いとうあきら イベントの企画・運営・演出を本業とするも、無類の食べ歩き好きが高じて“食べ手”の視点で店や料理を紹介。過去の書き手になかった大人の切り口で飲食への愛情を示した。著書に『東京百年レストラン(T〜V)』。

2020年03月01日

(133)白金「あき山」

ありそうでない
本質を突いた日本料理店

冒頭で、少しご報告。
昨年こちらの連載で紹介した、フランスのランスにある田中一行シェフの店「Racine」が、フランスのミシュランガイド2020にて、1ツ星から2ツ星に昇格した。
本当におめでとう。
http://otonameshi.seesaa.net/article/470607676.html
田中シェフはぼくに、2ツ星を狙うとハッキリ言っていた。それは、どうしたら2ツ星に昇格できるかがある程度わかるからだろう。日本のミシュランも、そんなガイドとなれるよう改革と成長を望みたい。

さて、
先日うかがった若い鮨職人の新店で、店主から「伊藤さんのお気に入りの鮨店はどこですか」と聞かれた。プロ・アマ問わず頻繁に来る質問で、ぼくの最近の答はひとつ。「新橋のしみづか、経堂の喜楽です」。
店主ばかりか、その日の店の客全員が一瞬シーンとなって、何か問題発言をしたかなあと、少し慌てた。

「新橋しみづ」の親方は、支払いを終えて辞する際、いつも何枚かのお店のカードを下さり、最近オープンしたんですよ、とか、河岸でよく合う真面目な男なんですとか、鮨にとどまらず、さまざまなお店のレア情報をくださる。2年近く前のこと、日本料理の「あき山」も、そんななかの一軒だった。

店主の秋山英登さんは、もともと「鮨 真」での修業経験があり、「いまむら」「真」「しみづ」の店主と奥様が、揃ってカウンターに並んだことがあったらしい。秋山さんは神宮前「樋口」での厨房にもいて、体育会系で名高い樋口兄弟にも鍛えられ、「そんな程度では動じない男なんですよ」と親方は絶賛だった。

そしてぼくは、オープン間もない「あき山」に向かった。とてもおいしくていい店だったが、まだこなれていない点や多少気になるところがあったので、近々再訪しようと思っていたら、なんとミシュランガイド東京で星を獲得し、一気に予約が取れなくなってしまった。

外食産業をも蝕む新型コロナの影響もあってか、やっと予約が取れ、再び「あき山」の客になることができた。場所は、恵比寿から北里大学へと続くバス通り沿い。電車の最寄り駅から遠なので、その分落ち着いた雰囲気の漂う界隈。ぼくは、ほぼ筋向いにあるもつ焼「鳥平」にもよく通っている。

店内に入った瞬間、とても落ち着いたなあと感じた。でも、何も変わっていないという。これぞ風格、だろうか。日本料理店ながら店内の色使いが独特で、それがまた快適さを呼んでいる。料理人は、日本料理店には珍しい黒の上下。そして左利きの店主は黒いまな板も使う。

オープン当初にうかがった際、個々の料理はそれぞれすぐれているので、後は、構成や流れにもう少し経験が必要かなあと感じていた。しかし、そんな不安はまったく払拭され、絶妙と唸りたくなるぐらいの心憎い展開。生の魚介はストレートに提供せずひと手間かける工夫、春を感じさせる食材は、さまざまな技法で緩急がつく。店主もお好きなのだろう、日本酒の品ぞろえは申し分なく、さらに、それぞれの皿は優しい味わいなのに酒を呼ぶ。幸せだなあとしみじみ思いながら杯を重ねた。

圧巻は、最後の食事。まぐろのお刺身、肉のしぐれ煮、別途お椀に山盛りシラス。それだけでバランスのいい定食として完成している。料理とお酒をしみじみ堪能させた後は、お腹いっぱいになってもらおうと、店からの贈り物。ぼくの中で日本一と揺るぎない日本料理、大阪の「もめん」にも通じるところがある。

さらにその後、師匠「樋口」譲りの蕎麦も出されるのだ。こちらも穏やかなテイストの蕎麦つゆに驚き嘆息したら、たっぷりつけて召し上がっていただきたいんですと店主。「ざるそばは、おつゆと一緒に食べなさい」と母に教えられた関西人のぼくにとって、願ってもない言葉だつた。

食べる愉しみと満腹の喜び。ありそうでない、料理屋としての本質を余すところなく堪体験した夜だった。

「あき山」
●03-6277-0723
●東京都港区白金6-5-3さくら白金101
●12:00〜14:00、18:00〜23:00
●不定休
http://akiyamashirokane.com/
posted by 伊藤章良 at 14:52| Comment(0) | 日本料理 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする