いとうあきら イベントの企画・運営・演出を本業とするも、無類の食べ歩き好きが高じて“食べ手”の視点で店や料理を紹介。過去の書き手になかった大人の切り口で飲食への愛情を示した。著書に『東京百年レストラン(T〜V)』。

2009年09月15日

(11)ビオディナミコ

名マネージャーが手がける

ネット時代をいく感動のイタリアン


インターネットの情報サイトでレストランの紹介をしていた頃、印刷媒体や料理マスコミに未だ取り上げられていない新規オープンの店について、いち早く書く(というか書ける)ことに少なからず興奮したものである。と同時に、これからは飲食関連の情報もインターネットが主になるであろう潮流を強く肌で感じていた。

その後も爆発的にウェブの情報量は増え続け、ネット上で確認できないレストランはほぼ皆無といっても過言ではない。いっぽう、そのネタの信憑性や精度、そして表現や評価方法にいたるまでがバラバラ。取捨選択のために時間を浪費し疲弊するケースが度重なってきた。

今回取り上げる「ビオディナミコ」は9月15日現在でオープン未だ10日。そんな店に出会い、ここにいち早く精度の高い情報を提供できることで、久しぶりに高揚している。

少し時代を戻すが、銀座に「シチリアーノ」という南イタリア料理店があった。徹底してシチリアにこだわり、シチリアはエトナ山麓の店でずっと修業をしてきた料理人を起用。ぼくは大いに気に入ってシチリア在住の友人をお連れしたほどである。その店のプロデューサー兼マネージャーとして毎日ダイニングに立っていた藤巻一臣氏は、その後横浜に移って「サローネ2007」という強烈な個性のイタリア料理店を開いた。

横浜を京成立石や葛飾区金町よりも遠く感じるぼくは「サローネ」に行きそびれているが、いまや横浜一との呼び声も聞く。そして、横浜に移転後も気になる動向はずっとホームページでチェックを続けていたところ、藤巻氏は彼らの原点である「タベルナ・ポルタポルテーゼ」をリノベーション。古巣の渋谷に戻って新たな店を開くという情報を得た。

これは行かねば。気もそぞろである。

その新しい店「ビオディナミコ」は渋谷区神南。世界一鬱陶しい渋谷駅に降りるというハードルを乗り越え、喧騒を抜け渋谷の谷底から脱出するように坂を上がった一角。ガラス張りビルの2階へと非常階段のようなステップを目指す。一時代前、渋谷・原宿辺りに散在した外観。

ところがドアを開けてイメージは一新。白一色で統一された明るくみずみずしいダイニングは、照明をぎりぎりまで落としていた銀座の「シチリアーノ」とは対照的。席数は銀座同様に16席程度で、藤巻氏がすべて目の届く範囲に絞っている(これは、ゆくゆくはプラチナシート確実)。

藤巻氏の今回のテーマはトスカーナ、というかトスカーナオンリー。シェフは若干28歳。料理人を志して最初にトスカーナで修業。続いて「ヴォーロ・コズイ」でスーシェフとして3年。その間腰を痛めて厨房に立てなくなった西口氏を全面的に支えてきた。ただ「ビオディナミコ」では「ヴォーロ・コズイ」での教えは封印。徹してトスカーナ時代に学んだ料理をそのまま一切のアレンジを加えず提供する、というのが藤巻氏と交わした約束。

銀座と同じように、シェフひとり、サービス兼ソムリエひとり(実際にはもう一人おられたが)でのぎりぎり編成は変わらず。それで運営していくための工夫も斬新である。

まず、電話により店内での作業や接客が中断されないよう、予約はインターネットに限るとした。これは実に画期的なこと。冒頭に書いたレストラン情報もインターネットが主となるとの潮流と呼応している。

料理はアラカルト(ランチを除く)のみ。ただ、皿をシェアするのは原則オススメしていない。シェアするお客様に対応する時間を他に使いたい意図であろう。メニューは前菜・パスタ・メインがそれぞれ4種類ずつ。そのいずれを選ぶかなどできないぐらいにすべてが垂涎モノ。加えて藤巻氏の堂々たる解説が加わり、さらに迷いの極致に達してしまう。

そこで「ビオディナミコ」には、4名で訪問されてみては如何だろう。各自で4種類全てのメニューを注文し、相手の料理や表情を見ながら語り合うのが最高に楽しそうだ。さらに、圧倒的な存在感で「ビオディナミコ」の皿への愛情と自信を語る藤巻氏には、相当の意気込みで挑んでほしい。自分たちの食べたい飲みたい気持ちをあらゆる手段を使って藤巻氏に伝えれば、彼の大きな体からさらに魅力的な言葉を聞くことができるだろう。

それにしても、料理はメチャメチャうまかった。五感を目覚めさせる前菜の存在意義。パスタの茹で加減やソースとの絡み具合の絶妙さ。そしてメインの奥深さとガッツリ感。特筆すべきは、トスカーナゆえ肉料理が中心と思いきや、シェフの修業先は海から200キロも離れた場所ながら魚料理専門店だったらしく、魚介の扱いも繊細かつ大胆である。

ワインはもはやココで取り上げるまでもないが、トスカーナのビオワインのみの取り扱いに徹するも、その表現力たるやヨーロッパ全土から取り寄せたんじゃないかと嘆息する。

最後に、「ビオディナミコ」は昼のランチタイムから夜のラストオーダーまで休憩なしに開けているそうだ。「蕎麦屋で一杯、みたいなノリをやりたかった」と藤巻氏は語る。人気が出てそのうち1日6回転とかそんな状況になってしまうんじゃないかと、今からおふたりの体が心配である。

「ビオディナミコ」
bio (1).jpg
●東京都渋谷区神南1-13-4フレームインボックス2F
●12:00〜22:00(LO21:00)
●火休
http://www.bio-dinamico.com/index.html
posted by 伊藤章良 at 08:00| Comment(3) | TrackBack(0) | イタリア料理 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
藤巻さんがサローネから移られたのは聞いていたので、どんなお店かなと思っていました。

近いうちに伺ってみます。

でも、4名がオススメなんですね。
どうしようかな。

Posted by うぐいす2 at 2009年09月15日 21:27
うぐいす2さん、コメントありがとうございました。今まで気づかず、たいへんおそくなってしまいました。申し訳ありません。もう行かれたのでしょうか。4名がオススメですが、2名でも2回行くと、メニューは全て制覇できますよ(笑。
Posted by 伊藤章良 at 2009年09月24日 13:14
リストランテ・シチリアーノの店を持っている所ですあの時の食材は驚くほど高く毎日ソースの食材に高級ワインを2〜3本使って料理を格安で提供していたようで、そのための費用が膨大になり、何百万もの大赤字になり、びっくりしています。シェフは赤字にならなく、美味しい料理を考えるのが、一般と思います。 あれだけ、使用すれば、美味しいのは、あたりまえ。今、の店は、できるかぎり押さえいるようで。なんだったのかと、あきれています。美味しい料理の好きな私たちです。
Posted by マッシュー at 2009年11月10日 12:59
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