魅力的な飲食店が並んでいる。そんな店群に後ろ髪を引かれながら、本日の目的地「ラ・レッテラ」に向けて進むのだった。

ところで、“イタ飯”とニックネームもできるぐらい、日本人はイタリア料理好きである。ただそんな彼女たちが「今日はイタめしぃ」との選択肢に入るイタリア料理店は、そのほとんどがトウキョウイタリアン、つまり日本風にアレンジされた料理のような気がする。

ぼくたちは子供のころから、ナポリタンやミートソースといったスパゲッティに親しみ、ひとり暮らしでデリバリーのピザを覚え、グラタンやピラフも主食としている。でもそういった料理のルーツはイタリア本国からダイレクトではなくアメリカを経由して入ってきたんだという事実は、ゆですぎのパスタや分厚いピザをアメリカで食べると容易に気づく。

いっぽう、現地で修業を重ね日本に凱旋した料理人は(もちろんそうではない方も多くおられるが)、イタリアで学んだやり方を日本でストレートに表現するのではなく個々人の創造性もそこに込めた。加えてオペレーションのやり方やサービス方法も、あまりイタリアの例にならわなかったのではないだろうか。20数年前から始まったその流れは、江戸前イタリアン〜トウキョウイタリアンとも呼ばれ、日本人、特に女性の大多数から評価されるに至った。

ただ、そんな店でイタリア料理を何度となく経験した後イタリア本国で食べると、改めてイタリアの料理ってこんなにおいしいものなんだと嘆息し、提供の仕方やサービスの流れなども、言葉は通じずとも随分と心地よく、かつ食べ手の心をつかんでいるよなあと、特に南に行けば行くほど感じることが多かった。

そして、神楽坂の「ラ・レッテラ」に話を戻す。

ここは神楽坂から脇に入り左に折れて、くだりかかった道が二股に分かれたその真ん中にポツンとあり、その立ち姿がまず日本のレストランイメージとは離れている。建物がほぼ三角形でその先端部分がエントランス。入口からすると中はとても小さな店のように感じるけど、入ってみるとそこそこスペースがあり、テーブルレイアウトもうまく工夫されている。

ダイニングには女性スタッフがおらず、ラフな服装の男性が気軽に声をかけながら料理やワインを提案し提供する。といっても決して軽すぎたりボナセーラと叫ぶ(古いかな!)系でもない。こんなところからすでに、南イタリアで体験した現地のレストランに近い姿、というかフシギな既視感があった。

料理はニョッキもリゾットもあるし南イタリアにこだわっている風ではなく、スタッフ自ら釣ってくるという鮮魚の料理が黒板に書かれていてその辺がウリのよう。生でも焼いてもパスタと和えてもOK。でもパスタは南イタリアを意識した固めのゆで加減が絶妙。また、きっちりと仕込みがされた口当たりの個性的なアンティパストも豊富で、ワインは確実に飲みすぎる。

スタッフの人数がギリギリなので料理やワインのサーブに待たされることもあり、個人的には、もう少しひと皿の量が多いと、もっとリアリティがあるよなと思う。でもイタリアを訪れたり暮らしたりした経験があって、そこでの料理やサービスとトウキョウとになんとなく違和感を持っているような方には、「ラ・レッテラ」はかなり待望久しかった店となるような気がする。実際ぼくは、その友人夫妻と皿を平らげ杯を重ねるごとに「コレだよ」と快哉を叫んでいた。

でも、この店は好みが分かれるかもしれないなあ。反面、一緒に行く人を選ぶドキドキ感や楽しみと、選ばれた自分が思いっきりハマッたときの喜びがたまらないレストランともいえよう。

食事の後半でここのオーナーと少し話す機会があった。店のオープンに際し、当初は恵比寿や代官山に出したいと思って探したがいい物件がなくココに落ち着いたという。でもトウキョウイタリアンの聖地のような恵比寿・代官山には「ラ・レッテラ」は似合わないだろう。神楽坂でよかったよ。

lettera.jpg
ラ・レッテラ
http://www.la-lettera.com/
posted by 伊藤章良 at 09:00| Comment(2) | TrackBack(0) | イタリア料理 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
ラ・レッテラ
素晴らしいお料理 嬉しいレストランですね
Posted by ryuji_s1 at 2010年03月03日 10:21
初めて、明日!妻の誕生日にラ・レッテラに食事に行きます。楽しみに明日のディナーが心待ちです!一番心配なのは妻が満足してもらえるか〜どうかですかね!?
Posted by 荒井 at 2011年02月09日 16:46
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