いとうあきら イベントの企画・運営・演出を本業とするも、無類の食べ歩き好きが高じて“食べ手”の視点で店や料理を紹介。過去の書き手になかった大人の切り口で飲食への愛情を示した。著書に『東京百年レストラン(T〜V)』。

2009年07月15日

(9) ブーカ・ジュンタ

イタリア人になりきって、ひたすら

飲み、喰らい、語り合いたい

料理が毎日作りたくて"料理人"を目指したとしたら、間違いなく食べることも大好きな料理人のはずだ。ぼくは常にそう信じ、信念を変えることなく、そんな料理人を求めて30年以上食べ歩いてきた。

もちろん、料理を作ることも食べることも"職業"と割り切る方も多いと聞く。ま、どんなシゴトでもそうだしね。でも、ぼくがレストランに行って、料理やお酒を前に食いしん坊&飲兵衛ぶりを発揮しつつニコニコしていると、同じ想いや趣向が伝播するのか、スタッフの雰囲気やシェフの応対は確実に変化し、そのたびに得も言われぬ幸福を味わってきた。

ここ「ブーカ・ジュンタ」もまさにそうだ。
この店を知ったのはある評論家のブロクだが、その時点でシェフのジュンタ氏が、テレビ番組の司会も務めた名編集者のご子息であることやフィレンツェなどで修業した経歴も知った。ただ、ぼくにとっては、シェフの料理に対する取組み方だけが最重要ポイントで、ご家族や経歴などにはほとんど興味がない。

初めて訪れた日、少々の疎外感を感じた。1カ月以上前に予約を入れていたにもかかわらず、案内されたのは入口に一番近い末席で、メンバー5名のレイアウトは4名掛けのテーブルに1名はお誕生日席。皆が揃うと、サービススタッフは黒板に書かれたコース料理をおざなりに薦めてくる。それは受け入れがたいよなあと、グランドメニューやワインリスト(少々寂しいラインナップだが)を眺めるも、5名の意見はいっこうにまとまらない。

そこでジュンタシェフ登場。「アンティパストミスト(前菜盛合わせ)でもつまみながら、ゆっくりお決めくださいよ」と言う。快諾すると、皿の絵柄も見えないほど大量に盛付けられた豪快な前菜がドンと置かれた。「おいしいねえ〜」と言いながらアッという間にたいらげたぼくたちに、ジュンタシェフは初めて相好を崩す。

前菜と2本のワインでようやくおなかも落ち着いて、戸口に近い席の不安定感にもやっと慣れると、「ブーカ・ジュンタ」は、なんだかスゴイいい店だなとわかってくる。

ブーカとは穴倉の意味。まさに窓ひとつない静謐の空間。壁面はすべて煉瓦でドーム状におおわれていて、オレンジ色のランプが絶妙な陰影を作る。奥の壁には、藁で包んだキャンティのなつかしいボトルがずらりと並べてある。

イタリアというよりさらに南、スペインやポルトガルにでも来ているようで、ここが果して東京なのかと錯覚すら感じるダイニング。モノマネに走ったり奇をてらうことなく、オリジナルを十分に熟知しているからこそできる自然な姿でのヨーロッパとの調和。その空間で、本国並みにどっさり盛られた郷土色豊かな料理が次々と出てくるのからたまらない。特にこの穴倉で食べるパスタは最高。パスタというシンプルな料理は、結局麺のゆで加減とソースを絡めるタイミングのみが勝負だという事実を認識する。

ただ冒頭から話を進めてきたように、「ブーカ・ジュンタ」は、話題のイタリアンだからとかギョウカイ人が多そうといった理由で選ぶと確実に肩透かしを食らう。この店は、イタリア人になり切って厚かましく自己主張をしながら、ひたすら喰らい、飲み、時間忘れて語らうトコロなのだ。それがしたい(できる)人になら、まさに天国だろう。

帰りがけ、すっかり意気投合したジュンタシェフとしばし歓談。そこでシェフから、初めて訪れ過去に面識もなかったぼくたちに、すばらしい貴重な提案があった。食いしん坊同士だからこそ通じ合えたと確信するウレシイ瞬間である。

junta.jpg
●「トラットリア ブーカ・ジュンタ」
●03-6808-6009
●東京都渋谷区神宮前2-3-30 神宮前ベーシックビル1階
●18:00〜23:30LO
●日祝休

posted by 伊藤章良 at 09:00| Comment(0) | TrackBack(0) | イタリア料理 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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