いとうあきら イベントの企画・運営・演出を本業とするも、無類の食べ歩き好きが高じて“食べ手”の視点で店や料理を紹介。過去の書き手になかった大人の切り口で飲食への愛情を示した。著書に『東京百年レストラン(T〜V)』。

2009年02月15日

(4) 鮨 太一

鮨業界の兄貴分が教えてくれた

銀座の穴場中の穴場鮨

前回の最後に、その日の朝からしか予約を受け付けない鮨店のことを書いた。1999年のオープン当時、そこの店主は鮨業界のホープといわれたが、今や師匠弟子の関係を超えて多くの若手が敬愛する親方的存在となっている。ただ彼は、「親方」と呼ばれることのみならず、「ムラサキ」や「あがり」など鮨屋の符丁全般について客前で使うことを嫌うので、ここは「兄貴分」としておこう。

そんな兄貴は、ぼくが彼の店を辞する際「伊藤さん、こんどココ行ってみてくださいよ」とショップカードを手渡すことが時々ある。ほとんどが和洋を問わず築地で出会った料理人らしい。というか、毎日真摯に築地で仕入れている姿を兄貴が目ざとく見出したともいえそうだが……。もとより食いしん坊な兄貴の舌にもかなったわけで、行ってみて外れたことはなかった。

ただ今回は鮨屋。さすがに鮨屋は彼の師弟以外で紹介されたことはなく、「オオッ! 兄貴もそこまで面倒を見るようになったか」と、内心驚きつつ興味津々。数日を置かずして平日の昼下がりにその店を訪問した。もちろん昼から営業しているとの情報はなかったが、ダメモトだ。

名は「 太一 」という。場所は鮨の激戦区、銀座である。こちらも西麻布から銀座に乗り込んできた天ぷら店「あさぎ」の上にその店を見つけた。2階にあがりガラッと引き戸を開けると、客は誰もおらず店主はきちんと居住まいを正して扉に向いて立っていた。

正直ビックリした。カウンターに腰掛けて新聞を読んでいる、とまでは思わなかったけど、正面で店主に出迎えていただけるとは予想しなかった。そしてこの店は、兄貴の推薦のみならず間違いなく「イイ」とその場で確信。聞けば、銀座交詢社ビルにある「逸喜優」の店長を務めたのち独立したとのこと。銀座ではそこそこ長いようだ。

店主の石川太一氏は小柄で優しい雰囲気の青年(若干年齢不詳)だが、握りは荒削りといってもいいぐらいの強い鮨飯と大ブリな形、男鮨である。「逸喜優」には本店も二子玉川店にも出向いたが、少々感じが違っていた。どちらかというと兄貴の鮨に似ているかな。

もとはバーだったという店舗は太一氏が弟子と2人で切り盛りするに最適のスペース。店の奥に小さく飾られた神棚にも職人としての心意気を感じる。酒は太一氏の気に入ったもの原則1〜2種類しか置かないようだが、ぼくは賛成。鮨店に日本酒のボトルを羅列する必要はない。

なによりも(混んでしまうので書きたくはないが)、銀座ではかなりのグレイトバリューである。最近の鮨の新店は銀座にあらずとも、どこでもどんなレベルでも確実に20kは飛ぶので、バカバカしくて行く気がしない店が多いが、ココはそれ以内に収まる。

なお、昼時には澄んだ目が印象的な女将さんが着物姿で接客をされる。「夜はどうしていないの?」と聞くと、「子育てが忙しいので……」と恥ずかしそうに太一氏はつぶやいた。確かに残念ではある。でも昼にふらっと立ち寄って握りをつまむにも、穴場中の穴場かもしれない。

太一.jpg

鮨 太一
●東京都中央区銀座6-4-13浅黄ビル2F
●03-3573-7222
●(平日)12:00〜13:30、18:00〜23:00、(土日)12:00〜14:30
●無休
posted by 伊藤章良 at 23:38| Comment(0) | TrackBack(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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