いとうあきら イベントの企画・運営・演出を本業とするも、無類の食べ歩き好きが高じて“食べ手”の視点で店や料理を紹介。過去の書き手になかった大人の切り口で飲食への愛情を示した。著書に『東京百年レストラン(T〜V)』。

2019年03月01日

(121)白金台「ラソスタ」

料理人とソムリエールとのコミュニケーションから
生まれる抜群のマッチングと心地よさ


高級な西洋料理店のダイニングでは、アルコール類の仕入れからサービスまでを担当するソムリエという職業が定着した。
日本における長いワインの歴史の中で、田崎真也氏を世界最高ソムリエになり、キャリアとしてのソムリエがレストランに不可欠との認識を脈々と作り上げてきた。
英語圏の人間に対しソムリエと言っても、レストラン関係者以外には通じないが、日本では、飲食に関係なく大抵の人がその意味を理解するぐらい、すごいことである。

ところが昨今、ペアリングと呼ばれる便利で無精なシステムが台頭し、料理のメニューが出来上がったときにワインをセレクトすれば、ソムリエが常時ダイニングにいなくても足りうる事態となった。悲しいことにその多くは、専門家としてのソムリエが本当に考えているのだろうかと首をかしげるぐらいミスマッチなことも多い。さらに先月書いたように、ワンオペの高級一膳飯屋では、料理人がワインのセレクトから提供までやってしまう。料理担当の好みに合わせているだけに、それで十分な場合も多く、さらにレストランからソムリエの存在価値が薄れていく。

ただ、そんな現象を嘆く以前に、そもそもソムリエは、ワインのセレクトやマリアージュを考えるより先に酒の飲まし手であり、その役割をおろそかにしているのも価値を失う理由の一つではないかと考える。
飲まし手とはつまり、端的に的を射る説明やオススメで心地よくグラスを空け、さらに、もう一杯もう一杯と、香りや味わい、アルコール度数の変化で違和感なく杯を重ねてしまう。そんな酒飲みの懐に飛び込むサービスであろう。

そこで今回は、ソムリエの職業を全うする、飲まし手として優れた技量を持つソムリエール(女性)のいるイタリア料理店を紹介しよう。「ラソスタ」という。

「ラソスタ」は白金台。プラチナ通りから一本目黒側に寄った細い道。以前は建築設計事務所だったと聞く瀟洒な建物の地下。小さなダイニングスペースながら、素敵な調度品が過不足なく目を楽しませ、ソムリエ兼サービスを担当する女性が襟を正して出迎える。

ソムリエの話ばかりが先行したが、実は「ラソスタ」のシェフ武田正宏さんの経歴は筋金入りである。日高良実シェフ、濱崎龍一シェフを輩出した「リストランテ山崎」で修業後イタリアに渡り6年。戻って「リストランテ山崎」の5代目料理長を務めた。

料理のアイテム一つ一つはイタリアっぽい輪郭のはっきりしたテイストながら、前菜の盛付けは、日本料理の八寸のように多彩で鮮やか。小田原の海の近くでもシェフの経験があるそうで、魚に対する突っ込み具合が半端ない。力のある素材をチョイスするのは言うまでもないが、皿の上に凝縮させるというよりは、のびのびと皿で泳がせて、食べたときの客の感性が加わって完結するような構成を見る

さらに特筆すべきは柔軟性だろうか。
当初ソムリエが代わったとの一報を受けて訪問。あれこれと新しいソムリエールと料理についても会話し2か月後に再訪すると、料理が見事に変貌を遂げ硬質な輪郭の中に優しさや繊細さが見え隠れした。
それは、料理人とソムリエールとの密なコミュニケーション、つまり客の声をソムリエールが理解し厨房に的確に届けている証だ。当たり前のようで、それができておらず失望するケースは後を絶たないものだ。

飲まし手ソムリエには、飲ませるためにどんな料理を客が欲しているかという情報も、併せて厨房に伝える仕事が必須だと思う。2か月でその片鱗を見せた点にも、新任ソムリエールの潜在能力に触れた気がした。

今日は心の底から美味しく愉しく酔いたい、そんな方々には貴重な一軒となるだろう。

「La Sosta(ラソスタ)」
●東京都港区白金台5-13-14-B1
●03-3447-8934
●水休・その他に月1回
posted by 伊藤章良 at 20:47| Comment(0) | イタリア料理 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする