いとうあきら イベントの企画・運営・演出を本業とするも、無類の食べ歩き好きが高じて“食べ手”の視点で店や料理を紹介。過去の書き手になかった大人の切り口で飲食への愛情を示した。著書に『東京百年レストラン(T〜V)』。

2009年12月01日

(14)鳥芳 恵比寿

彼女と行きたい。昭和から平成へ

引き継がれる名焼鳥店の三号店

以前雑誌の誌面に、東京には「焼き」大阪には「揚げ」の食文化がある、と書いた。東京は焼鳥に代表されるように、素材を厳選し、串に刺して塩を振って焼くだけ。そのままの姿を丸裸で堂々と提供する潔さが真骨頂だ。いっぽう大阪は、串揚げのごとく、実際の食材はコロモに隠れていて見えず、しかも濃い黒いソースにどっぷりと着ける。中身に何を使っていても「ウマけれゃええやん」との発想である。

これを書いた当時、串揚げ(串カツ)はまだまだ東京で市民権を得ていなかったゆえ、ぼくのコラムも今ひとつ反響が薄かったように覚えているが、大阪の串カツがお江戸でも大ブームの今なら、もっと実感していただけたかもしれない。

ぼくは東京に来てすでに20年。焼鳥はやっぱり東京に軍配が上がると今でも思うし、東京の焼鳥店がミシュランで星を取るまでになって、話題も事欠かない(ワインを置いていれば取れるんだろ、というごもっともな説もあるが)。でも、やっぱり焼鳥は庶民の酒のつまみの代表で、焼鳥「でも」行くか、の「でも」が冴える選択肢でもある。

そんな焼鳥はもちろん大好きで頻繁に通うし、中でも目黒近辺は東京屈指の焼鳥エリアだと密かに熱い視線を送っている。おしゃれ系の焼鳥として今や東京全域を席巻しつつある「鳥よし」も中目黒が発祥。そこで修業をした二人の若い焼き手が、目黒駅の内側と外側に君臨し人気を博している。

ただ、そんなぼくが目黒でもっとも好きな店は、おなじ「とりよし」でも「鳥芳」。権助坂をはさんで本店と二号店があり、煙モクモクの狭い店内に客がひしめき合い、注文の怒号が飛び交い、大ぶりの串がドカンと運ばれる。うまい、やすい、きたない。典型的な昭和の飲み屋ここにあり、である。

この「鳥芳」に通い出したのは、鳥好きを自認するぼくとしては歴史が浅く、多くを語るのは常連の皆様にいささか失礼ではある。でもぼくが紹介したいのは、この「鳥芳」が恵比寿に出した三店目、「恵比寿店」のこと。

長らく2舗でやってこられたので、恵比寿に出店されたときにはとにかく驚いた。しかも恵比寿といっても、フラっと寄りたい駅前ではなく、駅から徒歩10分以上はかかろう広尾との中間に位置する住宅街の中。巷の人気店でいえば「賛否両論」の近く、で想像していただけるだろうか。あの界隈は、有名もつやき店のその前も庶民派フランス料理店のその後も焼鳥だったが、いずれも長くは続かず途絶えてしまった、目黒権助坂「鳥芳」の活気とは対極の静かな場所なのだ。

しかも「鳥芳 恵比寿店」は、ニューオープニングだから当然新装である。というか“まあたらしい”とでも表現したくなるピッカピカの店舗。本店も二号店もオープン当初はキレイだっただろうが、そういった物理的な新しさではなく、焼鳥店として斬新なのである。

まず、焼鳥屋といえば、鋳こした炭をパタパタとはたきつつ串の火の通りを見ながら回していく様が定番。シズル感もたっぷりだ。ところが「恵比寿店」では焼いている場所が客席から見えない。「はい砂肝」と、最初の皿が出されたときには、おもわず「えっ」と叫んでしまった。一体どこで焼いているんだろう……。また、奥にもある厨房では電子レンジのチンという音が頻繁に聞える。「鳥芳」に電子レンジ。もっとも似つかわない。

回りの客とスタッフとの会話を聞くともなく聞いていると、どうやらここを切り盛りするのは「本店」の二代目のよう。若い今風のハンサム君達が実に平成らしい自然体で働いている。焼き手の手元が見えないのもチンチンと音が聞えてくるのも、ここが目黒の「鳥芳」であることを忘れ、ひたすら居心地のいいモダン焼鳥と信じて溶け込めば全くの別世界。新しいコンセプト登場、と納得。

もちろんウレシイことに、値段もメニューもほとんど目黒と変わらない。名物抹茶割りもあるしタタキの歯ごたえのよさも抜群。つくねだけがイマイチなのも残念ながら同じ。

もしあなたがガールフレンドに、「焼鳥に連れて行って」とせがまれたら最高峰の一軒としてオススメできよう。加えて相手が目黒の「鳥芳」に行ったことがあればさらにいい。恵比寿駅からてくてくと、どこに連れて行かれるのだろうと不安になりつつやっとたどり着いても、同じ店名ながらここが目黒の「鳥芳」三号店とは決して想像がつくまい。メニューを見て、たたきを注文して、抹茶割りを飲み、若いてきぱきと動くスタッフの面影を感じ始めて、やっと「あっ」とつぶやくことだろう。

昭和から平成へ。こういった形で焼鳥店が引き継がれていくのを見るのも、2つの時代を生きた酒飲みの特権だな、とひとり微笑むのだった。

toriyoshi.jpg
「鳥芳 恵比寿店」
●03-5789-7789
●東京都渋谷区恵比寿2-5-6
●18:00〜24:30
●日休
posted by 伊藤章良 at 09:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 焼鳥・居酒屋 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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