いとうあきら イベントの企画・運営・演出を本業とするも、無類の食べ歩き好きが高じて“食べ手”の視点で店や料理を紹介。過去の書き手になかった大人の切り口で飲食への愛情を示した。著書に『東京百年レストラン(T〜V)』。

2018年03月01日

(110)台北「漉 海鮮蒸氣鍋」

極寒の東京を離れて春の陽気の台北へ。
この時、この場所でしか食べられない鍋を求めて

2018年の2月も台北に行ってきた。
ぼくの中で、この時期台湾に行くのが毎年のキマリのようになっている。
その理由は二つある。
一つは、2月の台湾は大変に気候がいい。特に東京の極寒に比べすでに春の陽気。凍りつきそうな日本を抜け出し、つかの間の暖かさにひたる幸せ。
そしてもう一つは、この時期しか食べることのできない台湾特有の鍋料理があるからだ。

台湾には未だ日本でほとんど見ることのない鍋料理がいくつもある。そういった鍋の店は、冬の間、旧正月の期間中も含めて休まずに営業し、春夏の期間はすべて休業といった営業形態をとる店が多いのだ。さすがに台湾の夏は暑く鍋料理を食べる気分にならないからだろう。ゆえ、この時期を狙って飛ぶのである。

日本にはない鍋料理の数々を毎年堪能、といきたいところだが、実は英語も通じないローカルな店がほとんど。意外と予約の段階からコミュニケーションには苦労が絶えない。

今回の台北も、新たに発見した鍋料理店を目指すことにしていた。
「漉 海鮮蒸氣鍋」という。Facebookページがあるので予約のメールをした。もちろん中国語はできない。中国語翻訳サイトで中文を作り送付し、戻ってきた文面を改めて翻訳にかけ確認する。ところが、いくつものサイトを使って翻訳しても訳が異なり、予約が取れたのか確証できない。結局中国語の分かる友人に最終的に教えてもらわざるをえなかった。

この鍋料理、実は香港発祥のようだが、アッという間に台湾でも脚光を浴びた。きっと瞬く間に日本にもやってくるに違いない。もちろん料理も素晴らしい。でも、そんな手があったか! と膝を打ちたくなるほどオペションが斬新なのである。

自分たちは日本から予約を入れたものの、店まで行ってみると長蛇の列。予約のない人たちが並んで順番を待つ姿に、予約時の苦労がしのばれる。
台湾らしい、魚介の生け簀を観ながら店内へ。テーブルの真ん中がクリ抜かれ大きな鍋が入っている。熱源はIHだ。まずはその鍋にスープと米が投入される。その上に穴が無数にあいた薄い鉄板を載せる。薄い鉄板の上に食材を置き最後に大きな耐熱ガラスの蓋で完全密閉する。IHで鍋を温めると、スープからの蒸気で鉄板の食材に火が通る。それを独特の酸味の利いた醤油タレに付けて食べる。
蒸された食材から出た貴重なダシは、余すところなく穴から下に落ち米の入ったスープと混ざる。様々な食材のエキスが滴り落ちつつほとんどアクもない完璧な雑炊を最後の〆でいただくという趣向。

生け簀から新鮮なエビが運ばれてきた。最初に蒸されるのはエビ。スタッフはIHを操作し「フォー ミニッッ」と言って去っていく。4分待つと戻ってきて圧着してあったガラスの蓋を開けると、そこにはきれいなピンク色に蒸し上がったエビが山盛り。
香港の海鮮料理店に行くと、アミューズとして最初に出される蒸しエビ。まさにアレだ。熱い熱いと叫びながら殻をむき、フルーティで塩味とのバランスに優れた酸が持ち味のタレにつけ、一気にほうばる。ウマイ。これは止まらない。

一瞬にしてエビがなくなる。貝類が、今度は野菜共に鉄板へ。蒸しあがった瞬間、様々な香りが混ざり合って食欲中枢をさらに刺激する。オリジナルのタレは野菜にも程よく合う。

肉も、豚と牛の二種類が2回に分けて載る。豚肉はしゃぶしゃぶ風に、一方牛肉は豆苗とともに蒸し豆苗に巻いて食べる中国風の仕上げ。こうして同じ肉類でも小さな工夫だけで違った料理として君臨する。
メインはハタ。香港でいうガルーパで高級食材である。香港の海鮮料理店でもメインで一匹まるまま登場するが、ここでは切り身。あっさりとしながら弾力やうま味もあり、蒸すことでさらにプリプリ感が増す。

なんとも大量な陸海食材のオンパレードながら、あっさりと食べることができ、あっという間に胃袋へと吸い込まれていく。そしてラストの雑炊。
ただこの雑炊だけは、最初からスープに特徴的な味付けがされていて、各食材から滴り落ちたエキスがそこに隠れてしまった印象がして残念だった。

それにしても、調理場もシェフも不要。IHの特別な鍋がマストだが厨房設備はいらないので、設備投資もさほどではないだろう。調理はすべてIHが完璧にこなし、スタッフは緊張を強いられることがなく、逆にそれがのびのびと個性も発揮できて楽しい。

アイデアと工夫さえあれば、こうして新しい料理や料理店が次々と生まれてくる。いっぽう日本は、伝統的な技術や徒弟制度に頼る分、爆発的なアイデアが生まれにくい土壌なのかもしれない。
「漉 海鮮蒸氣鍋」、大賑わいだが一人の日本人も見かけなかった。ただし、店に美しい日本語のメニューがあることに驚いた。すでに日本もターゲットなのか。日本進出は、すでに彼らの青写真に描かれてるのかもしれない。

「漉 海鮮蒸氣鍋」
●115 台北市南港區經貿二路188號B棟3樓
●+886 2 2785 1995
●11:00〜15:00、17:00〜21:30
posted by 伊藤章良 at 22:24| Comment(0) | その他 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする