いとうあきら イベントの企画・運営・演出を本業とするも、無類の食べ歩き好きが高じて“食べ手”の視点で店や料理を紹介。過去の書き手になかった大人の切り口で飲食への愛情を示した。著書に『東京百年レストラン(T〜V)』。

2009年01月15日

(3) オッジ・ダルマット

食いしん坊の料理人だからこそ

できる仕掛け

ぼくには「ここ、常連なんです」と胸を張れる店が少ない。1軒でも多くの店を知りたいゆえ、なじみを作っている時間がなかったからだろう。でも三度のメシより頻繁に外食活動を続けていると、シェフやサービススタッフと「食いしん坊同士」心が通じ合うことも何度かある。西麻布にオープン、その後恵比寿にも2店舗目を出した「ダルマット」はまさにそんな1軒である。

以前ぼくはある情報サイトに、西麻布「ダルマット」の紹介記事を書いた。そこへ150軒余り紹介した中でも、「ダルマット」は渾身の内容だったと今でも思う。もちろんぼくは単なる食べ手で、取材したりシェフの意見の代弁は一切書かない。しかし後で聞くところによると、その時の文章は「ダルマット」の平井シェフが迷い迷って一大決心で始めた新しい手法(低料金の超特大ボリュームおまかせコースや赤白ワイン飲み放題など)の、最初の公の理解者だったそうだ。

そんなシェフのもとからひとりの料理人が巣立ち、新たに「 オッジ・ダルマット 」を西麻布「ダルマット」の真上に開店。こんな形で営業すれば上下で客を奪い合うんじゃないかと心配すれば、「オッジ」もまたまた食いしん坊が喜ぶ画期的な魅力と個性に満ち溢れていた。

オッジとはイタリア語で今日という意味。その言葉通りディナーの予約は今日その日の10時からしかできない。逆にいえば、予約が困難な店として名を馳せてしまった「ダルマット」も、今日電話して席がゲットできる可能性がある。もっと加えると、予約がとれないので何カ月も前からスケジュール調整をして……、とか考えることなく、思いたったその日にチャンスが待っているのだ。ここに食いしん坊シェフとしての発想の転換がある。

もうひとつ。西麻布「ダルマット」は夜の店のイメージが強い。明け方まで「ラ・ベットラ」落合シェフ譲りのうまいパスタが食べられるとして、業界人や閉店後のバーテンダー等に重宝されている。いっぽう「オッジ」へは昼の顔を作った。深夜営業はやらない代わりにランチタイムを設けそこで夜と同じメニューも安価で提供。さらに1000円でスプマンテの飲み放題までくっつけた。もちろん昼の予約は当日じゃなくても可能だ。

平井シェフが、西麻布「ダルマット」でワインの飲み放題をやったとき、採算的にはかなりキツかったそうだ。だけど、気づけばワインの仕入先で最も多くの廉価ワインを売る店に成長。仕入先も同じ価格でどんどんといいワインを回してくれるようになったという。食材の仕入れもしかり。固定メニューにして最大のサービスを提供するやり方は今や3店舗の「ダルマット」でそのスケールメリットをいかんなく発揮している。

また、こうして店舗数を広げていく想いは仕入れだけではないことを「オッジ」のサービスとして期間限定でダイニングを手伝っている平井シェフからうかがった。それもなるほどと関心したが、ぼくは記者ではないしここには書かないでおこう。

そうそう、ぼくの数少ない「なじみ」である新橋の鮨店も、「オッジ」に先駆けその日の朝からのみ予約を受けつけるシステムにしている。食いしん坊の料理人はこうして呼応していくんだな、と密かに微笑むのも食べ手の特権だ。

ダルマット写真.jpg

オッジ・ダルマット
www.dal-matto.com/
posted by 伊藤章良 at 14:36| Comment(0) | TrackBack(0) | イタリア料理 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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