いとうあきら イベントの企画・運営・演出を本業とするも、無類の食べ歩き好きが高じて“食べ手”の視点で店や料理を紹介。過去の書き手になかった大人の切り口で飲食への愛情を示した。著書に『東京百年レストラン(T〜V)』。

2009年03月15日

(5) イル・マンジャーレ

ぼくが今、

食べたいパスタがここにある

1990年代の後半だったか、パスタがウマイと評判のワインバーがあった。当時は田崎眞也氏が世界最優秀ソムリエを獲得したこともあり空前のワインうんちくブーム。誰もが意味もなく、というか意味もわからずグラスを回しているシーンは気持ちが悪かったものの、その新宿の「ヴァン・ヴィーノ・ブリュレ」に、パスタ目的で何度も足を運んだ。

ウオッチャーというほどカッコいいものではないし、ご本人を存じ上げてもいない。だけどぼくは、当時そのワインバーでパスタを作っていた鵜野秀樹氏の料理を、鵜野さんが店を移るごとにずっと追っかけてきた。彼はその後、ミシュラン三ツ星の「カンテサンス」を擁するレストラン運営会社グラナダが経営する「リストランテキオラ」のシェフとなって頭角を現す。グラナダ社長(電通出身)の手腕もあってか、家庭では絶対に作れないとする、もはやイタリア料理を超越した創作レシピを引っさげ日本のスターシェフのひとりとなった。

「 イル・マンジャーレ 」は、そんな鵜野さんが、イタリアを基点に紆余曲折しながら地球上の料理をグルーッと一周して、再びスタート地点のイタリアに戻って始めた、ぼくにとっては待望久しかったレストランである。

先にレストランを辞する際の話をして恐縮だが、その時鵜野シェフは「いやー、今までいろいろと迷いすぎました……」とつぶやいた。オーナーの意向を汲むのもスターシェフを続けるのもたいへんだが、そんな時代を経てもなお、純粋にイタリアの料理を作りたいとする彼の想いは変わらなかったのだろう。

「 イル・マンジャーレ 」のメニューは、8,500円のコースと、その日のオススメ、そしてアラカルトで構成されている。乱暴というかお世辞にも達筆といえない文字が並び解読に時間はかかるが、季節・色・温度などを様々に盛り込んだ、熟読して余りある魅力的な構成。食べる前からすでに断腸の思いで、アラカルトとオススメからチョイス。プリモピアットはどうしても絞りきれず、1人1.5皿に挑戦した。

冒頭にも書いたが、パスタが本当にウマイ。まさに原点回帰。
スターシェフの時代にはこんなおいしいパスタとはめぐり合えなかった。しかも、前菜もメインも、もちろんパスタもニンマリするほど大量。典型的なイタリアのうまいものが皿の上で堂々としていた。

ぼくはふと、多くのファンに惜しまれながら昨年末で31年の歴史を閉じた「カピトリーノ」を思い出した。似ていると書くと誤解が生じるだろう。でも、情報の渦やトウキョウに巣食う手垢にまみれないイタリアへの真摯な目線は、まさに同じ。去っていくシェフもいれば、その地点からまた新たにスタートする料理人もいる幸せを、食べ手のひとりとして噛みしめていた。

余談だか、アカデミー外国語映画賞の「おくりびと」で脚本を担当した小山薫堂さんと、彼がハリウッドに旅立つ直前に代々木でしゃぶしゃぶを食べた。最近、イケてるイタリアンはどこ? との話題では、「イル・マンジャーレ」でお互いの意見が一致したことを付け加えておきたい。

マンジャーレ.jpg

イル・マンジャーレ
●東京都港区麻布十番1-9-2ユニマット麻布十番ビル6F
●03-6459-1577
●12:00〜14:00(LO)、18:00〜22:00(LO)
●月休(4月から無休)

posted by 伊藤章良 at 10:54| Comment(3) | TrackBack(0) | イタリア料理 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
ファンになっちゃいました。価格比較に関するサイトを運営していますので、よかったらいらしてください。
Posted by のぞみ at 2009年03月15日 18:42
僕も鵜野ファンの一人です。あ、伊藤ファンでもあります。V(^^)
でも「今迄いろいろ迷いすぎましたー」と本人が言ったとしたらとても残念です。そんな迷いの料理を僕らは「すごいすごい」と評価してたんですかね。また、30年間ガンとして自分のスタイルを変えなかったカピトリーノのシェフと2年ぐらいでころころスタイルのかわる鵜野さんとは、180度違うベクトルをもってるような気がしますけど。グッチーナから独立して不動前で小さな店をやってた頃から彼はいろんな素材や調理法に挑戦していて、料理を楽しんでるなあというのが僕の印象です。今のイル・マンジャーレがいいなと思うのは、その鵜野さんが、今迄に増して楽しそうに料理しているからだと感じています。
僭越ならがちょっと感じた事を書かせてもらいました。
これからもお店情報楽しみにしてます。
Posted by UNOX at 2009年03月17日 02:20
UNOX様

コメントありがとうございました。
吉川シェフに関するご指摘は、まさに仰せの通りで、やはりこういった書き方はしない方がよかったかなあと反省しきりです。

ただ、トウキョウで主流のイタリアンとは異なり、きちんとイタリアに向いていることを具体的に表現したかった旨ご理解いただければ幸甚です。これからもよろしくお願いします。
Posted by 伊藤章良 at 2009年03月18日 12:23
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