いとうあきら イベントの企画・運営・演出を本業とするも、無類の食べ歩き好きが高じて“食べ手”の視点で店や料理を紹介。過去の書き手になかった大人の切り口で飲食への愛情を示した。著書に『東京百年レストラン(T〜V)』。

2009年04月16日

(6) レヴェランス

ソムリエとシェフが作る

驚きと感動と高揚の時間

オーナーシェフという日本語がある。料理長が店の経営者を兼ねることを指すが、街場のレストランにはたいていオーナーシェフがいて、経営権の有無にかかわらずそう呼ばれることが有利であり美徳のようだ。ただ、最近やっとオーナーソムリエ、オーナーメートル等、料理人以外が店のリーダーを標榜する店も増え、それらはおおむね魅力的な場合が多い。

たとえば、プロデューサーとディレクターが切磋琢磨してすばらしい映画や舞台を完成させるように、店の中で圧倒的な権限を持つひとりが一方的にモノをリリースするより、卓越した見識を持ちながらモノは作らない別のフィルターを通して提供する流れは、確実に一歩先を行くはずだ。

最近ぼくが特に印象に残ったレストランは、ソムリエがオーナーを務める天現寺のフランス料理店「 レヴェランス 」。訪問前にオフィシャルサイトをのぞいたら、オーナーソムリエとシェフは同学年で同窓。しかも同時期にフランスでの修業経験あり。これはてっきり「30歳になったら一緒に店をやろうぜ!」と誓い合った間柄かと思いきや、ソムリエが面接でシェフを決めたという。こうした偶然の出会い話からスタートした「 レヴェランス 」でのディナー。驚きと感動と高揚と、30歳で独立した若い二人の力に圧倒され続けた時間だった。

メニューを開く。敏感な方だとフランス語と日本語の意味が若干異なる(もしくは日本語の方に形容が多い)ことに気づくだろう。それは、シェフの料理を試食してフランス語のメニューをもらった後、オーナーソムリエが、よりお客様に伝わりやすいよう新たな言葉を紡ぎだすそうだ。

そんなひとつの所作からもわかるように、メニュー構築にはサブとして参加しつつ、ひと皿ひと皿を目と舌に焼き付ける逸品へと仕上げる。料理以外の担当はすべて自分なのだと、内装、調度品、グラス、メニュー、そしてチーズやカフェに至るまで、持てる感性とフランスでの経験を注いで「 レヴェランス 」という箱を完成させている。当然ながら、彼が説明しチョイスしたワインの味わいは、小気味よいほどその口調の通りでソムリエとしての力量にも唸った。

夜のコースは13,000円(税・サ別)。チーズもコーヒーも別料金だが、前述のように自ら選び、盛り付け、ブレンドしたとの話を聞くうち思わずトライしたくなる。もちろん食後酒談義にも花が咲く。結果的にかなりの支払い額となったものの、あまりの充実度に高いとは感じなかった。

若い二人が、大人を楽しませるには驚かせるにはどうしたらいいか。それを、決して驕らず文字通りレヴェランス(敬意)な視点で作り上げる空間。ひとりのフランス料理ファンとして長く見守っていける場所を見つけた幸せに浸りつつ席を立った。

唯一難をいえば、店の外観がコンビニのように殺風景なこと。ここがフランス料理店と気づかず通り過ぎる人も多いらしい。お店を失礼する際オーナーソムリエの亀山さんに「パリのアルページュみたいだよな」と言うと、にこっと微笑んで「今一番ここを変えたいんです」と、ドアノブを握った。

レヴェランス
reverence.jpg
http://www.rest-reverence.jp
posted by 伊藤章良 at 14:12| Comment(0) | TrackBack(0) | フランス料理 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:


この記事へのトラックバック